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カラオケ屋さんのレッドちゃん  作者: 深田おざさ
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斎藤日葵と西山海斗(2)

「おーい、もうそろそろ辞めとけ」日葵が諦めた直後、声が聞こえた。日葵はそちらを向く。11号室に入っていった男性客が立っていた。

「誰だよあんた…」日葵の腕を掴んでいた男はその手を放し、男性客に体を向けた。日葵は掴まれていた腕を自分の方へ寄せ、状態を見る。若干赤くなっていたが、明日には治っているだろうと安心した。すると、

「に、西山海斗…」集団の一人が明らかに青ざめながらそう言った。西山海斗と呼ばれた人は、耳の裏を触った。日葵には、集団の空気が一気に変わったのが分かった。

 この人、もしかして本当にヤバい人なんじゃ…。日葵は少し後ずさった。ここで大喧嘩されたらどうしよう。

「なんで俺の名前知ってるのか知らねーけどよ、酔って節度なくなるのだせーぞ」海斗は集団に向かって言った。

「はぁ?調子こいてんなよてめぇ」さっきまで日葵の腕を掴んでいた男が海斗に近づく。

「辞めろって!こいつに喧嘩ふっかけるな!」海斗の名前を知っていた男は急いでその男の肩を抑えた。しかし男はそれを振り払って海斗の真正面に立った。

「てめぇの名前なんて知らねぇよ。だいたい関係ねーだろてめぇには」

 海斗はちらっと日葵を見た。

「あの子、俺の友達。だから変なことしないでくれ」

 かばってくれてる…。日葵はすぐに分かった。

「別に彼氏でもねぇのにしゃしゃり出てくんじゃねぇよこら!」男は怒鳴り散らしながら、海斗の右頬を思い切り殴った。後ろにいた複数人がその男を抑える。

 日葵は、男子の物理的な喧嘩を見るのは小学生ぶりだった。この年齢の男の喧嘩はもちろん初めて見るし、小学生のそれとは明らかに違った迫力があった。怖く感じた。心臓がぎゅっとなる。海斗はすぐに起き上がった。右頬が少し赤い。

「お前ほんとにやばいって!」抑えている男がまた言う。

「こいつここら辺じゃ有名で、三谷冬彦みたにふゆひこってのと一緒に暴力団つぶしてるんだぞ」

 本当にそっち系の人だった…。日葵はそれを聞いてさらに恐ろしくなった。自分とは真反対の人間であると感じた。そんな人に殴り掛かったらマズいんじゃ…。

「三谷冬彦って、あの…」海斗を殴った男はそちらの名前を聞いた瞬間、目を見開いて全身の力が抜ける。

「いつの話だよ…」海斗はまた耳の裏を触る。ピアスが揺れる。

「じゃ、次は俺の番ってことでいいよな」海斗は右手を分かりやすく男の目の前まで持ち上げ、強くこぶしを握った。男が青ざめる。それを見た海斗は、不自然に感じるほどやさしい声でその男に言った。

「…食らいたくなきゃさっさと帰んな。お前ら少し酔い冷ましてから出直せ」


「大丈夫すか?すいません、迷惑かけて」

 その後集団は、海斗の呼びかけに応じてそそくさと店を後にした。海斗はそれを見届けると、日葵に謝った。

「い、いえ。私の方こそ、すみません。こっちのトラブルだったのに」

 日葵は海斗に対して、恐怖というよりも畏怖に近いものを感じていた。不良ってめちゃめちゃ喧嘩っ早くて、常識無くて、子どもっぽい人たちなんだろうなー、とか思ってすみません。と心の中でも謝る。海斗はどもっている日葵を見てくすっと笑った。

「あんなの女性一人で対処する方がムズいすよ。困ったときはお互いさまってことで…」そう言うと、海斗もエレベーターの方へ向かう。

「あ、えっと…」日葵は呼び止める。海斗は立ち止まって振り返った。右頬の怪我はどう考えても自分の責任だ。急いでビニール袋にドリンクバー用の氷を入れ、スタッフルームの自分のバックに入っていたタオルを巻いて渡す。

「あのこれ、頬のところに当ててください。腫れちゃうといけないので…」

「え…」海斗は驚いた顔をしていた。

「あ、これ汗とか拭いたやつじゃなくて、ほんとに今日使わなくて綺麗なので、えっと…」日葵は焦って早口で言う。また海斗が笑う。

「じゃあ、ありがたく。ありがとうございます」そう言いながら頭を下げると、海斗は去っていった。

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