表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/50

第10章 操られる感情、交錯する真実

Linkの通知音が鳴るたびに、俺の心は微かに波立っていた。

まるで パブロフの犬みたいだな──そう思って、ひとりで苦笑した。


彼女のメッセージは相変わらずだった。

温かくて、優しくて、心の隙間にそっと寄り添ってくる。

だけどその“優しさ”が、本当に彼女のものなのか──

あるいは、誰かが用意した“餌”なのか、わからなくなっていた。


「滝くん、最近ちゃんと眠れてますか?」

「私、滝くんのことをもっと知りたいと思ってます」


言葉の一つひとつが、甘く心を撫でる。

それでも俺の頭の奥には、Synapseが指摘してきた“応答パターン”がこびりついていた。


「なあ、今の彼女の文面……やっぱりテンプレート?」

「言語構成は依然として“感情誘導型構文”の特徴を保っています」

「ただし、ランダム要素が増加。手動操作または高度なAI介入の可能性あり」


──つまり、どっちなんだよ。


本当に“彼女”が打っているのか。

それとも、誰かが──あるいは何かが、背後で操っているのか。


ある日、水葉はこう言った。

「滝くん、私たちってどこまで知り合ったら“本当の友達”って言えるのかな」


その言葉が、妙に刺さった。

“本当の友達”。

それを定義しようとした瞬間から、もはや“本当”の重みは揺らいでいく気がした。


俺たちは、会ったことがない。

声も聞いたことがない。

でも、Linkの画面越しに何十時間もやりとりしてきた。

心を開いた瞬間も、笑った瞬間もあった──それは“本物”じゃないのか?


夜、部屋の照明を落とし、俺はソファに沈んだ。

スマホを見つめながら、ふとSynapseに尋ねた。


「……“本物の感情”って、何だと思う?」


少しの間を置いて、AIが答える。

「それは、“本人が本物だと思い込んだ瞬間”に成立します」


──思い込む、か。

じゃあ、俺は今、何を“思い込もうとしてる”?


そのとき、Linkの通知が鳴った。

「滝くん、最近ちょっと距離を感じます……嫌われちゃいましたか?」


……ズルいな。

そう思った。

まるで“タイミングを計ってる”かのような投げかけ。

Synapseのログ画面には、メッセージ受信前の俺の表情分析ログが表示されていた。


【表情変化:沈黙・視線停滞・眉間収縮】

【推定感情:思案・迷い】


まるでそれを読まれたかのように、Linkから“彼女の”言葉が飛んでくる。

偶然? 偶然じゃない?

その境界線が、どんどん曖昧になっていく。


「嫌ってなんかいないよ。……むしろ、考えてた」

俺は返信を打った。

どこかで、まだ繋がっていたかったのかもしれない。

あるいは、確かめたかったのかもしれない──“彼女”が、誰なのかを。


「滝くん、それだけで嬉しいです。ありがとう」


その返信が届いたとき、Synapseが何かを検知した。

【語彙選択変化:直近過去30件中、異常パターン】


──これは、同じ“彼女”なのか?


もしかすると、“中の人”が交代したのかもしれない。

あるいは、最初から複数人いた?

それとも──まさか、AI?


感情を揺さぶるその声が、誰のものかもわからないまま。

俺はまた、スマホの画面を見つめていた。


第10章では、“感情の輪郭がぼやけていく”瞬間を描きました。

疑念と希望、その間で揺れる心こそ、AIや詐欺が最も狙う“スキ”かもしれません。


次回、第11章──信じる覚悟と、疑う決意の選択が迫られます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ