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魔王が銀貨二枚で売られてた話

作者: 竹林

初投稿です。まだ拙い所も多いとは思いますが、多くの読んでもらえると嬉しいです。

「人生の転機ってのは、どこに転がっているのかなんて、だれにも分かりはしないもんさ」

 そういって、俺の頭をなでてくれていた親父の言葉を久しぶりに思い出す。

 まさか、魔族の奴隷を見て一番に考えるとは思ってもみなかったが。

よく見てみると、少し、嫌な予感がしてきた。

「嘘だろ……」

 それくらいしか言葉が浮かばない。

 暗く、辺りに敷き詰められている奴隷用の檻が敷き詰められることにより、一段と狭く感じるこの部屋で、三年前に敵対したあの『魔王』と会うことになるとはな……。

 しかも、銀貨二枚で売られてるし、こいつ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 五年前、俺は、異世界から召喚したという勇者と魔王討伐のため、パーティを組み共に戦っていた。

 俺は暗殺者としてパーティーに加わり、敵情視察、強敵の排除などを担当していた。

 冒険していく中で、仲間同士の絆や友情が芽生えていく。しかし、どうしても誰も俺との関係を築こうとしなかった。『暗殺者』と、そう名乗っているだけで———。

 それから二年、ついに魔王を討伐し、世界に安寧をあたえた。

 勇者はもともと住んでいた世界に返され、騎士のグリュックは騎士団長に出世し、聖女メプリは聖教国の女王、魔剣士のラージュは勇者を呼び出した国の王となり、魔法使いのリーベは……。

 言い出したらきりがない。

 そんな豪華絢爛な暮らしを他の奴らがしているのに対して、俺は何の名誉や名声もなく、魔王討伐の報奨金だけが残り、国外への追放をラージュから秘密裏に言い渡された。

 報奨金も他の奴らのものに比べたら、少ないことも察している。

 ———仕方ない。暗殺者というのは世間から嫌われ、疎まれるものなんだ———。

 自分にそう言い聞かせて、ほかの国へ移ることにした。

「俺がこの職業でいることに、何か意味でもあるのだろうか?」

 思わず口に出す。俺に一番適正があったのは『暗殺者』で、自分を男手一つで育て上げた親父に十分な暮らしをさせるためには、その職でやっていくしかないと決めた。しかし、もうその親父はいない。『暗殺者』である意味がないのだ。けど、もう他の職には移れず、このままでいるしかない。これが現実だ。

 そうして、吹けば飛んでしまいそうな薄っぺらな自己を保ちつつ、二か月ほど前までは、世界各地を放浪していた。

 このあたりに留まり始めて早二か月、反乱の被害が今も残っているこの街に立ち寄った時だった。

 街を散策していると、裏路地で厄介な奴隷商と出会ってしまった。

 いや、無理やり目を合わされた、と言うのが正しいのかもしれない。

 そこからは早かった。目が合うや否や引きずられるようにして奴隷商の売り場に連れ込まれた。仕方なく適当に何人か見ていると、『奴』を見つけた。

 三年前に殺したはずの、『奴』を———。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 いや、落ち着け、あくまで他人(人?)の空似かもしれない。ここは冷静になろう。

 だが、見れば見るほど、『魔王』としか思えない。魔王が唯一持つ黒い宝石のような羽、琥珀色をした瞳、十五歳ほどに見える童顔と、それに合わない魔王らしい角。特徴が全て一致している。

 そして、今までに戦ってきた奴らの数倍もある魔力。正面から戦えば絶対に勝てないレベル。

 こいつ、魔王だ。

「久しぶりに見る顔だな、魔王を討伐した『暗殺者』サン」

 目の前の出来事に考えを巡らせていると、檻の中から声が掛けられた。

「おーい、なんか言えよ。無視かよー」

 檻の中から再度声をかけられる。こいつ、こんな親しみやすい感じだったっけ。

「いやぁ、魔王様ともあろうお方がこんな所で奴隷になっていいる上、特売セールのような安さで売られているのを考えると滑稽でな」

「仕方ないだろ、復活して力が戻りきってない状態で襲われたんだからよー」

 復活するのか、こいつ。倒す意味ないんじゃないか?

「復活するのか、こいつ。とか今考えたろ。”本来”なら、復活なんてできないんだよ。どっかの暗殺者さんが聖剣を使わずに我を倒したせいで、ここにいるようなものなんだからな。責任もって購入しろ」

 なるほど、聖剣じゃなければ完全に倒しきれないのか。もし、こいつが暴れたら勇者のいない今どうするんだろうか。

 そんなことを考えながら、興味本位で奴隷商になぜ銀貨二枚でこいつが売られているのかを聞く。こいつの魔力量は今の状態でもかなり多く、並の魔法使いの数倍はある。顔も悪くないので、護身用や愛玩用としても価値が高いはずだ、と。

「いやぁ、こいつの魔力量が多すぎて問題なんですよぉ。プライドが高いのでぇ、命令には従わらないしぃ、愛玩用にして抱こうものならその直後ぉ、消し炭にされる。そんなことが何件もありぃ、ここらの奴隷商でたらいまわしになっているのですぅ」

 そんな、客の機嫌を取るような声色で、奴隷商に説明される。しかし、まだ納得いかない。

「奴隷紋は?こいつも奴隷なんだから、主人の命令には逆らえないように奴隷紋をこいつに刻むはずだろう」

「それがぁ、こいつぅ、自力で奴隷紋を解呪できるらしくぅ、意味をなさないのですぅ」

「じゃあ、なぜこいつはここにいる?自力で脱出が可能なら、ここにいる意味もないはずだ」

「実はですねぇ、うちの奴隷紋は強制解呪されてしまったらぁ、ここの檻へ戻されるようになっていましてぇ、主人の方が再び取りにくださればぁ、奴隷紋より強力にしてぇ、お返しすることになっているのですぅ」

「だが、主人どもがこいつを所持することが嫌になり、結局こいつは売れ残る、と」

「そうでございますぅ。こいつには”教育”さえできないものでしてぇ、困っておりますぅ」

 一瞬顔をしかめる。おそらくここで言う”教育”は体罰のことだと容易に理解できた。そのようなことを行われている奴隷ほど、主人の命令に従順で、扱いやすくなる。が、聞いていて気分のいいものじゃないし、倫理的な問題として、この辺りでは禁止になっていたはずだ。

  買ってみようか、と少し考えていたが、やめておこう。かけられる必要のない罪をかけられてもおかしくない。

「困っているんだってよー。買えよー」

 うるせぇ。今お前のことについて考えてるんだよ。もう少し長い間黙ってろよ。

「銀貨二枚ですよ!今ならほら、奴隷用の首輪も付けますから!」

 どうやら、奴隷商の方も俺がこいつを気になったものの、購入をしないことを察したのか、焦って買わせるために色々なことを言ってくる。

  金銭的な問題は一切ない。銀貨二枚は、ナイフ一本購入するのとあまり変わらない。けれど、犯罪にしっかり触れているこいつと取引すると、俺まで迷惑なことになりかねない。いや、まてよ、もしかしたら、こいつが魔王なことを利用して”あれ”ができるかもしれない。それなら、言うことを聞かない、ということも問題ではなくなる。

「決めた。奴隷商、こいつを銀貨二枚で購入しよう」

「そこをなんとかぁ……って、ご、ご購入ですかぁ!」

「ああ。ほら、こいつが代金だ」

 奴隷商に銀貨二枚をきっちり渡し、奴隷の権利証を渡される。魔王が魔法を封じる魔封の檻から出され、意味をなさないであろう奴隷紋を刻む。

「と、いうわけで、今日から俺がお前のご主人様ってわけだ。よろしくな、落ちこぼれの魔王様?」

「ああそうだな、嫌われ者の暗殺者サン?」

 これが、俺と魔王の二度目の出会いだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 魔王に認識阻害魔法をかけ、特徴的な角と羽を見えなくした後、奴隷商の小屋から離れる。

 町の開けた場所に出る。昼が近づいてきたせいか、人通りはいつもより少ない。俺は適当なベンチの右側に腰掛け、左側に座れるスペースをつくる。だが、魔王は俺の前に立つ。

「座らないのか?」

「ああ、その前に聞きたいことがあってな」

 顔を上げる。認識阻害をかけた状態の魔王は、その童顔のせいか十五歳ほどの少年に見えた。

「――あんた、我を使って国家転覆をしようとしてないか?」

「まあ、大体あってはいる、かな」

「当ててみようか。我が復活したという情報を流し、勇者どもを偽物の祭壇か何かに誘導する。そこで、あんたのいる革命軍が孤立したそいつらを叩く、そんな計画じゃないか?」

「……なぜそう思った?」

「おっ、顔がちょっとけわしくなったな。図星か?」

「なんでそう思ったのか聞いたんだが?」

 そう言うと、魔王は少し考えるそぶりを見せ、「ああ、わかったよ」と返事をした。

「まず、国家転覆をしようと考えている理由だが、前会ったときあんた他の奴からすっっごく嫌われてたじゃん。そんで、今の国の中心部をそんな奴らが担っているのが嫌なんだろ?」

「てめぇ、喧嘩売ってんだろ」

 そういって、持っているナイフをのど元に突きつける。それに対し魔王は、「ひゃー」などど言って、おどけた様子で両手を挙げる。

「まあ、落ち着けよ『暗殺者』サン」

「お前のせいで現在進行形で落ち着けなくなっているんだが?」

「わかったって、ホントの理由は王都の奴隷商にいたとき、他の奴隷から聞いたんだよ」

「……何を?」

「正体不明の誰かが反乱軍を作って、国家転覆を企んでいるってな。しかも、その本拠地はこの国の付近にあるという噂をきいた。そして、そこは信念として『腐った政治からの民の解放』を掲げている。つまり、重要人物だけしか殺さず、他の人に罪は無いとして一切傷つけないと決めているんだ。そんなことが実現可能なのは『暗殺』という手段のみ。んで唯一そんな芸当ができる人物っていうのは、あんたしかいないわけだ。どう?当たったろ?」

 頬に冷や汗が伝う。突き出したナイフを鞘に戻す。こいつの話を本腰を入れて聞くことにした。

「それだけじゃないだろ?」

「質問を質問で返すなよ……まぁ、あんたが革命軍にいる理由についてだが、勇者がいる国で暗殺者がいなかったことから大体の推測がつく。恐らく国の重要人物たちは自分の身を案じて、唯一自分たちを殺害できる職業である『暗殺者』を追放し、入国禁止にした。だが、追放された側も黙っちゃいない。そこで暗殺者たちは団結し、反乱を起こした」

「それがこの町で起こった反乱だな」

「そう。その反乱で奴隷になっちまった奴も数人いてなー。そいつらからも話を聞いた。そこで聞いたわけよ。『魔王討伐に参加した伝説の暗殺者がそのうち仲間になる。そうなればもう王国も終わりだ』とね。我はそんな風に呼ばれるほどに実力を持っている人物を一人しか知らない。そう、あんたってわけ」

「……言っておくが、率いているのは俺じゃない」

「わかってるって。あんたがそんなことをする性格とは思えないしな」

 正直最初の言動からして、勘によって俺が反乱軍に加盟していると考えたとか言い出すと思っていたが、ここまで言われてしまったら、自分から言っても構わないだろう。

「というか、いいのか?そんなに早く自分から言っちゃって。正直言って、まだ『暗殺者』サンが反乱軍に加盟しているとは言い切れないような状態だぜ?」

「下手に言い逃れして、周りに知られたら俺が困るんだよ」

 小声でそういって、ナイフを握っていた手の親指で後ろを指さす。昼になって、そこそこ経ったのか町の人々が少しずつ外に出てきている。

「なるほど。我はもうちょっとしゃべりたかったが、仕方がない。『暗殺者』は目立てないもんな」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それから長い間町を歩き、町の外に出たのは夜だった。

「さて、と」

 魔王は振り返って手を広げる。

「ここには誰もいないし、さっき聞きそびれたことを聞いておかないとな」

「俺があんた――魔王を使って何を企んでいるか、だったか?」

「そうそう、それそれ」

「そんなの、当ててみればいいじゃねぇか。お得意の”読心能力”でよ」

「……いつから気づいてた?」

「疑い始めたのは最初のほうだな。俺が企んでいることの推測を立てたときだ。あの考えはお前を見てから少しして考え付いたものだ。そのことにも自分で気づいてたろ?だから、その後、始めに話そうとした国家転覆の内容について語ろうとしないで冗談を言い、話題を少し変えた。確信したのは話を終えた後だな。俺が反乱に巻き込まれた人たちにあの話を聞かれると困ると考えて、小声に変えようとしたんだよ。でもその前に、小声で話し始めただろ。主にその二つがきっかけだな」

「さっすがぁ。で、企んでいる内容については教えてくれるのか?それとも無理なのか?」

「読めばいいってさっき言ったろ?」

 「それもそうか」と、魔王はその琥珀色の目を閉じ、片目だけ開いた。そこには鮮やかな琥珀色はなく、底が見えない海のような色をしていた。

 一秒にも満たない行動だった。これなら、隙を見て能力を使うのも容易だろう。

「……なかなか面白いことを考えているな、あんた」

「だろ?反乱軍の奴らは立派なことを掲げているが、今となっては盗賊団と何ら変わりはない。だが、魔王討伐のメンバーたちのほとんどが権力に溺れ、国の内情は見ていられない。そこで、だ」

「魔王軍を再結成し、両陣営の説得を試みる。それが駄目なら……」

 そういって、魔王は近くにあった石を魔法で粉砕した。

「そういうこと。まぁ、ダメだったらそん時は任せる」

 「人類全員を敵に回すことになるぞ。いいんだな?」

「もちろんだ。良くなかったらこんなこと本気で考えていないしな」

「そうだな。まぁ、我はあんたのそういうところが気に入ってるから、付いて来たんだがな」

「そうか。案外あっさりとした理由だな」

 ふと、空を見上げる。そういえば、親父があのことを言ったのはこんな空だったような気がする。

「理由なんてこんなもんだろ。……ってあんたなぁ」

「もしかして、読んだか?」

「読んだ」

 ふと、横を見る。魔王は空を見上げていた。

『銀貨二枚で魔王が売られてたのが人生の転機なら、人生の終わりには金貨何枚になるんだろうか』

 そう思って、笑った。



 これは、復活した魔王が、追放された暗殺者によって、銀貨二枚で購入されたことから始まった、魔王軍復興計画の始まりの一節である。



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魔王が売られているという、タイトルの惹きつける力が凄かったです。 主人公の暗殺者も冷遇されながらも、世界全体のことを考えるようなキャラクターで好感が持てました。
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