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第一話 どこにでもいる一般人である。

あるところにとても貧弱な男の子がいました。

男の子は自分を助けてほしいと毎日願っていました。

しかし、誰もそれを叶えてくれません。

 桜が散り始める春。僕は地元の高校に通うごく普通の高校生。

 この学校に進学した理由はたった一つ。

 少し離れた場所で新入生歓迎の言葉を聞いている幼馴染と一緒に居たいから。

 フランス人と日本人のハーフである幼馴染は、それはモテた。

 西洋人特有の色白さと金の髪。日本人染みた小柄な顔と体つきで、下手な美少女フィギュアよりも美少女に見える彼女は小学五年生のころから下は幼稚園生。上は大学生に至るまで告白されてきたが、趣味であるピアノを理由に断ってきた。

 高校生になった今、その美貌は磨かれ続けていた。このままだと確実に数多の告白を受けることになるだろう。今まで通りなら彼女は断りを入れていくかもしれないが、ここ最近、それが変化した。

 それは、幼馴染がとあるコンクールに出場し優勝をもぎ取った事。

そうなった事で気持ちに余裕が出来て、年ごろの娘らしく恋人を作ろうとするかもしれない。

 今までは幼馴染の負担にならないように。いや、嘘はやめよう。

 コンクールで忙しく告白しても断られる可能性があったからタイミングを見計らっていた。告白しても断られないように。受け入れてもらえるように。

 幼馴染と言うポジションを最大限に活かし、今日の放課後。彼女が通うピアノ教室に行く道すがら僕は告白する。

 そんな決意をしているからか、新入生代表の言葉やら、校長の話やら、ただ話が長いだけの時間もあっという間に終わった。

 そして、自分に割り振られたクラスへ行くと、そこに彼女もいた。これは神様が背中を押してくれているんだと思っていた。

 新しいクラスメートの殆どは彼女に集まっていた。そこには当たり前のように男子もいた。彼女は美少女だからお近づきになりたいと思うのは昔からだ。

 だが、そんな熱烈なアプローチも顔には出さないが、当人からすれば見世物の動物みたいだと辟易しているらしい。その中の一人だと思われないように細心の注意を払ってきたつもりだ。

 幼馴染が助けを求めるような視線をちらりとみせた気がした。彼女の上目遣いだけで勘違いしそうになる。これで何人もの男子。時折女子も惑わされたのだ。慌ててはいけない。

 ここで勘違い野郎よろしく。彼女を堂々と守ろうとすればイタイ奴になると愛読しているライトノベルで知っている。つかず離れず。それでいていつでも彼女を守れるようにそれとなく話題を振ったり言葉を遮ったりした。

 その努力も報われて、午後から始まる部活勧誘の時まで彼女を見守りきったと思う。このまま放課後までやり過ごせればと思っていた矢先だった。

 部活勧誘。それは上級生からの接触も増える。むしろ、部活勧誘を建前に声をかけてくる輩が湧いて出るという事。

 部活の勧誘は多かった。勧誘している男子学生の殆どが幼馴染に声をかけているのではないかと思うくらいに過密なもの。それから逃れるため、彼女は人気の場所へと足を運んだ。そこまで来るとぴたりと勧誘が止まった。まるで世界から切り取られたかのように一時の静寂が訪れた。

 はっきり言って、これは異常事態だ。幼馴染の周りはほぼ常に人がいる。会話がある。それがぴたりと止んだのだ。そう、


 「………」


 目の前で看板を持つ一人の巨漢の前に来た瞬間に。

 その巨漢は明らかに場違いな雰囲気と風貌だった。


 彫が深い表情から、まるで世紀末覇者。もしくは戦国時代の猪武者か歴戦の傭兵を彷彿させる。はっきり言って、学生服を着ていなければ同年代と言うよりは三十代を思わせるほどの迫力があった。更に目の下にある大きな切り傷。それが猶更、堅気の人間とは思えないほどの迫力を生む。

 体躯は猶更だ。最大サイズの学生服の上から二つのボタンをはずしている。その下にあるのは分厚い胸板が見えた。

 着崩している制服上から見てもわかるほどの鍛えられた肉体。筋骨隆々を地で行く。むしろ、目の前の男のためにあると言わんばかりの太マッチョ。

 沈黙を保っているはずなのに、彼の背後にゴゴゴゴゴという効果音が発生している。そう思う程の存在感を目の前の巨漢から感じた。

 その巨漢の周り。半径三メートル内には幼馴染しかいなかった。おそらくそこが巨漢のテリトリーなのだろう。そこに入ればただではすまない。と、そう思わせた雰囲気があった。

 そんな場所に幼馴染を一人にさせられないと彼女の元へ行こうとした時、勧誘していた上級生の一人が僕の腕を掴んで止めた。


 「おい、新入生。今はやめておけ。あいつは田中太郎(たなかたろう)。十七歳。189cm。89㎏。見ての通り武闘派学生だ。

 得意科目は体育。苦手科目は外国語。

 友人らしき人物は同じ部活の人間だけの硬派な不良学生だ。

 気に食わない奴は女、子どもから教師。暴走族。果ては反社会組織も殴り飛ばすという噂まである、札付きのワルだ。ああ、安心しろ。舐めた態度で接しなければ殴られない。はずだ。

騒がしい事が嫌いで、静寂を好む。ほぼ無口と言うか喋った瞬間を見た人間はごく僅かな、不気味な男さ」


 上級生からの忠告を受けた、僕は猶更彼女の元へと行かねばと思った。

 そんな物騒な輩の前に意図せず出ていった幼馴染も見れば、巨漢の雰囲気に飲み込まれ涙目になりながら小刻みに震えていた。

 巨漢。田中太郎はそんな彼女を黙ってみていた。まるで、目の前を転がっていく石ころを見ているのか、それとも他の意識があるのか。とにかく、田中の意識は幼馴染にあった。それが恐ろしいのか彼女は震えたまま何も言えずに田中の目の前で立ちつくしていた。

 止めてくれた上級生の手を振りほどいて彼女と田中先輩の間に割って入ろうとした瞬間、田中の手が動いた。

 それはまるで目の前で電柱が。いや、ビルが倒れて来たかのような威圧感を感じた。だが、僕はそれに臆しながらも幼馴染の前に立った。

 それを生意気と思われたのか田中先輩にぶっ飛ばされるかもしれないと思わず目をつぶった。だが、覚悟していた衝撃はいつまでたっても来なかった。

 恐る恐る目を開けてみると、田中先輩はこちらに向かって一枚のチラシを見せつけていた。


『第二漫画研究部、入部者募集!!漫画以外の事も可!各々自由に活動できる!加入だけでも歓迎!』


 やたらカラフルなイラスト付きのチラシを僕の前に突きつけていた。

 改めて、田中先輩の風貌を見れば、あまりの強者の気配には似合わないカラフルな色遣いで『第二漫画研究部!』と書かれた看板を持っていた。

 …その風貌で漫研?体育系でもなければ演劇での役作りの体でもないインドアの部活?

 呆気にとられながらも思わずそのチラシを受け取ると、田中先輩は終始変わらない表情で看板と勧誘のチラシの入ったカバンを持ち直すと、僕たちの事など文字通り眼中にないのか直立し、その場から動かなかった。

 まるで熊と言った猛獣から背中を見せないように後ずさりしながら、僕と幼馴染はその場から離れることが出来た。

 受け取ったチラシはしわくちゃになるくらいに湿っていた。あまりの緊張感から生じた手汗でこうなったのだ。

 もし、田中先輩の機嫌が悪かったら…。そう考えただけでも恐怖で動けなくなってしまいそうだった。


 部活勧誘から逃れ、ようやく放課後になった。

 幼馴染は様々な部活から勧誘されていたが、今まで通り笑顔で断り続け、いつも通っているピアノ教室が開かれている小型ビルへ共に歩いていく。

 本当はこの瞬間に告白したかったのだが、幼馴染は田中先輩からのプレッシャーで疲れていた。ピアノ教室ではこれからの事を相談すると言っていたので、それが終わった後に告白しようと決意を改めた。

 ピアノ教室がある小型ビルは三階建て。一階は中華料理店。二階は空き部屋。三階にピアノ教室といった細長い建物。その入り口で幼馴染を待っているわけにはいかないので、道路を挟んで向かい側のコンビニで時間を潰すことにした。

 日が暮れ始め、空が茜色に染まり始めた時にそれは起こってしまった。

 向かい側のコンビニにまで響く爆発音が、ピアノ教室の下にある中華料理店から発生した。

 爆発地点である料理店からは多くの人数が飛び出す。その背景には油で引火して大きくなった火と黒い煙が立ち込めていた。

 上階であるピアノ教室の関係者であろう人達もビルから飛び出してきた。その表情は皆、突然の異常事態に恐怖で顔を歪めていた。

 僕も慌ててその場に急行した。幼馴染の安否を確かめるためだ。

 いつもは人の中心にいて、どこにいても目立つ。

 そんな存在感を放つ彼女の姿を確認することは出来なかった。

 嫌な予感がする。そんな事は無いと自分に言い聞かせながらもピアノ教室から逃げて来ただろう人達に幼馴染の事を尋ねた。そして、帰ってきた答えが。


 幼馴染は逃げ遅れたという残酷な事実だった。


 その時は既に火事の現場となったビルの前には多くのやじ馬が集まっていた。

 一階にあった中華料理店の上部は勢いの強い火にあぶられており、黒煙が大量に巻き起こっていた。離れているにもかかわらず火傷しそうな熱波をその身に浴びていた僕の体は考えるよりも先に動いていた。

 強烈な熱波を生み出す火と黒煙でほとんど見えなくなっているピアノ教室へ。幼馴染がいるであろう、その場へ向かうために、周りの人間の制止を振り切って、火事の現場に飛び込んでいった。




 喉が裂けるような、焼けるような痛みを伴う咳をした事で彼女は目を覚ました。

 確か、今日は入学式を迎え、部活勧誘を断り、今後の予定を相談しようとピアノ教室へ来た。そこまで思い出した彼女は現状を把握した。

 ピアノの先生との相談中に爆音と大きな揺れを感じて窓の下を覗けば勢いよく噴き出る炎と黒煙が見えた。それから数秒後に火事だという悲鳴が上がると、その場にいた全員がパニックになってピアノ教室を飛び出した。当然、自分も慌てふためいていた。

 この場から早く逃げようとして教室を飛び出ようとしたが、そこにすし詰めのような人だかり。誰もが先に出ようともみくちゃになっていた。

 自分はその最後尾なのだと気づいた瞬間。二度目の爆発。その揺れで足を滑らせて頭から床に落ちた自分は打ち所が悪く気絶してしまった。

 早くこの場から離れなければと、立ち上がろうとしたが、家事の恐怖で体を上手く動かせない。見渡せば黒煙が視界の八割近くを埋め尽くし、自分がどこにいるのかもわからない。

 今まで感じた事のない死の恐怖がわが身を襲い、その恐怖で体が動かない。

 助けを呼ぼうにも煙で喉がやられたのか、それともあまりの恐怖で声が出せない。

 出てくるのは煙でやられた咳と、恐怖から零れる涙。そして、後悔。

 自分の幼馴染が今日の帰りに大事な話があると言っていた。それは放課後かと思ったが、どうやらピアノ教室の帰りに話すと。その内容は内心、分かっていた。

 自分の驕りでなければ彼は自分に告白するのだろう。答えは決まっている。

 幼い頃からずっといたのだ。自分が困っている時、悲しんでいる時は傍にいて元気づけてくれた彼に素直な気持ちで答えるつもりだった。

 それなのに。

 悲しかった。苦しかった。だが、それ以上悔しかった。

 これから自分は彼と言う恋人と共に人生を歩んでいくのだと思っていた矢先にこんな火事が起こってしまった。


 もう、私は助からない。最後にもう一度幼馴染の顔を見たかった。

 そう覚悟した時だった。


 黒煙の下から這いずるように現れた幼馴染の姿。

 自分と同じように目と喉をやられたのか、赤くなった目から涙を流し、咳き込み。こちらに向かって倒れこんだ。

 自分と同じように火事の熱と煙で体のあちこちに焦げ跡や火傷をつけた彼の姿はあまりにも酷い状態だった。彼は自分より酷い状態だった。

 ああ、なんて事を願ってしまったのだろうか。叶ってしまったのだろうか。

 こんな状況では誰も助からない。自分の小さいと思っていた願い事は彼を巻き込むだけの横暴を超える悪行だと気が付いた。

 願いをかなえてくれたのは天使のような笑顔を持った悪魔だったのだ。

 そして、願いを叶えた代償に自分達の命を刈り取ろうとしている。

 視界を奪う程の黒煙が一気に晴れると同時に火事の火が迫る。壁に天井に。そして、自分達が倒れ伏している床にまで広がっていく。

 もはや酸欠でまともに動く事すらままならない。火が迫る。視界が赤一色に染まっていく。

 そんな中で幼馴染の彼と目が合った。彼は何かを喋ろうとして唇を動かしたが、それが何と言っているのかが分からない。だが、こんな状況でも少しでも私を守ろうとして、震える体で私の頭を何とか抱きしめてくれた。

 彼も自覚したのだろう。もう助からないと。それでも不安がらせないように抱きしめてくれた。


 ああ、神様。いや、悪魔でも構わない。どうか、彼だけでも助けてください。

 自分を最後まで助けてくれる彼だけでも助けてください。


 少女の二度目の願い。それを願ったと同時に熱で劣化したコンクリートの天井が瓦礫となって崩れ落ちてきた。


 神に少女の願いは届かなかった。悪魔は少女の願いを笑って跳ねのけた。




 だが、そこに突如燃え盛る炎の中から現れた田中太郎はその願いを少女も助けると言ったサービス付きで受理した。


 まるで孔雀のように雄々しく広げた両腕で。鍛え上げられたその背中を使い彼女達に覆いかぶさるように瓦礫から守ると、それを全身の力を使って跳ね飛ばした。

 そして、倒れ伏している少女と少年を両脇に抱えると同時に、走り出した。その途中でコンクリとの壁にぶつかりはしたが壁伝いに走り、窓のあるところまで走りきりと、その勢いのまま窓に向かって跳び出し、窓を突き破って外へと飛び出した。それは映画で見る大型バイクが窓ガラスを突き破るシーンのようだった。


 高さ八メートル近い場所から高校生二人を抱えて外に飛び出した太郎は空中で無理やり体制を直立状態になり、そのまま地面に着地した。そう、墜落とか、落下ではない。

 直立不動のまま。膝への負担など考慮せずに直立状態で舗装された地面へ着地した。

 救急車や消防隊が駆けつけている目の前に巨漢が降り立ったのだ。消防隊はもちろん、野次馬達も驚いていたが、太郎が抱えている少女と少年を見てすぐさま、救急車に乗るように指示した。来ている学生服が所々焦げていた状況を見ての指示だったが、火事の現場から飛び降りてきた太郎に向かって君は誰なのかと尋ねられたため、少年と少女を救急車に運んだ太郎はボディビルディングのポージングを取りながら語った。


 「我が名は太郎。田中太郎。どこにでもいる一般人である」


 その光景を救急車に乗せられ、扉が締められる寸前まで見ていた少女と、その場にいた全員の心の声が揃った。

 お前みたいな一般人がいるかと。




 田中先輩に助けられた僕は病院のベッドの上で目を覚ました後、警察と消防。病院の関係者に家族にしこたま怒られた。

 火事による被害はほぼゼロ。怪我人も僕と幼馴染だけで。一週間もすれば跡も消える軽い火傷だけで済んだ。だが、それは奇跡みたいなものだと起こられた。

 隣のベッドで同様に目を覚まし、叱られている幼馴染と共に申し訳なさで縮こまっている。そして、病室の奥で椅子に座って叱責を受けている田中先輩の姿もあった。

 その叱責はあまりにも実感があった為何も言えなかったのだが、田中先輩だけではなにも悪そびれた顔もせずにさらりと言ってのけた。

 助けられる自信があったから助けて何が悪い。と、

 そもそも田中先輩は火事の現場に突入した僕だけを連れ戻そうとしただけで。幼馴染まで助けるつもりはなかった。彼女はついでだった。

 なにより、功績を褒められてもお叱りは間違っている。と、

 それには唖然とした周囲の人達だった。確かに田中先輩がいなければ、僕も幼馴染も助からなかった。だが、それでも火事の専門家でもない一般人が火事の現場に飛び込むのは良くない。それで死んでいたらどうするのだとお叱りを受けたが、そうなったら自分一人だけの余計な被害だったであろう。と、まるで武士みたいな言い訳を宣うありさま。

 後から知ったが、田中先輩の家庭事情は複雑であり、その証拠に背中に怪我を負って病院に運ばれた連絡は伝わっているはずなのに、先輩の家族は一向に現れなかった。

 怪我の治療をしてくれたお礼に説教を聞き終えた田中先輩は僕の近くまで来ると足を止めて、こう言った。


 大した力もないのに窮地に乗り込むな。だが、その無謀さでお前の幼馴染も助けられた。


 そして最後に、よく頑張ったなと彼に似つかない程の優しい笑顔を数秒見せると、すぐさま無表情になり病院を後にするのであった。




 病院で検査のために数日入院した後、退院するとすぐに僕は幼馴染と共にとある部室へと足を運んでいた。

 入学式の翌週になったが、二人で話し合って入部することを決めたのだ。

 第二漫画研究部。

 そこは去年廃部になったウエイトリフティング部。筋トレ用具を奥へ配置し、手前に二つの机を向かい合わせにしただけの簡素な部屋。

 本当に名ばかりの好きな事をするためだけの部室。田中先輩は部屋の奥でジャージを着こみスクワットをしていた。

 この部活の部長らしき優男は机の上で医学用の解体新書のページを片手に軽く絵を書いていた。それは漫画ではなく、トレーニングのためのチャックリストを作っている最中だったのだ。

 急に部室の部屋を開けられて驚いた部長は、まさか誰かが来るなんて思っていなかったらしく、驚いた表情を見せていた。逆に田中先輩は視線を向け、火事で助けてもらった僕達だと気が付くと、無表情にスクワットを再開した。

 そんなストイックな田中先輩だが、その姿に僕たちは憧れてここへ来たのだ。

 優男の部長から部活内容の説明を受けたが、活動内容は本当に何でもよかった。

 田中先輩のように筋トレをするもよし。部長のように。というか、部長も漫画研究部の体を取りつくために簡単な絵を書くがそれも田中先輩同様に筋トレのための物で、彼の活動も八割は筋トレだという。

 悪く言えば不良のたまり場みたいなものだぞ。部員二人しかいない。

 と、忠告されるがそれでもかまわないと言った。幼馴染は持ち運びが出来るエレキピアノを部室に置かせてもらえればピアノの練習ができる。僕は田中先輩のように自分の我を通せるだけの心身の強さを彼から学びたい。

 それらを伝えると、部長は少し難しい顔をしていたが根負けしたように項垂れた。田中先輩は変わらずスクワットだけをしている。背中を怪我しているからしばらくは下半身しか鍛えられないそうだ。


 「…わかった。ただし、本当にうちの部活は自由だ。いつ来てもいいし。いつ休んでもいい。何をしてもいい。周りに迷惑をかけなければね」


 部長さんはそう言って、僕達を改めて部室に招き入れた。

 そこで僕は初めて、彼等に名前を告げた。


 「僕は次郎(じろう)結城(ゆうき)次郎。ただどこにでもいる入部希望者です」

だから男の子は自分で自分を助けることにしました。

自分を鍛え続けました。

そして、いつか誰に言われるまでもなく自分のような人達を助ける為に強くなりました。


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