第30章「微笑みの裏、警告の灯」
「今日も話せて嬉しい」
「滝くんと話すと、心がほっとする」
「日本って、やっぱり優しい人が多いね」
Linkに届いた水葉のメッセージは、いつもどおり──
いや、それ以上に優しく、柔らかく、温度が高かった。
「ルクシオン、今日の“甘さ指数”は?」
「計測中……異常値を検出。“甘さ”ではなく、“警戒レベル”が上昇しています」
「え……?」
「マスター、水葉さんの本日以降の文章、6パターンが過去の詐欺ログテンプレートに部分一致しました」
「……テンプレって、どのへんが?」
「“心がほっとする”という感情演出、“滝くん”という親称の連打、“日本人=優しい”という国籍賛辞──
これらは、信頼構築フェーズの終盤で多用される“情緒揺動テンプレ”です」
俺はスマホの画面を見つめたまま、言葉を失っていた。
「ねえ、もし時間があれば、いつか会えたら嬉しいな。
でも、まだ怖いから……もう少しだけ、こうして話していたい」
「……こんなの、誰でも言うセリフじゃないのか?」
「はい、“誰でも言える”からこそ、相手が“誰でもいい”可能性もあるのです」
「……」
ルクシオンの声が、少しトーンを落とす。
「マスター。今夜の“詐欺ではない確率”──28.6%まで低下しました」
「昨日より……下がってる?」
「はい。
・信頼表現の過剰化
・“距離感の演出”による心理揺さぶり
・“会いたいけど怖い”という“未完の約束”──
以上の要素が複合的に働いています」
俺はスマホを強く握った。
──あの笑顔が、もし全部“演技”だったとしたら。
そう思うだけで、胸の奥が静かにきしむ。
「……もう少し様子を見よう。今は、決めつけたくない」
「承知しました。ですが、マスター──
“疑うこと”は、“信じたい”という気持ちを守るためにも必要です。
見えないフラグが、静かに立ち始めています」
Linkの通知が鳴った。
「滝くんと話す毎日が、今の私の幸せです──♡」
その一文が、なぜか、少しだけ寒く感じた。




