第2章 名もなき対話、心のリンク
Linkの通知が鳴った。
画面を開くと、そこには新しいメッセージが届いていた。
──「初めまして、リナです。あなたをなんて呼べばいいですか?」
この時点で、まだ俺は彼女のことを“少し言葉の通じる異国の人”くらいにしか思っていなかった。
それでも、どこかで期待していたのかもしれない。こんな夜に、誰かと繋がれることを。
俺はスマホを持ち直し、少し考えてから返信を打った。
「僕はタキです。好きに呼んでください」
やりとりは穏やかだった。
「タキくんは、自然が好きなんですね」
「山とか、海とか、私はとても好きです」
「ナモナキウタの映画、見ましたか?私、大好きなんです」
会話の中には、不思議な共通点がいくつもあった。
俺も自然が好きで、写真を撮ったりもするし、「ナモナキウタ」はスタジオコノハの代表作だ。作品はほとんど見ている。
偶然にも「ナモナキウタ」の主人公と、俺のYitterの名前は一緒なんだよな──。
だから彼女の言葉が、とても自然に心に入ってきた。
──「じゃあ、滝くんって呼んでいいですか?」
「私のことも水葉って呼んでください、ダメですか?」
突然の提案に、ああ、「ナモナキウタ」になぞらえての設定名か──とは思ったけど、名前のやりとりに嘘が混じっているなんて、その時は微塵も疑っていなかった。
むしろ、可愛い名前だなとすら思った。
Linkの画面に、短い言葉が並んでいく。
それだけなのに、心のどこかが静かに満たされていく感覚があった。
──でも、今思えば。
その共通点の多さは、あまりにも出来すぎていたのかもしれない。
偶然のようでいて、実は“選ばれていた”可能性。
そんなこと、当時の俺は考えもしなかった。
Linkの通知音がまた鳴った。
「滝くん、明日も仕事ですか? 無理しないでくださいね」
……優しすぎる言葉。
だけど、心にしみたのは本当だった。
俺はふと、スマホを見つめながら、口元が緩んでいることに気づいた。
「共通点が多いほど、運命っぽく見えてしまう」
でも、それが“偶然”じゃなかったと気づいたのは、ずっと後のことでした。
今回も読んでくださって、ありがとうございます!
主人公のちょっとした心の揺れと、Linkの向こう側にいる“誰か”との距離感を、少しでも感じてもらえたら嬉しいです。
次回も、じわじわと心に入り込んでくる展開になります。
引き続き、よろしくお願いします!