上原舞夏とレッドちゃん(1)
関森駅に着いた時には、16時半を回っていた。階段を下りながら上原舞夏は改めて現状を俯瞰し、改めてため息をつきそうになった。
「ねぇちー、ほんとに行くの?」舞夏が尋ねると、赤羽千秋は振り返っていたずらっぽく笑った。
「もちろん!」
二人はそのまま改札を抜け、例のカラオケ屋のあるビルに入っていく。
「あ、言うの忘れてたんだけど、見える人と見えない人がいるらしくて」
「なんだそりゃ。したらうち見えないかもしんないの?」
「ワンチャンね。でもまーちゃんなら見える気がするんだよねー」
そんな適当な。幽霊がいるっていう嘘に保険をかけている場合も考えられたが、舞夏は千秋がそんなことをする性格でないことを知っていた。エレベーターに乗り、特有の沈黙が流れる。カラオケ屋のある4階に着き、ドアが開く。
「ほんっとに怖くないから、ね?」
「それ、ジェットコースターとかに無理くり乗らせる人しか言わないんだけど」舞夏は覚悟を決めてエレベーターを降りる。行くしかない、11号室に。そしてなんかやべー薬とかがないか調べてやる。
「あたしが言ってからもずっと一人で来るから、もう友達連れてこないのかと思ったよ、チアキ」
11号室に入って、初めに舞夏の目に入ったものは、というかそこにいたのは、赤黒い何かだった。それを千秋は「レッドちゃん」と呼び、それは千秋と舞夏を歓迎した。
「は?え?なにこれ」恐怖と戸惑いと驚きで語彙力を完全に失った舞夏の声は震えている。これって、あれだよね完全に。
「まーちゃん、こちら、幽霊のレッドちゃん」
「ちょちょ、ちょっと待って。理解が追い付かねーわ」
「無理もないわ。あたしだって自分のこと幽霊だって信じれないもん」
幽霊は黙っとけマジで。ちーはなんでこれと仲良くしてんだ、呪われそう。ってか、操られてるとか?舞夏は少し後ずさった。
「そういえばあの男はどーなったの?」急に幽霊が千秋に話しかける。舞夏の警戒心を緩めるために会話をしようとしているのか。というか…
「あー、あれから来なくなったよ」
「そう、ならよかった。あたしのお陰ね」
「ちょっと、何の話?」唐突な話題、千秋から聞いていない話である。舞夏は尋ねずにはいられなかった。聞くと、この部屋でバイトの先輩に襲われそうになったとか、それを助けてもらったことをきっかけにこのレッドとかいう幽霊と仲良くなったとか、とんでもない内容に、舞夏は憤慨した。
「ちー、だから毎回いってるじゃん!気を付けてって!あんた注意力なさすぎ」
「まーちゃんは過保護すぎるんだって」
「そういうことがあったのにまだ言うか!あんたこの幽霊がいなかったら―…」
「あ、レッドって呼んでね」幽霊の横槍。
「…こいつがいなかったらどうなってたか!」思わず怒鳴ってしまっていた。舞夏は自分でも何故こんなに気が立っていたのか分からなかった。
「……トイレ行ってくる」
「あ、待ってチアキ!」止めようとするレッドを振り払って千秋は出ていく。舞夏はソファに力なく座る。舞夏とレッドの間に気まずい沈黙が流れた。ちーにこんなに怒ったの、初めてだ。