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夜の散歩

作者: 緒 穢音

 ───歩く。

 一歩進む毎に、景色が流れていく。


 ───歩く。

 もくもくと煙を吐き出す工場、風にそよぐ稲の穂、遠く続く地平線、目に痛いまでに青い空と、そこにうっすら見える白い月。


 ───歩く。

 赤く染まった建物の残骸、もうすっかり燃え尽きてしまった灰、ぼやけた世界の輪郭、瞳に染み込んでくるかのような(あか)をたたえた空と、そこで場違いなまでの存在感を放っている黒い月。


 ───歩く。

 右目と左目で異なるモノが見える、それほどまでに摂理が欠けてしまった自己の中で、私は。


 ───歩く。

 唯一、二つの視界に重なるモノを見つけた。


 ───歩く。

 全体的に薄汚れ、こじんまりと佇んでいる駅を飾り付けるように光るモノを、見つけた。


 ───歩く。

 何故駅だけが燃えていないのか、何故まだ電力が生きているのか……それは、わからない。


 ───歩く。

 それでも、そんな理屈なんてわからなくても、イルミネーションの光は確かにそこに在って。


 ───歩く。

 街を少しでも華やかにして若者が去るのを防ごうと老人の浅知恵で設置されたそれが、あまりに安っぽいと普段から嫌悪していたそれが、相変わらず安っぽくて、無駄に明るくて。


 ───歩く。

 思わず、安堵したような笑みがこぼれてしまった。


 ───歩く。

 それで終わり。私は、もう。


 ───一歩たりとも、歩けない。

 壊れてから価値に気づいた、変わり映えしない日常の象徴の前で、私は果てた。


























『続いては、ニュース速報です』


『つい先ほど、○○県××市の△△の製薬工場が事故により爆発を起こしたとの通報が、消防に寄せられました』


『詳しい原因はまだわかっておりませんが、爆発とそれにより散布された未調整の成分の被害は村全体に及んでおり────、


最後のニュースのくだりを入れるかどうか迷いました。

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