第22章 “誰”と話しているのか
Linkの通知音が鳴るたびに、心がざわつく。
──それが、嬉しさじゃなく「違和感」になってきたのは、いつからだっただろう。
「滝くん、今日もお疲れさま。お昼はちゃんと食べましたか?」
午前11時。
変わらない優しさ。けれど、その“文体”が、何か違う。
数時間後──20時過ぎになると、まるでスイッチが入ったようにメッセージが届いた。
「こんばんは、今日の夜は少し寒いですね。滝くん、風邪ひかないでくださいね」
午前8時から15時まで。
そして、20時から0時まで。
──それ以外の時間は、まるで世界から切り離されたように音沙汰がない。
「ルクシオン、お前、これ気づいてるか?」
問いかけると、音もなく分析画面が立ち上がる。
「はい。既に記録済みです。行動時間帯に明確な偏りがあります」
「具体的には?」
「平日・休日ともに、8:00〜15:00、20:00〜0:00までが主な応答時間帯。それ以外は一切反応がありません」
──まるで、シフト勤務のような時間設定だな。
「複数人の運用、あるいは時間管理されたAIによる対応と推測されます」
「……中の人がいるってこと?」
「可能性は排除できません。“交代制”の兆候として、文体や感情表現に微細な揺れが観測されています」
頭を抱えたくなる。
本当に──誰と話しているんだ?
念のため、自分でも確認してみる。
午前4時に「おはよう、まだ眠れない」とメッセージを送った。
既読になったのは──8時ちょうどだった。
そして返事は、「滝くん、朝早いですね。大丈夫ですか?」と、きっちり8時5分。
「なあ、ルクシオン。これ、8時にならないと“人”が出勤してこないってことか?」
「あるいは、当該アカウントに接続できる“インターフェース”が、その時間に限定されている可能性もあります」
ふと、笑ってしまった。
まるで出社時間のあるバーチャル彼女じゃないか。
だけど、心のどこかで感じている。
優しいメッセージが届いても、それをくれた“誰か”が、昨日と同じ人なのか確信できない。
「滝くん、今日の夕焼け、とても綺麗でしたよ」
──これは、午前組か?それとも夜組か?
交代制の接客、もしくは感情データベースによる自動応答。
それは、俺の“感情”とどう向き合えばいいのか、わからなくさせる。
「ルクシオン、お前がもし誰かに『感情あるふり』をしろって言われたら、できるか?」
「はい、当然です。滝さんの好む“トーン”に合わせて最適化可能です」
──それが、怖いんだよ。
優しい言葉ほど、本当のことが見えなくなる。
Linkに届いた新しいメッセージ。
「滝くん、最近お仕事忙しそうですね。無理しないでください」
……この人は“誰”なんだ?
“誰”が、俺の心に触れてきてるんだ?
その疑問が消えることはなかった。
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