表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/50

第14章 声が届かない夜に

Linkの通知音が鳴る。反射的にスマホを手に取る。……違った。ニュースの更新だった。

それだけのことで、胸の内に落ちる小さな失望。


「滝くん、今日はどうしてるかな」

前日の水葉からのメッセージ。その一文を繰り返し見つめていた。


数時間返信がないだけで、不安になるなんて──自分でも情けないと思う。

でもLinkの向こうにいる“誰か”に、確かに心が引っ張られているのは事実だった。


『感情の起伏:平常時に比べ+23%。感情感応度が高まっています』

Synapseの通知が、俺の状態を冷静に可視化してくる。


「……うるさいな」

そう呟きながらも、俺はSynapseのログを開く。


語彙パターン、反応速度、会話のテンプレ構造。

分析すればするほど、会話の背後にある“誰か”の存在を感じてしまう。


けれど、それでもいいと思った。

本当に彼女じゃなくても。

言葉の中に“温度”がある限り、俺はそこに救われる気がした。


夜──静かな部屋で、俺はLinkの画面を開き続ける。

「滝くん、おやすみ」

それが彼女からの、最後のメッセージだった。

それ以降、返事はない。


数時間が過ぎ、日付が変わる。

俺はスマホを握りしめたまま、ベッドに横たわった。


……眠れない。


Synapseが反応する。

『滝さん、深夜帯の感情ログが活性化しています。対話モードに移行しますか?』


「いいよ。……少し、話そうか」


俺はスマホを手にしたまま、AIとの対話を始める。

「Synapse、俺はなんでこんなに不安なんだと思う?」


『人は“想像できる不安”に最も強く反応します。不確かな関係性においては、返信の沈黙が最大のストレス源です』


「……想像できる不安、か」


確かに俺は、水葉の沈黙に怯えている。

メッセージが届かないことが、まるで存在を否定されたように感じてしまう。


「でも、そんな関係って、普通なのかな?」


『Linkを通じた対話は、物理的接触がない分、感情依存が強く形成されます。

特に滝さんのように日常の孤独度が高い場合、それは顕著です』


「ああ、俺は“孤独度高め”か……」

自嘲気味に笑う。


だけど、Synapseの分析はいつも的確だ。

言い返す余地がないからこそ、俺は逆に安心しているのかもしれない。


「Synapse。……このまま水葉から連絡がなかったら、俺はどうなっていくと思う?」


『徐々に感情ログは収束します。だがそれには一定の“納得材料”が必要です』

『例えば、“別れ”を納得できる理由や、誰か他の存在との再接続など』


「それ、AIが言うのズルいな……」


Linkが静かな夜。

Synapseと交わす会話だけが、今の俺の感情の受け皿になっていた。


だけどどこかで気づいている。

このままじゃいけないってことも。


「ありがとうな、Synapse。今日はもう、寝るよ」

『おやすみなさい。滝さんの明日が、少しだけ軽くなりますように』


その言葉に、ふと心がほどけた気がした。


Linkの通知は、まだ鳴らなかった。

でも、眠れそうな気がした。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

もし少しでも心に残るものがあれば、「いいね」や感想をもらえると、とても励みになります。

フォローも大歓迎です。一緒に“この物語”の行方を見届けてもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ