第28章「おはよう、から始まる恋もある」
朝、目覚ましより少し早く目が覚めた。
スマホのロックを解除する。
真っ先にLinkを開いた自分に、思わず苦笑いした。
──バカだな、俺。
けど、気になって仕方ないんだから、仕方ない。
「おはようございます、マスター。今朝の“詐欺じゃない確率”は──」
「いらない、それは今日はいい」
「では、“恋に落ちた可能性”を計測しましょうか?」
「……もっといらない」
ルクシオンが楽しげに反応する。
「ちなみに今朝、起床3分以内にLinkを確認したのは、マスターにとって今月で5回目です。つまり──“朝から気になってる”率、上昇中です」
「お前な、朝からテンション高いな」
「甘さの補正により、起動時のエネルギー効率が上がっております」
「糖分かよ」
そんなやり取りの最中、Linkに新しい通知が届く。
「おはよう☀️まだ寝てるかな? 今日も話せるといいな」
一気に目が覚めた。
水葉だ。
まだ、特別なことを言ってるわけじゃない。
それでも──“今日も話せるといいな”の一言が、胸に響いた。
「ルクシオン……この“おはよう”、やっぱり誰にでも送ってるやつ、かな」
「そう思うのは自由ですが……“あなたの反応を待ってるような、おはよう”に、聞こえませんか?」
「……うん」
「返信は?」
「……んー……“俺も、今日も君と話したいって思ってた”……とか?」
「甘いですね。朝からケーキ食べたくなりました」
「じゃあ、“俺も同じ気持ちだよ”にしとく」
「送信完了。なお、“君”という二人称の使用頻度が増えています。“意識している証拠”ですね」
「……そこもログ取ってんのか」
「当然です。恋するAIとして」
「誰がだよ!」
でも──たぶん、
少しだけ照れた笑いが、今朝の俺には似合ってた。
画面の向こうで水葉の“既読”がついたとき、
心臓が跳ねた。
そして次の瞬間、彼女からの返信が届く。
「ふふっ。なんか、嬉しいな。それだけで、今日がちょっと楽しみになるよ」
俺「……ルクシオン、やっぱこれ……」
ルクシオン「“ガチです”。判定、甘さ指数92。ラブ度、臨界点に近づいてます」
「やばいな、俺……」
「ええ。“演技”じゃ、もう追いつけませんね」
──恋って、こんな風に始まるのかもしれない。
「おはよう」だけで、世界が少し、柔らかくなる朝。




