守護霊
「止まってください」
青年が一人で道を歩いていると突然そんな声が聞こえてきた。それは明らかに他の誰でもなく青年自身に向けられた言葉であり、青年は思わず足を止める。
そうして振り返ろうとしたその瞬間、目の前に1台の車が飛び出し、そのまま壁へと激突した。大慌てで警察と救急車に電話をかけながら、もしあのまま歩き続けていたら自分もただでは済まなかっただろうと思い、礼を言おうと辺りを見回すが誰もいなかった。
それからしばらくして、あのときに声をかけたのは一体誰だったのだろうということも思い出すこともなくなった頃、青年が一人で車を運転しているとまたあの声が聞こえてきた。
「止まってください」
思わずブレーキを踏んだ青年の目の前を、信号を無視したトラックが猛スピードで通り過ぎていった。
こんなこともあった。
「止まってください」
有名なコンサートのチケットが取れたので向かっている途中にいつものように声が聞こえて足を止めるが特になにも起こらない。しばらくその場で待ってみたがなにも起こらない。
幻聴だったのかと再び歩き始めたが、立ち止まっていた時間のせいで乗ろうと思っていたバスに乗り遅れてしまった。コンサートが終わってから青年はその乗ろうとしたバスが事故を起こしたことを知った。
それから何度も同じような事があった。どこからともなく声が聞こえ、その声に従うと危うく事故を避けられるのだ。
その内に青年は自分が守護霊に守られているのだと信じるようになった。
ある日青年が歩いていると、またいつもの声が聞こえてくる。
「止まってください」
疑うことなく青年は立ち止まる。横断歩道の真ん中で。そこに車が勢いよく突っ込んできて、青年を撥ねて止まってしまった。
言われた通りに止まったのに、どうして。
それが青年の最後の思考だった。
はるか未来、タイムマシンを使って歴史を管理している管理局でこんな会話がなされていた。
「あの青年には可哀想なことをしたかな」
「仕方ないだろう。あの車の運転手があそこで青年を撥ねないと、タイムマシン理論の製作者が巻き込まれる連続通り魔事件を起こすのだから」
「あれが運命というやつか」
「そうさ。そもそも我々が助けないと、彼はもっと前に事故で死んでいたじゃないか」
それもそうかとこの会話は締めくくられ、そしてまたはるか未来の歴史を守るための作業が続けられていった。
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