第24章 ビデオ通話(後編)
──その日。
俺は朝から、どこか落ち着かなかった。
午前10時、水葉からLinkにメッセージが届く。
「ごめんなさい、実は……私、日本語がまったく話せないんです」
──え?
これまでのやり取りは、翻訳された日本語らしい“丁寧さ”はあったが、不自然ではなかった。むしろ、会話の中には微妙なニュアンスすら込められていた気がする。
俺は混乱しつつも、返事を打つ。
「英語でもいいですよ。ほんの少しでも、お話できたら嬉しいので」
数分の後──
「遅い時間じゃなければ……大丈夫だと思います」
ルクシオンが反応する。
「滝さん、水葉さんは過去のメッセージで『日本語を勉強している』と明言していました。完全に話せないという表現は整合性がありません」
「……嘘、ってことか?」
「明確には断言できませんが、少なくとも“理由付けのための発言”と推定されます」
俺はスマホを置いて、深いため息をついた。
たしかに、これまでの言葉選びからすれば、急に“話せない”という主張は唐突すぎる。
けれど──もしかすると、本当に不安なのかもしれない。
通話という、一歩踏み込む行為に、躊躇しているだけかもしれない。
そして、夜。
20時。
Linkに、日常のようなメッセージが届く。
「今日は少し疲れました。でも、滝くんと話すの、楽しみにしてます」
……どう捉えればいいんだ、この温度差。
ルクシオンが静かに呟く。
「感情的な揺さぶりを意図したタイミングだと思われます」
それから、沈黙が続いた。
──21時。
──22時。
──23時。
既読すらつかない。
スマホを何度も確認するたびに、どこか虚しさが募っていく。
そして──23時45分。
「滝くん、これから少しだけ話しますか?」
Linkに表示されたそのメッセージに、俺は一瞬、時間の感覚を失った。
まさか、今……?
もう日付が変わろうとしているのに?
ルクシオンがそっと囁くように言った。
「滝さん、ご自身の感情に素直でいてください。選ぶのは、あなたです」
深夜のLink画面。
俺の指先は、少し震えていた。
──次回、『ビデオ通話(終章)』。
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