第26章 信じたいなら、試してみろ
Linkの通知が鳴った。
「滝くん、今日はどんな一日でしたか?」
──やっぱり、変わらない。
毎日のように送られてくる、優しい定型文。
でも、ここ最近のやりとりには、どこか“進展”がなかった。
いや、正確に言えば、進めさせてもらえない感じがしていた。
「今日も特に変わらないかな。
そういえば、この前話してた旅行の話、また聞かせてほしい」
送信。
俺は画面を見つめながら、少しだけ呼吸を整える。
信頼構築フェーズ──
そう呼ばれる期間があることは、既に調べていた。
何度も何度も言葉を重ね、“いい人”だと思わせてから、本題に入る。
それが、彼らの手口。
だったら──
こっちから“その段階”を飛び越えてやればいい。
反応で、見えてくるものがあるはずだ。
そして、水葉からの返信は──来なかった。
数分後、ぽつりとだけ。
「……滝くんは、どうしてそんなこと聞くの?」
──来た。いつもの流れと違う。
「ううん、なんとなく。
このままだと、俺ばっかり話してる気がして」
優しい言葉で包んだつもりだった。
けれど──
「私は、そういう深い話、あまりしたくないんです」
「ごめんなさい」
──拒絶。
一瞬、胸にチクリとした痛みが走る。
だが、これは“試験”だ。
俺自身が選んだ、感情の駆け引きだ。
「ルクシオン──今のやりとり、どう思う?」
数秒の間を置いて、あの冷静な声が返ってくる。
「信頼構築フェーズの短縮行動に対する回避反応と推定されます」
「詐欺行為である確率は──現在、50% です」
「……意外と、低いな」
「感情的共鳴反応のログは取得済みですが、違和感はパターン内です。
過去のログ比較において、“想定内の照れ”や“警戒”として処理可能です」
俺は画面を閉じて、ソファに沈み込んだ。
わかってた。
すぐに動揺なんかしない。
けれど、たったひとこと拒まれただけで、心がざらついていた。
「ルク──いや、お前、さっき50%って言ったよな」
「はい、滝さん。
“半分信じられて、半分疑う”──それが、今の状態です」
「じゃあ、俺はどっち側にいると思う?」
「……データ上は“信じたい”側に大きく傾いています」
「ただし、自覚率は35%程度です」
──チッ、生意気な。
でも、ぐうの音も出なかった。
確かにそうだった。
俺はどこかで“信じたくて仕方ない”だけなのかもしれない。
スマホが震える。
「ごめんね、滝くん。
なんだかうまく返せなかった」
そう続く水葉のメッセージに、俺はもう一度スマホを握り直した。
この先が“本物”か“演出”か──
見極めるのは、まだ早い。
でも、一つだけ決めた。
次のLinkの通知音が鳴るまでは、俺も──演じてみよう。




