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プロローグ
重低音が心地よく鳴り響く、狭くも広くもない個室で、彼女はソファに座っている。他の部屋から聞こえてくる歌声や楽器の音に耳を傾けて過ごす日々は、あとどれだけ続くのだろうか。
気付いたときには、すでに彼女はここにいた。ここに来て何日経ったのか、外は昼なのか夜なのか、天気は晴れなのか雨なのか、何も分からずずっと同じ部屋で音を聞くだけの日々。
自分が幽霊だということは、ここに入ってきた人たちの反応を見て分かった気がする。驚く人、特に反応を示さない人。一度だけ霊媒師を名乗る人も来た。自分を受け入れてくれる人はほんの一握り。というか今までで一人だけ。
「よし行くぞ」
ふいに、ドアが開く。男女の店員が入ってくる。女の子の方は怖がっているようで、男性のほうが無理矢理入れようとしている。何で怖がるんだろう。あたしに害なんてないんだよ。そう話しかけても二人とも気付かない。彼女はため息をついた。
そうだ、確か自分を受け入れてくれた人が言っていた。この街の、あたしの噂。
とある大きなカラオケ屋。そこの11号室には…