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カラオケ屋さんのレッドちゃん  作者: 深田おざさ
17/18

日葵と海斗と阿部敏弘(1)

 8月も終わるというのに、夏の日差しがぎらぎらと差し込んでくる店内で、斎藤日葵さいとうひまりはため息をついた。大学のテストが終わり、単位をひとつも落とさなかったことにほっとしたのもつかの間だった。

 日葵にはもともと、阿部敏弘あべとしひろという、3ヶ月前まで付き合っていた男性がいた。大学の別の学部だったが、サークルで知り合い、半年前に付き合い始めた。充実した毎日を送っていたはずの日葵は、時間が経つにつれて違和感を覚える。家の中でもスマホを手放さない。ときどき2,3日何の前触れもなく連絡が途絶えたりする。金を少しの間でいいから貸してくれ、と言われたことも何度もある。夜を共に過ごしたこともない。浮気でもしているのか、と思いつつ共通の知人に探りを入れてもらったところ、それどころではなかった。

 浮気、ギャンブル、暴行…。聞くだけで日葵の決意は固まった。真反対の人間であると、そう感じずにはいられなかった。自分はなぜこんな男に心を許してしまったのか、どうしてこんなにも見る目がないのか。自分が情けなく、みじめに思えたのだ。別れ際に暴力を振るわれるかもしれないと思った日葵は、相談に乗ってくれた男女4人に見守られながら、敏弘に別れを告げた。

 しかしテストの2週間前、敏弘がストーカーをしてくることに気が付いた。女友達複数人や一人で歩いている時には後ろを付け回し、男性と歩いていると「そいつに乗りかえんのかよ!」とつっかっかってきた。しかし周囲の人が止めてくれたこともあって、ここ最近はなんの音沙汰もなかったのである。

 それが1週間前、また連絡がきたのだ。よりを戻そう、という内容で、最寄り駅で何度も姿を見かけるようになった。日葵は恐怖を覚え、わざわざバスで隣の駅まで行ってから目的の駅に向かうようになっていた。


「ひまちゃんって、海斗かいとくんのこと知ってるんですか?」

 今日のシフトが終わり帰ろうとしていたところに、高校生バイトの赤羽千秋あかばねちあきに声を掛けられた。彼女とは歴史系のオカルトで意気投合し、日葵にとってはとてもかわいい後輩だった。

「海斗くんって?」

「えっと、わたしの友達の元ご近所さんで…」

 そんな人を私が知るかいな。日葵は心の中でつっこむ。

「1ヶ月くらい前に、タオル借りたって」

 千秋からの言葉にハッとした。彼だ。

「知ってた」日葵はふふっと笑った。

「名前までは知らなかったけど」

「よかった!なんか今日、来るらしいんですよ。その時にタオル返すって言ってたみたいで」

「分かった。ありがとうね、ちーちゃん」

 日葵は千秋の頬をいつものように手で優しく包み、その柔らかさを堪能する。千秋はそれにふへへ。と笑う。まったくかわいい奴め。日葵は先ほどまでの悩みを一瞬忘れることができた。

 その直後、エレベーターのドアが開いた。出てきたのは、金髪に黒髪混じりの若い男性。

「あ、」

「お、やっと会えた」

 日葵を助けてくれたその人は、日葵を見つけるとバックの中からタオルを取り出す。

「俺、西山にしやま海斗っす。この前はこれ、ありがとう」海斗はそう言いながらタオルを差し出す。

「い、いえ。あの、あ、えっと、斎藤日葵です。こちらこそ助けてくださって、本当にありがとうございました」タオルを受け取りながら、日葵は小さく何度も頭を下げた。

 海斗はいえいえと言いながら、隣に立つ千秋を見る。

「もしかして、千秋ちゃん?」

「あ、そうです!赤羽千秋です」

「そっか!舞夏まいかと仲良くしてくれてありがとうね」海斗は微笑む。

 見た感じ、二人は初対面なんだ。なのにくん呼びでちゃん呼び。いやぁ、コミュ力の差が出ちゃうなぁ。日葵はそう考えながら二人のやり取りを見ていた。

「じゃ、用事は済んだんで」と言い、海斗は踵を返す。しかしまたこちらを向いた。

「…今入りっすか?」日葵が私服だったので、海斗はそう思ったのだろう。

「あ、今から帰ります」日葵はそう言うと、千秋に手を振る。

「なら送りますよ」海斗はエレベーターの前に行く。

「あ、大丈夫ですよ。4駅くらい離れてて…」日葵も海斗に続いてエレベーターの前に並ぶ。

「そりゃ確かに電車の方が良いすね」海斗は笑った。

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