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カラオケ屋さんのレッドちゃん  作者: 深田おざさ
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りんごと千秋とレッドちゃん(2)

「お疲れ様でーす」久々の店内の重低音に歯向かうようにスタッフルームに入った千秋は、いつも通りの覇気のない挨拶をした。

「あら千秋ちゃん、久しぶり」さとみ店長がいた。千秋に気づき、体はもう平気?と寄って来てたずねてくる。

「はい、特に何とも」学校をずる休みした次の日に先生がめちゃくちゃ心配してきた時のような後ろめたさと恥ずかしさを感じ、千秋はもごもごと答えた。別に千秋は先輩に迫られたことによる精神的な支障は特になく、というよりもあったのかもしれないがレッドの存在にすべてをもっていかれたのだった。

 その場を適当な挨拶でしのぎきると、6時間の仕事が始まった。今日は土曜日。学生で賑わいを見せる。

「すいませーん、今からフリーで入りたいんですけどー」

「申し訳ございません。いま店内大変込み合っていて、お部屋の方、11号室だけなら空いているのですが…」

「あー…。ならいいっす」同じような会話が続く。

 やはりこの噂は有名なのか。来る人来る人誰も11号室に入ろうとしない。千秋はこの状況に少しの優越感を抱く。あーあ、レッドちゃん面白いのに。みんな知らないんだよな。


「はーい、久々の仕事お疲れ様、千秋ちゃん。もう上があって大丈夫だよ」店長の終わりの声掛け。怒涛の6時間を乗り越えた千秋は、ほぅっとため息をひとつついた。さて、ここからだ。部屋の空き状態を確認する。客足のひと山を乗り越え、5部屋も空きがある。もちろん、11号室も。

「店長、1時間だけ歌っていいですか」

「今から?元気だねー。ちゃんとお金払ってね」

「はーい」いや、いいんかい。飲食店のまかないぐらい軽くOK出ちゃった。自分で部屋を選択し、マイク一式をもって向かう。11号室だ。


「レッドちゃーん、いるー?」千秋は恐る恐るドアを開ける。てか思ったらレッドちゃんって幽霊だよね。私これ大丈夫なのか。

 実は騙されていてこのまま呪い殺されるのではないか、一瞬だけ嫌な思考が頭をよぎり、千秋は踏み入れた足を持ち上げようとした。

「あー!チアキ!やっっっと来た!」歓喜の大声と赤黒いものが千秋の視界を覆う。

「うわ!ビビったぁ」千秋は腑抜けた驚き声をあげてのけぞった。閉まったドアに後頭部をぶつける。

「あ、ごめん。驚かせちゃった?初めて幽霊みたいなことしちゃったわ」ふふふと幽霊のレッドが笑う。

「幽霊ってこと自虐で使わないでよ」レッドの唐突なセリフに思わず吹き出す。

 一段落して千秋はソファに座った。レッドは隣に座った。ひんやりとした空気が千秋の左腕に優しく触れている。

「ね、ね、何歌ってくれるの」レッドは最近の歌を聞きたいようだ。千秋に迫る。

「待―って待って待って。喉乾いたからちょっと一杯」

「お酒みたいに言わないの」レッドのツッコミにふふっと笑いながら、千秋はりんごのパックジュースにストローを刺す。ぷすっと、爽快な音がひとつ。

「あ、りんごジュース」レッドが缶に目を向ける。

「いいなー。あたしも飲みたい」

「でも飲めないでしょ?」

「そーよ。でもあたしりんごに目がないのよね」

「ふーん、りんご好きなんだ」…ちゅーーーー。

「…あたしも飲めるかな」

「やってみる?」案の定、口はストローをつかめず、空しく通り抜けた。

「もー-」

「あはははははっ」千秋はジュースを置いてリモコンを取る。

「何聴きたい?」

「じゃあまずねー…」


 一時間はあっという間に過ぎていった。千秋はレッドに流行の歌を披露し、一緒に歌ったりもした。レッドは自分が生きていた頃に聞いたことのあるはず歌すら覚えていないようで、千秋が昔のヒット曲を歌っても、同じような反応をした。

「ありがとね、チアキ。また来てね」レッドは名残惜しそうに、帰る準備をしている千秋を見た。

「うん、今度は2時間かな」バックを背負い、ドアノブに手をかける。

「そーだ友達!今度友達連れてきて一緒に歌いましょうよ」

「友達かぁ」ドアノブから手を放す。

「…いないの?」

「いるわ」レッドちゃんのことが見えて、驚かないで、そのままカラオケ一緒に歌ってくれる友達がいるかどうかってところだよ。自分しか知らないという優越感と、自分の友達にも知ってもらったらもっと楽しいんじゃないか、という葛藤が千秋の頭の中で起こる。

「とりあえず、頑張ってみるね。ばいばい、レッドちゃん」帰ったらゆっくり考えようと、別れの挨拶をした。

「ばいばい、チアキ。また今度」レッドはドアが閉まっても手を振っていた。

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