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BL?

 美花先輩はどんな小説を書いているのか。

 あれから数日、何度か備品のタブレットで検索してみたものの、美花先輩の名前は何処にも無かった。

 いや、大体みんなペンネームだから、誰がどれかなんてまるで分からなかったと言う方が正しいか。

 部長も教えてはくれない方針らしく、聞いてはみても、気に入った作品の作者なら教えてあげるんだけどなぁ~と釘を刺された。

 あんなにバッサバッサと斬りまくる人がどんな凄い物を書いているのか……知りたい奴は過去にも多かったのだろう。


 なんて残念がりつつも、今日も今日とて美花先輩の批評感想は始まっていた。 


「結論から言うと、面白くありませんでした」


 普段からスマホでWebに投稿しているという部外の女子生徒が、腹の底からのデスヨネーを絞り出して項垂(うなだ)れる。


 本気で作家を(こころざ)しているのだが、どうにも独学の限界を越えられず、今回の批評感想を希望したらしい。

 備品のタブレットが机に置かれているのを見るに、投稿はしているのだが感想が来ず……または好感触な感想が少なかったのかもしれないな。


 果たしてその内容とは……


「まず改めて、私はBL(ボーイズラブ)に明るくありません。 友達からのオススメで漫画は数冊読みましたが、この界隈を知っていると言える知識も持ってはいません。

 ですので、私個人の感想をどう参考にするかはお任せします」


 今日のはBLかぁ……。

 腐男子という言葉もあるが、僕にその適性は無い。 同性愛に理解はあっても読みたいかは話しが別、な男性は多いのではなかろうか。

 ただ、(これはBL二次創作を大量生産されてそうだな……)と思える美男子ばっかりなアニメは見たことがある。

 あっ、でも男の娘系は好きな漫画もあったなぁ。 あれは……別ジャンルか?


 美花先輩がタブレットをタップした。


「まず、毎回、主人公の違う短編を更新していきながら、たまに以前した話の続きを入れたりもするのは、Web投稿ならではの形式と言えます。 1つ1つの話しも短過ぎず、スマホ読者用に行間を空けるのも意識されていますね。

 1つの長編より、多種多様なストーリーやアイデアが湧き出てくるタイプの作者ならば、有りな魅せ方でしょう。


 タイトルも、少し長めではありますが特徴を捉えており、続き物には②やRe:などが足されていて、どれがどの話しだったか見分けやすいのも良い気配りでした。

 正直、どれかがバズって大ヒットできたら良いな、という下心も読み取れましたが」


 手厳しい。

 毎回、書籍1冊分の熱量で書かれていたのだろう。 なら短編で書けば良いじゃん……となるだろうが、『こんな話も書いてますよ』と宣伝にもなるので、間違ってはいないと思う。

 短編集のような形で、気に入りさえすればスムーズに次へといけるからな。


「なので、今回は10話までの感想となります。 結構読み進めた方です。


 総合して、キャラ・ストーリーはそれぞれ特徴的で、世界観もシュチュエーションも違うばかりか、擬人化や異種族間なんかもあったりと、設定だけで面白いものは良かったです。 笑えました。


 文章は、たまに描写不足じゃないかな? と感じる点もありましたが、(おおむ)ね普通だったと思います。 良いではなく、特徴が無いという意味です。

 1番好きな作品の『この描写の何が好きなのか』『自分の作品に反映できているのか』、分析してノートにでも書き集めてみては如何(いかが)でしょうか。

 自分の好きを理解しましょう。 そこを磨いて宝石にするのです」


 思うところでもあったのか、腐女子生徒は気怠げに顔を上げて、だよね~……と渋々納得していた。

 面倒臭い気持ちは分かる。


 言われてみれば……好きな作品を漠然(ばくぜん)と参考にする事はあっても、何処が何故好きなのかまでは意識してこなかった。 意識し過ぎて、パクっただろと疑われたくなかったからだ。

 当然だが、自分の分析力にそこまでの自信がないのもある。

 だが好きな一節(いっせつ)の何が刺さったのかを知るのは、執筆する限り今後の役には立つ筈で。

 ……こういう一手間(ひとてま)に頭が回らないのも、読者が増えない要因なのかもしれないな。


「次に、ここからが本題なのですが。

 主人公やそのパートナーがあまりにも女性視点過ぎて、BLである必要性を感じません。

 もちろん、そういったキャラで人気な作品も数多くあります。 女性向け作品なのですから、女性が共感・没入しやすい主人公像としての乙女男子、は有りでしょう。

 ですが今回読ませていただいた範囲においては『キャラ設定上の男性』としか思えませんでした。 明るくないので、BLってどこまでがBLなのかな?と基準に悩みます。


 こんな話しがありました。 新人ソーイングスタッフの主人公が、一人暮らしに限界を感じルームシェア相手を募集したところ、カフェ店員をしている高身長イケメンが応募し、共に暮らすこととなります。

 そのイケメンが数年前、高校野球で話題になっていた憧れの人だったことも判明するのですが。

 その時のお礼にと服をプレゼントするため、採寸しようと脱いでもらった時の反応が、頬に熱を感じながら--


  わぁ、なんて筋肉質な体なんだろう。

  肌も色っぽくて、大人の男性のガッシリした骨格をしてる。

  それにボディーソープかな、すごく良い匂いがして……


 「どうした?」

 「じゃ、じゃぁ胸囲から……!」


  つい見惚(みと)れていたのを誤魔化しながらも、両腕を上げてもらい、脇の下から慌ててメジャーを彼の背中に回す。 自然と、理想の生トルソーが触れそうなほど目前に……

  もし、このままあの腕で抱き締められたりなんてされたら。


 「ふわぁっ……」

 「っ!」


  頭上から息を呑むのが聞こえて、俺は抱き着くような形のまま顔を上げた。


 「?」


  一瞬合ったと思った視線がすぐに反れ、頬が少し赤みを帯びる。


 「……すまない、続けてくれ」

 「ぁっ、はい」


  絞り出すような声に(うなが)され、俺は止まっていた採寸を続けた。


  そのあとは、特にドジる事もなく無言で進み、必要な数字は全てノートに記録し終えて。

  「ありがとうございました」と頭を下げ、俺はそそくさと部屋を後にした。


  急ぎ速歩きで自室まで戻り、ノートとボールペンを布団の上に手放す。 その流れのまま枕を手に取って、声が漏れても聞かれないように顔を当てグッと抱き締める。


 「はぁ~あぁ……」


  (たくま)しい体があんな目の前に……採寸中ずっとドキドキしっぱなしで。 今だってまだ顔が熱い。


  スマホをタップすると、いつの間にか23時を超えていた……風呂も歯磨きも済ませておいて助かった。

  今日はもう恥ずかし過ぎて、自室を出られそうにない。


  どうしよ……朝、普通に顔合わせられるかなぁ……。


  結局この日は殆ど眠れず。 翌朝、寝不足で出社することになってしまった。



 --というものでした。

 一見、ありがちな乙女男子ではありますね。 であれば序盤や開幕から、主人公の立ち位置・属性を明確にしてほしかったです。

 この主人公、元々同性が好きなのか、このパートナーだから好きになったのかが分からないままなんですよ。

 昼食での同僚との会話なんて、女子でしかなかったです。



 『アンタって昔からそうじゃない。 どこの誰とも知らない男と2人暮らしだなんて……警戒心どこに忘れてきちゃったんだか』

 『先にちゃんと会って話したよ! 優しくて、信頼できて。 こんな人と一緒に暮らしたいなぁ、って思ったから決めたの』

 『ふ~ん。 まぁ、ヒモじゃないだけマシか。 カフェ店員って何してる人なの?』

 『コーヒー淹れるのもだけど、メインは軽食作りなんだって。 近かったらお昼に通えたのになぁ~』


  紙パックの烏龍茶にストローを挿し、そう答えてから口を付けた。


 『なるほど、もう胃袋は掴まれてる、と』

 『ん?』

 『何でもない』



 これ、同僚も後に『俺は……』と言っていたので、男性同士の会話として読んで良かったのでしょうか? それとも俺っ()でしょうか? 明言されていないのは意図的なのでしょうか?

 女性同士の会話に読めるのは、私の偏見なのでしょうか?

 このまま主人公を女性に置き換えても成立するストーリーに、BL要素はあるのでしょうか?


 その後も、パートナーともまるで男女のような展開を続け、互いに想いを打ち明け合って結ばれました。 が、最後まで互いの性自認に言及することは無く、同性である点を気にする描写すらありません。


 朝シャワーを終えたパートナーが体を拭いている所に遭遇(そうぐう)して、短い悲鳴と共に扉を閉め『ごっごご、ごめんなさい!』と顔を両手で覆い隠すのも。

 主人公はプールや銭湯に行ったことは無いのだろうか? と疑問になります。

 修学旅行とか、どうしたのでしょう? 誰もいなくなってから1人で浸かっていたのですか?

 謎です」


 人によって同性でも、他人の裸を見るのも見られるのも恥ずかしい人はいる。 僕も少し恥ずかしい。

 だがそれと、ラッキースケベなリアクションは別だろう。 主人公が同性を意識してしまう性的嗜好(しこう)であれば、それすらも納得できようものだが。

 まるで、『BLなんだからカップルが同性愛者なのは当然でしょ?』とでも言いたげである。

 知るか。 女好きの俺が何でコイツなんかに!(ドキドキ)とか、幼馴染みの好意に気が付いて~とか、昔告白して『気持ち悪い』と拒絶されてから心を閉ざしてきた……とか、色々あるだろう?

 その辺り何のハードルも無い同性愛者同士のルームシェアなんて、そりゃ同僚も心配するわ。

 てかこの同僚もどっちなんだよ! ただの友人枠か!

 そういうジャンルなんですと言われればそれまでだが……


 てかこれ男の娘なのでは? 一人称もボクにして、女物の私服で暮らしている方が違和感が無い。

 でもそうではなかったのだろう。 あの美花先輩が違和感として指摘しているくらいだし。

 じゃぁ何者なんだこの主人公は。


 指摘を手帳でメモりながらも、うぐっ……とか、ぁぁっ……とか被弾していく腐女子生徒。

 その手が書き終わるのを見計らって、美花先輩が続ける。


「そしてほぼ全ての作品において、そんな主人公と結ばれるパートナーについても、似たパターンが散見されました。

 特徴としては『主人公だけを愛する』というもので。 趣味が無く(または描写されず)、優秀で人当たりも良く、女性にモテているのに友人がおらず(または少なく)、全ての優先順位が主人公にあります。

 もちろん無趣味の人だって世の中にはいますので、それが悪いとは言いません。


 ただ……『君と出逢うまで、僕の世界は灰色だった』とまで言ってしまう生徒会長がいます。

 風邪で休んだ主人公が昼に起きると目の前に上司がいて、既に昼食も作ってあって……という若干ホラーな話もあります。

 偶然休みが重なり、せっかくだからと誘ってみると、『君と一緒なら、何処だって退屈しないよ』と自分の予定をはぐらかすインストラクターもいます。

 そのどれもが主人公だけしか見ていない。 趣味・主人公。 自身の過去を語るシーンもなく、会う度に主人公を甘い言葉でドキドキさせて、こんなエリートと釣り合うか自信を失う主人公に大胆な告白をして結ばれる。


 人間味が無いと言いますか、イマジナリーフレンドより薄い設定と言いますか。 その場限りの妄想によって、突然生まれた主人公のパートナー、のような。

 怖くなって距離を取ろうにもストーカー化しそうな恐ろしさすらありました。

 これは確かに、結ばれるしかないですね」


 脅迫()みてやがる……

 この設定だけで世にも奇妙な物語を1つ描けそうなんだが?


 美花先輩がタブレットをタップし、下へ下へとスクロールする。


「こういったパターンは10話までの間に屡々(しばしば)ありました。

 特に気になったのが、

 3話の、ビーチコーミング趣味の主人公✕女だと思っていた幼馴染みの再会。

 5話の、魔王討伐後、共に戦ってきた勇者が聖女でも王女でもなく僕を選んだ話し。

 9話の、旧型パソコン✕最新パソコンの擬人化。

 10話の、ソーイングスタッフ✕カフェ店員の続き。

 どれも主人公の立ち位置・属性が明確にされておらず、また男女の恋愛との相違を見出だせません。 


 これは私の嗜好ですが、主人公を女性に()げ替えても成立してしまう話し、ではBLの魅力がありません。

 多様性が求められている今、乙女な男子を否定している訳ではありませんよ。 主人公を乙女な男子として描いているのかが明確にされていない、という点が問題なのです。

 BLとゲイは違う、であれば私が無知だっただけの話しですね。 その時はすみません。


 もちろん、こちらの方が共感し、没入しやすい読者もいるのでしょうから、私の意見を参考にするかは、お任せとします」


 主人公へ感情移入してイケメンにキュンキュンしたい。 だけならば男女の恋愛と変わらない訳で。

 自分も男になってイケメンとBLするのが好き、な憑依型の読者にでも読んでもらわないと、これが面白いかどうかは判断できないだろう。


 男の娘に脳内変換すれば、僕でも読めそうか? 勇者の話と擬人化パソコンは気になった。


 美花先輩がタブレットをホーム画面に戻し、スリープモードにする。


「総評ですが、短編とはいえ立ち位置・属性は明確にしましょう。

 読者が感情移入しやすいように、にしても、主要人物がふんわりしていてはBLを読んでいる気分にはなれません。


 逆にキャラが個性的な話しは良かったと思いますよ。 尖ったキャラにするため、設定を深めたからでしょうか?


 若手アイドルグループの5番手な立ち位置である主人公が、いつも握手会に来てくれている珍しい男性ファンと引越し先で隣人となり、ズボラな私生活を知られてお世話される話し。

 雑なゴミ出しがきっかけで素を知られたり、遅刻しそうな所をバイクで送ってもらったりと、そんな()は無かったのに段々と距離が縮まっていく過程が楽しかったです。


 アイドルだけではなく、競走馬(サラブレッド)趣味な主人公とバイク趣味なパートナーが、お互いを尊重し理解し合うシーンなんかは、人間味を感じられて没入して読み進められました。

 序盤から『恋として好きだ』と言われ、いや男同人だから……とは思いつつもファンから隣人に、友達に、親友に……と無意識に心が近くなっていくのが良かったです。

 この話しの続きらしきものが14話目にあったので、今夜読む予定です。


 とまぁ、続きが気になる作品もありましたので、既に投稿してある話も再編集してみるなりして、読み進めてもらえるよう手を加えてみましょう。

 好みの作品が見付かれば、感想ももっと貰えるかもしれません。

 それか、どうにか宣伝して知名度を増やすとか。 どこかしらのコミュニティに参加するのが一番かなと思います」


 「以上です」と、こうして今日の批評感想は終了した。

 腐女子生徒がメモり終わるのを持ちつつ、鞄から(いちご)オレのペットボトルを取り出す美花先輩。


 そんな2人をずっとチラ見していた僕も、進めていた執筆の続きを再開するべく、モニターへと視線を戻した。

 が、指が動かない。

 ……総評としては面白くなかったとしても、あの美花先輩が続きが気になるとまで言った話だけは、物凄く気になる。

 BLに耐性があるかは読んでみなければ分からないが、男の娘と脳内変換しても読めそうなら……検索してみる価値はあるかな。


 あくまでも、あの美花先輩が評価する作品、としての興味だが。



 それから3日、タイトルを知らないまま各WebサイトでそれらしきBL作品を検索し続け……

 腐女子生徒が軽文部に入部してくれたおかげで、備品のタブレットから辿り着けるようになった。


 今では部内のBLメンバーと共に、Web軽文部サークルなる(つど)いで楽しくやっている。

 OBが有名な同人作家さんなのだとか。

 批評感想・評価いただけると嬉しいです。


※これ以降↓は私の近況・吐きたくなった弱音です。


 近々、就職出来ないとスマホが使えなくなります。

 ガチです。 16年間無職35才(慢性腰痛有り)、父が今年で退職するので収入が無くなる、面接・仕事をミスする事にトラウマあって履歴書書いてるだけで吐きそう。 なので

 なので、本当にどんな感想でも良いんです……寂しいです。

 すみません、履歴書(志望動機・自己アピール・送付状)でもう疲れて……こんなクズどこも雇ってくれないよね。

 小説家になりたかった

 遺書みたいになってすみませんw


 相談相手が1人もいないボッチでして、小説家になりたくて始めたなろう投稿でしたが、赤ペンしてくれたのはこの数年で2人だけでした。 Twitter(X)で。 あの時は本当に嬉しくて涙が出ました。

 1人は仕事しな、でしたw したいのよ…

 私にセンスは有るのか、ギャグは笑えるか。

 美花先輩みたいな人、いませんかね?

 感想でもメールでも嬉しいです。 待ってます。

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