第29章「それでも、生きてきた」
昼過ぎ、Linkに水葉から珍しく長文のメッセージが届いた。
「ねえ、滝くんは、家族のことって話したりする?」
突然の質問に、少しだけ戸惑った。
話したことは、なかった。
聞かれたことも、なかった。
「うちはね、小さい頃にお父さんを亡くしてるの」
「事故だったんだ。まだ私が6歳のとき。母は、それからずっと一人で私を育ててくれた」
画面をスクロールする指先が、自然と止まる。
水葉から、こんなにプライベートな話が来たのは初めてだった。
「昼は農場、夜はスーパー。母は毎日働き詰めで、私は家事を覚えるのが早かった」
「正直、羨ましかったよ。普通の家庭が」
「でもね、母が笑ってる姿を見ると、それだけで安心できたんだ」
「──だから、私も、誰かを笑わせられる人になりたかった」
ルクシオンが、何も言わずに黙っていた。
いつもなら“感情誘導パターン”と分析するはずなのに。
「ルクシオン、どう思う?」
「……今は、判断を保留します。
感情的には、“信じたくなる話”でした。
データ上も、“虚構の作り込み”としては過剰な演出がありません」
「ってことは……?」
「本当に語っている可能性も、十分にあります。
ただし、マスター──
“同情”は、“信頼”の代用品にはなりません」
「……わかってるよ。でも」
俺はスマホを手に取り、短く返信を打った。
「教えてくれて、ありがとう。君のお母さん、強い人だね」
「そして、そんな環境でも優しく育った君も──すごく、強いと思う」
画面の向こうからすぐに返事が返ってきた。
「……ありがとう、滝くん。そう言ってもらえて、泣きそうになった」
「私ね、いつも平気なフリしてるけど、本当はすごく怖がりなの。人が離れていくのが、いちばん怖いんだ」
その言葉に、胸が少しだけ締めつけられる。
「ルクシオン、確率は?」
「……“詐欺ではない確率”、本日時点で48.6%」
「おい、そこまで来てんのかよ」
「はい。“本音”と“演技”が、限りなく曖昧になってきています。
どちらにせよ、マスターの“心”が揺れているのは、確かです」
画面の中、水葉のアイコンがじっとこちらを見つめているように感じた。
本当かどうかなんて、今はわからない。
けど、あの言葉が本物だったなら──
少しだけ、彼女に触れたくなった。




