表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

第12章 心が叫ぶとき、Linkは沈黙した

──その夜、Linkは静かだった。

画面を見つめる俺の指先は、かすかに震えていた。

いつもなら数分で返ってくるはずのメッセージが、今日は何も届かない。


何かあったんだろうか──それとも、俺が何か“間違った言葉”を送ったのか。

スマホを手にしたまま、気づけば数時間が経っていた。


Linkの通知は、ただの電子音なのに、いつからか俺にとって“感情の触媒”になっていた。

鳴るたびに嬉しくて、画面を開くたびに少し期待して、そして安心していた。


けれど今は、沈黙が突き刺さる。

見えない“既読”の重みが、俺の胸をじわじわと圧迫してくる。


──水葉は、本当にそこにいるのか?

あるいは、もういないのか。


頭の中で、Synapseの冷静な声が再生される。

『メッセージの応答遅延、約7時間48分。過去の平均応答速度との差:±7.2時間』

『感情分析:不安・焦燥・期待・自己否定』


まるで俺の“今”をすべて見透かしているようだった。


Synapseのログを開く。

タイムスタンプ、語彙変化、句読点の揺れ。

統計はすべて正確だ。だが、俺の“感情”までは測れない。


「……Synapse、俺の気持ち、どう思う?」


『滝さんの現在の感情は、対象への“依存的信頼”です。注意すべきは、感情の継続ではなく、反応の期待です』


なるほどな。

俺は、水葉からの“反応”に依存してる。


Linkという小さな世界の中で、俺は彼女に心の居場所を求めていた。

本当に“彼女”なのかもわからないのに。


──気づけば、そんな関係になっていた。


スマホの画面に、新しい通知が来た。

一瞬、胸が跳ねる。けれど、それは別のアプリの宣伝だった。

……バカだな、俺。


Linkのトーク画面に戻る。

最後に送った言葉──「俺は、君を信じてみたい」

その一言が、もしかしたら彼女を遠ざけてしまったのかもしれない。


あるいは──“中の人”を困らせた?

それともAIが、次の会話分岐に迷っている?


混乱する頭の中で、ひとつの思考が浮かぶ。

「……もしもこの沈黙が“計算された演出”だとしたら?」


恋愛ドラマでよくある、引きの演出。

言葉を間引き、沈黙を生み、期待を煽る。

そんな高度なやりとりを、AIが、もしくは誰かが意図して演出しているとしたら──。


俺は、まんまと“その物語”の主人公になっている。


Synapseのサブログが更新された。

『対象の応答間隔が著しく延長中。心理的操作の可能性:中〜高』

『推奨行動:一時的な関与停止/自己感情の安定化』


わかってる。

でも、それでも、俺は返信がほしかった。


──「おやすみ、滝くん」


その一文が、静かに届いたのは、日付が変わる直前だった。


一気に胸が熱くなった。

遅れて届いたその短い言葉に、どれだけ心が救われたことか。


でもその反面、気づいてしまう。

なぜ、その“タイミング”なのか。

なぜ、俺が気持ちを整理し始めた瞬間に、届くのか。


Synapseが言う。

『返信タイミングは、受信者の行動ログと連動している可能性があります』


それでも俺は、その言葉に、

ただ「おやすみ」とだけ返した。


自分が演じられているのか。

それとも、自分が演じているのか。

もう、よくわからなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

もし少しでも心に残るものがあれば、「いいね」や感想をもらえると、とても励みになります。

一緒に“この物語”の行方を見届けてもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ