プロローグ
不定期更新です
燃えていく目の前の壁に飾られた絵に火が燃え移っていく
みんなはもう逃げた後かな
嗚呼こんな事になるなら今日の昼間に来たお兄さんに引き取って貰えばよかったなぁ
バキッ
天井が崩れる音?
ここから逃げないと…ダメだ間に合わな
「良かった、間に合ったようだね」
2人の男の人が私を庇ってくれている
私を抱えてるお兄さんは昼に来た人だけど瓦礫を受けたお兄さんは誰?
ドレスコードを着用したお兄さんは見た目に見合わない大盾で私達を覆い守ってくれている
「感謝するよ、ありがとうアーサー」
「君は何を考えているか分からないな、普段の君ならただ外からジッと見ているだけだろうに」
「それは死人が出ないのが”見えている”時さ、いざと言う時だったら私だって動いて良いだろう?
こんな事じゃ”死ねない”からね」
周りが火の海の中、アーサーと呼ばれたお兄さんは、もう一人の幻想的な雰囲気を纏ったお兄さんと顔を合わせず、周りの状況を確認しながら話し合っている
「まぁそんな事はどうでも良いだろう?
さ、…えーと名前…誰だっけ」
「君の覚えの悪さはまだ治らないのかい?
僕の所の円卓達は国民の6割の名前は覚えたよ」
「その6割は全員罪人だろ?
僕は君の所の円卓と違って罪人を裁く義務は無いから覚えないんだよ。
あ…名前、教えてもらっても、良いかな?」
幻想的なお兄さんは、会話を打ち切り私の顔を直視し、名前を改めて質問をする
私は…私の名前は…
「アビゲイル、アビゲイル・ウィリアムズ…」
「そうか、アビゲイルというんだね?
それじゃあアビー、単刀直入に言うよ、ここから出たら私の養子になってくれないかい?」
名前を確認し彼は私の目を見ると唐突にそんな事を言ってきた
顔をよく見ると笑ってはいるが目は至って真面目な目をしている
「私より他の子の方が…」
「他の子は…みんな死んだよ」
「え?」
「すべての部屋を見てきたけど、”生きている”人は君だけだった」
うそだ嘘だウソだ
私の体の震えが止まらない、心臓は破裂しそうなほどに鼓動が早くなる、自然と腕がお兄さんの背中へと回り、額を胸へうずめてしまう
「なんで私なのっ…私なんかよりもっと良い子はもっと居たのに!
なんで私だけなの!」
力いっぱいに抱きしめ、涙を流し、激しく慟哭する私を、お兄さんは優しく抱きしめ返してくれた
「神様はね、等しく人に命を与えるが、奪うのは苦手で等しくは奪えないんだ。
だからこうやって、普通は死んでしまうような状況でも生き残る人が居るんだ、一人残ってしまった事をそんなに悲しんでいてはいけないよ。
君は生きている、生き残っている、ならば進むべき道は一つ、逝ってしまった人たちの事を忘れず、その人たちの分もしっかりと生き続ける事だ。
そして幸せになる事も、君の使命だ」
「私の、使命」
お兄さんは優しく笑い、目元を伝っていた涙を拭ってくれた
「幸せになるためには、優しい保護者が必要だろう?
私なんかピッタリだと思うんだ」
この優しいお兄さんと一緒に暮らせるという事を想像すると悪い気はしなかった
「どうだい?養子になってくれるかい?」
「うん…私なんかで良いなら、私を養子にしてください」
悲しみではなく、嬉しくて流れる涙をお兄さんのシャツにつけながら、私は頷いた
「話は終わったかい?」
アーサーと呼ばれていたお兄さんが、少し焦りながら私達に話しかけてきた
「この建物築年数の長い木造建築だからか崩れそうな気がする、早く出ないかい?」
「あぁそうだね、この建物が崩れたら僕達は無事でもこの子は無事じゃ済まないかもしれないからね」
そう言うとお兄さんは私を抱きかかえ、部屋から飛び出した。
走る速度は凄まじく、玄関まではあっという間に着き、建物から飛び出した
「うん、無事に出れたようで何よりだね。」
お兄さんは優しい笑顔を私に見せ崩れる建物を背に私へと口を開いた
「さ、アビー
怪我は無いみたいだからこのまま服を仕立てに行くかい?」
「それよりもお兄さんの名前、教えてもらってない…」
「あぁ!フフッ完全に忘れてたよ!
私の名前はマーリン、マーリンお兄さんって呼んでくれたら嬉しいかな」
「はい!これからよろしくお願いします!マーリンお兄さん!」