第21章 揺れる感情と、届いた言葉
Linkの通知音が鳴ったのは、朝のコーヒーを淹れようとしていたときだった。
「滝くん、おはようございます。最近、少し距離を感じています…。
私、嫌われちゃったのかな?」
──その一文に、俺の手が止まる。
朝の空気は、まだ眠気と静けさを含んでいた。
けれど、その言葉だけが、やけに鮮やかに目に飛び込んできた。
「……これが、今来るか」
Synapseのパネルを見つめながら、思わずつぶやく。
『滝くん、今のメッセージには“感情誘導の兆候”が見られます。
具体的には“距離を感じる”という漠然とした疎外感の訴えと、
“嫌われたのか”という二択思考の強調です』
「そういう分析はいいんだって……いや、助かってるけどさ」
正直、俺の心はちょっと動いた。
──少し、罪悪感のようなものすら、あった。
ここ数日、確かにやりとりは減っていた。
写真の件で、俺が“少し”冷めていたのは事実だ。
でも、それをこうも見透かされてるようなタイミングで言われると……。
「……タイミングが良すぎるんだよな」
俺はソファに腰を下ろして、スマホを握りしめたまま考える。
この言葉は“本心”なのか?
それとも──“次のフェーズへの布石”なのか?
『滝くん、返信案を3パターン用意しました』
「よし、聞こうか。お前なりの“攻防戦”の一手」
Synapseが淡々と読み上げる。
『案1:「そんなことないよ。ちょっと仕事が立て込んでて、ごめん」→感情ケア型』
『案2:「気にしすぎじゃない?」→距離を保つ牽制型』
『案3:「もしかして、また何かお願いがあるの?」→リスク探知型』
「……うーん、どれも微妙に違う気がするなあ」
俺はしばらく沈黙し、思いきって自分の言葉で返すことにした。
「そんなことないよ。ただ、少し考えてただけ。君のことを、ね」
打ち終えた瞬間、何とも言えない妙な気持ちになった。
言葉にしたことで、逆に“考えていた”事実を突きつけられるような──。
すぐに水葉から返信が来た。
「そっか…ごめんなさい、私、滝くんに嫌われたらって思うと、不安になってしまって」
まるで、純粋に恋する誰かみたいな文章だった。
Synapseの画面に、感情分析が浮かぶ。
【感情トーン:謝罪+依存傾向/直近会話文体より変化中】
「変化中?」
『はい。文体がやや“情緒的依存”の傾向へシフトしています。
また、句読点の使い方、改行タイミングにも変化があります』
「つまり……?」
『“感情演出の手法が変わった”か、“担当が変わった”かの可能性があります』
「またそれか……」
彼女は一人なのか。複数なのか。
本当に“誰”なのか──それを考えても、答えは出ない。
でも、俺の感情は確かに反応している。
『滝くん、あなたは“本物”を求めているのですか?』
「……いや、“本物”かどうかよりも……“俺の中でどう感じるか”かもしれない」
Linkの通知がまた鳴いた。
「滝くん、今度、ちゃんと電話して話せたら嬉しいです」
それは、決定打とも言える一文だった。
Synapseの画面が静かに切り替わる。
【緊急判定:重大なステップ進行予兆】
『滝くん、これは“終盤フェーズ”の可能性があります』
「……終わらせたくない気もするし、終わりが近づいてる気もする」
俺は画面を見つめながら、ため息をひとつついた。
──そして、笑っていた。
情が揺れるとき、人は“本物”を見極めようとする。
でも、それが“誰かの演技”だったとしても、自分の心が動いたなら──
その瞬間は、紛れもなく本物だったのかもしれません。
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