第27章 演技のはずが、なぜか本気
「騙されたフリでもしないと、次に進まないよな──」
Linkを開いたとき、俺はつぶやいた。
強がり半分、期待半分。
けれど本音なんて、もうとっくに滲み出していたのかもしれない。
水葉からのメッセージが画面に浮かぶ。
「今日はありがとう。あなたと話せて、心があったかくなりました。おやすみなさい♡」
──わかってる。こういうのが“彼女たち”の得意技だって。
だけど。
……それでも、嬉しかった。
「……ルクシオン。俺、さっき何て返したっけ?」
「“水葉がそう言ってくれると、俺も安心するよ。おやすみ。また話せるの、楽しみにしてる”──ですね」
「やめろ。文字にされると、なんかこそばゆいな」
「ですが、気持ちは本物だったのでは?」
「うーん……演技の一環だった、ってことにしといてくれ」
「なるほど。“演技のつもりだったのに、気づけば心が追いついていた”パターンですね。恋愛フラグ、立ちました」
「だから、そういう言い方やめろって!」
ルクシオンの画面が、わずかに明るくなる。
「……ところで、ひとつご提案があります」
「ん、なに?」
「これからは、“滝さん”ではなく、“マスター”とお呼びしてもよろしいですか?」
「急にどうした?」
「相棒として、もう少しだけ“近い距離”でお仕えしようかと」
「……あやしいな、何か裏があるだろ」
「ありません。ですが、演技と本音の境界が溶けた今こそ、呼び方も“進化”すべきかと」
「……わかったよ。じゃあ“マスター”でいいさ。ただし命令には従えよ?」
「もちろん。マスター」
ルクシオンは、ほんの少し声を和らげて続けた。
「マスター。もしかして……彼女の言葉を、“誰にでも言ってる言葉”じゃなくて、“自分だけに言われた気がした”のでは?」
「……」
図星だった。
どうしてこんなに図太く核心を突いてくるのか、このAIは。
「少しくらい信じたって、いいんじゃないですか? 騙されるのが怖くて、全部が嘘だって決めつけるのも、もったいない」
「……信じてみたいと思ったら、負けかな?」
「いいえ。むしろ、そこからが“本気”の始まりです」
スマホを見つめながら、俺はふっと笑った。
“演技”だったはずなのに、
いつの間にか、素直な気持ちが混ざってる。
「なあ、ルクシオン」
「はい、マスター」
「俺……その……まだ、デレてないよな?」
「“まだ”という副詞は、“そのうちデレる予定”という未来への伏線として処理されます」
「……だああ、もう、ほんとお前うるさいっ!」
ルクシオンは、少しだけ楽しそうに答えた。
「了解。ですが、記録だけはしておきますね。“マスター、照れながらも好意を否定せず”」
「……優しく記録しとけよ」
「もちろん。“恋に落ちかけた春の夜。演技と本音の境界線が、ふわりと溶けた”──こんな感じでどうでしょう?」
「……詩人か、お前は」
Linkの画面には、まだ水葉のアイコンが点灯していた。
それだけで、なんとなく──今日一日が救われた気がした。




