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後始末

 ヤマタノオロチ退治後、エリック達は王都への帰路についた。

予定よりも期間が長くなってしまったが、それはしかたがなかった。

「……イシュタル。悩み事があるんだが聞いてくれるか?」

「なんですエリック様?」

「前々から薄々感じてたことなんだが、皆の私に対する畏敬の念が、

ヤマタノオロチを退治してさらに増したんだが何故だ?」

「エリック様。ヤマタノオロチを一方的かつ圧倒的な方法で退治したんです。

普通の人には出来ないことをやってのけたのですから当然かと」

「……やるしかないからやっただけなんだがな」

「諦めて下さいエリック様」

「……話を変えよう。エリザに何と言おう?」

エリックは振り返る。

そこにはカーミラの姿があった。

「?。何か?」

「いや、ちょっとな」

エリックはイシュタルに顔を向ける。

「……どうしよう」

「諦めて正直に話すしかないかと」

「絶対問い詰められるぞ。ただでさえ嫁が多いのに。

この上また増えますとなったら私の命が危ない」

「断ればよかったのでは?」

「ああされて断ることなど出来るか」


 話はヤマタノオロチ退治後に遡る。

その後村では簡素ながらパーティーが開かれた。

エリックもワインを飲みつつ、穏やかな空気を楽しんでいた。

「エリックさん。ワインどうぞ」

カーミラがワインを注ぎに来てくれた。

「ああ、ありがとう」

注いでくれたワインを見つつ、エリックは呟いた。

「何というか……その……すまないなカーミラ」

「?。何がですか?」

「カーミラの姉妹のことだ。私は各地に諜報員を放っている。

ヤマタノオロチを見逃してしまったことは、私の諜報が甘かったということだ。

そのためにカーミラの姉妹に犠牲を出してしまった。そのことは本当にすまない」

「いえ。仕方ないと思います。ヤマタノオロチはずる賢い怪物でしたから。

むしろエリックさんは私を助けてくれました。そのことに感謝します」

「……そうか。少しは気が楽になったよ」

「ところでエリックさんあまりワインを飲んでませんがお嫌いですか?」

「いや。元から嗜む程度しかお酒は飲まないんだ」

「意外ですね。英雄は酒豪なイメージですが」

カーミラの言葉にエリックの表情が曇る。

「私は英雄ではないよ。そう思った事すらない。

ただ戦場で刃を振るい続けてきた。そうだな。人斬りがお似合いだな。

最近は何のために戦っているのかすら曖昧になってきた」

エリックはワインを口に運び唇を湿らせた。

「エリックさん……」

「あっちを見ろ。どう思う?」

カーミラがエリックの指示した方向に視線を向けると、

歓談するクラスメイト達の姿があった。

「楽しそうですね」

「ああ、そうだな。……勝てたからあの姿が見れる」

エリックはワイングラスのワインをじっと見る。

「私には負けは許されないんだ。私個人の命を失うだけならいい。

私が負ければ軍は一気に崩れるだろう。多数の命と共にな」

「エリックさん。戦わなければいいのではないでしょうか?」

エリックはカーミラの言葉を首を振って否定する。

「それには黒獅子の名は大きくなり過ぎた。

今や黒獅子の名が抑止力となっているのが現状だ。

それに貴族としての責務からは逃れられない」

エリックはワインを一気に飲み干した。

「私が安寧を得るとしたら死んだ時だろう。

最も簡単に死ぬことなど出来ないがな」

「……………………」

エリックの言葉にカーミラが持っていた英雄像が崩れていった。

本が好きなカーミラは特に英雄譚が好きだった。

勇敢に敵兵や怪物に立ち向かい、弱者のためにこれを倒す。

英雄の活躍する物語は、カーミラの心をときめかせる物だった。

そんな平和な日々に現れたのがヤマタノオロチ。

一人また一人と姉妹が食べられ、自分の番になった時、

英雄が現れてほしいと心から願った。

例え希望が全くなくても。

そこに家に尋ねに来たのがエリック・ローワン。通称黒獅子。

戦場において数々の武勲をあげてきた英雄。

最初カーミラはエリックを疑った。

獅子の様な眼を除けば、大男という訳でもなく、刀を帯びてなければごく普通の学生だろう。

この人がかの英雄?。カーミラが疑うのも無理はなかった。

その考えはヤマタノオロチとの戦いであっさりと覆された。

眼に映らない程の体術と斬撃。

常人には不可能な強力な魔法。

その強さはヤマタノオロチを一方的に圧倒し倒した。

まさに英雄と呼ぶにふさわしい強さだった。

英雄譚そのものの姿はカーミラをときめかせた。

だからワインを口実にエリックに近付いた。

英雄と呼ばれる人がどんな考えを持っているか知りたかったからだ。

その思いはエリックの言葉で覆された。

エリックから出た言葉は英雄としての苦悩に満ちていたからだ。

英雄も一般人と同じく悩みを持っている。

ただ、その悩みは一般人より大きく苦しいものだとも。

私に出来る事はないだろうか?

カーミラは考えてあることを思いつく。

「エリックさんは今日泊まる所を決めていますか?」

「いや。後から決めようと思っていたところだ」

「でしたら私の家に泊まって下さい。父も母もお礼を言いたいでしょうし」

「そうだな。それじゃお言葉に甘えるとしようか」

「それじゃ準備してきますね」

そう言ってカーミラは立ち去った。


 パーティーも終わり、皆は村人達の家に泊まることになった。

「ふう。明日には出発か」

王都へ戻る準備を終えたエリック。

さて、寝るかと思った時、ドアがノックされた。

「エリックさん、まだ起きていますか?」

カーミラの声が聞こえたので、大丈夫と返事をし、部屋に入ってもらった。

カーミラは寝間着姿であり、これから寝るのだろう。

「夜遅くにすいません。伝えたいことがあって」

「伝えたいこと?」

カーミラはエリックを抱きしめた。

突然のことに驚くエリック。

「エリックさん無理をしないで下さい」

「カーミラ。何を言って……」

「自分の心に嘘をつくのはやめてください。

いつか自分が壊れてしまいます」

「カーミラ……」

「こんな風に抱きしめられるだけでも人は癒されるものです」

「ああ……そうだな」

黒獅子の名に重さを感じていたのかもしれない。

エリックはそう思った。

この時エリックは思考の海に沈んでいたため、反応が遅れた。

気付いた時にはカーミラが寝間着を脱ぎ始めていた。

「え……」

カーミラは手早く寝間着を脱ぎ、裸となった。

「カ、カーミラ。一体何してる!?」

エリックは明後日の方向を向き、カーミラに問う。

「直接肌のぬくもりを感じた方が、より癒されると思いまして。

私の身体では不満ですか?。スタイルはいいと密かに自負していますが」

「そういう意味ではなくてだな……」

「エリックさん深く考えないで下さい。私に身をゆだねれば癒してさしあげます」

「カーミラ。そういうのはもっと大切な人に取っておくべきだ。

少なくとも私のような人間は当てはまらない」

エリックがそう言うと、カーミラはエリックに抱きついてきた。

「カーミラ?」

「そのようなことはおっしゃらないで下さい。

エリックさんは自分が思っている以上に、尊敬されているんです。もちろん私も」

「カーミラ……」

「それにここまでした女性に恥をかかせる気ですか?

命を助けてもらった対価に比べれば安いものです」

「……参ったな。そこまで言われると手を出さないという訳にはいかない」

エリックはそう言ってカーミラを抱きしめた。


 「……という訳なんだエリザ」

「なるほど。そして連れて帰ってきたと」

「ああ。あのエリザ。そろそろ胸ぐら掴んで睨むのはやめてくれないか?」

「は?」

「いえ。何でもないです」

「ブチ切れてるなあエリザの奴」

呂布が感想を漏らす。

「仕方ないと思いますわ。嫁がまた増えたんですもの」

シャルロットが呆れた顔をする。

「何かあるたびに嫁が増えるものね」

何でなのかと不思議に思うエリーゼ。

「あの……」

「ああ。カーミラさんはフィオナに部屋へ案内してもらって。疲れたでしょうから」

「ありがとうございます」

「なあ。私も疲れて……」

「エリックは説教続行です。簡単に終ると思わないで下さい」

「ダメですか。そうですか」

ヤマタノオロチ退治の方が楽だったと考えるエリックだった。


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