第五話 どこにでもいる
生活において文句はありません。
衣食住が保障されている彼は昔に比べれば大分ましになりました。
が、少し外側に目を向ければ納得いかない事ばかりでした。それが気に入らない。
だから頑張って彼は偉くなりました。
●月×日。日本のとある観光名所。
そこは四季とりどりの自然豊かであり、交通や近代建設が調和したとある会場で、国際会議。サミットが開催されていた。
その主催国。日本の代表者が世界のあちこちからやって来た代表者の人間と言葉を交わし、握手を交わしていた。
それを遠目に見ていたとある国の代表。ちょうど地球の反対側の国やその付近の代表者たちは国際的に甘い日本に不平等的な交渉を持ちかけようとしていた。もちろん、自分達が有利で日本が不利になる条約を結ぼうと。内心舌なめずりしながら隣にいた隣国の代表者にしか聞こえない声でぽつりと呟くと、それを運よく拾ってくれた隣国代表者に慌てて止められた。
「やめとけ。やめとけ。今期の日本代表はやばい。
基本方針は報復。マニフェストは因果応報。嫌いなものは遺憾砲。
戦争放棄の条例の裏をかいくぐってアジアの統一をした怪物だ。支援だけではなく必要ならば粛清。国内の反日をたたき出し、反抗的なマスコミはお取り潰し。不法入国者や侵犯を行えばそこに自ら乗り込んで文字通り力ずくで取り押さえるやつだ。
お互いWINWINな関係になればある程度融通も聞かせてくれるし、支援も補助もしてくれるが、一度でも歯向かえば徹底的に経済的にも物理的にも叩き潰す。
それで日本の近くにある外交官は顔面を潰され、経済制裁をされて、デフォルト。別の近くの国に合併吸収された。逆恨みでまた日本に噛みついたが、今度はぐうの音も出ないうちに死んだほうがマシと言われるくらい惨たらしい状態にされた。
日本から何かが欲しいならこちらも何かを差し出すんだ。無ければ誠心誠意で懇願しろ。今の日本は鬼だが無情ではない。いいか。絶対だぞ」
注意された代表者は改めて日本代表に目を向ける。
見ればこの場にいる誰よりも逞しい筋肉の持ち主。下手をしたら今まで見てきた人間のなかで一番ではないだろうか。少なくても自分ならあの体つきの拳に殴られたら歯が全て折られるのではと思ってしまう。
見ればアジア系の代表者たちの表情は若干ひきつった笑顔で日本に挨拶している。
彼等は知っている。
目の前の代表者は海外で、日本人が事件に巻き込まれればすぐさま保護に向かい、彼等を人質に取られた場合。特殊部隊を派遣して救い出す指示を出すらしいが、中にはそれで間に合わない場合、代表者自身が突撃し、犯罪者たちを文字通り叩き潰した事を。
国内では反日思想の人間。反社会的組織。スパイ。工作員。そういった思想の会社や団体は有無を言わさず叩き潰すか叩き出す。何かしらのダメージは負わせてたたき出すが、あまりにも酷ければ日本国内で処罰する。というか、日本で悪事を働くやつなら殴り飛ばされても文句はないだろという理論だ。
日本には犯罪者を海外に引き渡す条約もあるが、彼はそれを廃止し日本独自で処罰する事に従事。そうする事で日本を守り、諸外国には『なめんな、ぶっ潰すぞ』と圧をかけることが出来る。
そんな事例と実績。そして、そんな彼を支え、従事することが出来るメンバーがそろっている時点で日本をなめてかからないほうがいい。
冷や汗が出てしまった。思い当たる節があるのだ。
これまでの日本は国際的に大きく支援はしても大きな立場は与えられていなく、発言力も少ない。しかし、今の代表者が就任してからはそれが一転。
『スポンサー様なんだから言う事をきいてもらう。こちらの指示に従え。従わないなら支援を打ち切る。歯向かうなら報復する』
といった反抗的な日本になった。が、あくまでも反抗。接し方を間違えなければ今まで通り優しい日本である。
とある外国の代表者は忠告とこれまでの日本の同行を思い出し、彼と言葉を交わす時、表情が引きつってしまったのだ。なにかやらかしたらやられる。物理的にも経済的にも。
「は、はじめまして。ミスター。私は▲▲▲国、大統領の●●です」
面と向かったからこそわかる。
噂は本当である。そして、目の前の男はやる時はやる。確実に徹底的に。そんな凄みがある。言葉じゃなく本能で理解した。
日本代表者その言葉を交わしながら握手をする。
「我が名は太郎。田中太郎」
悪事を真正面から叩き潰し、淘汰する。
国内に危険・腐敗があればどんな事情があれど叩き潰し根源を断つ。暴れん坊将軍。
国外で助けを求める者がおれば、救出。補助し、二度とそうならないように教育を施す水戸黄門。
悪事あるところに彼は現れる。悪事を潰した場所には彼の足跡が残る。
「どこにでもいる日本国内閣総理大臣である」
彼の行動で救われた人がいた。
彼を支えたいと思う人がいました。
彼の相棒に。彼の支援者に。彼の伴侶に。彼の護衛に。
様々な人達の支援は沢山ありましたが、しょせん彼は自分勝手に生きたいだけの人でした。
それはヤンキーと同じ。悪徳業者と同じ。悪質な上司と同じ。暴力団と同じ。カルト宗教と同じ。躾の鳴っていない言う事を聞かない子どもと同じでした。
ただ、少しだけ違うとしたのなら、それは何かを変えたい。貫きたいと思った時から、休まず、怠けず、真摯に自分を鍛えたそんな人物だったのです。