イシュタルの実力
ストックが尽きたので、更新間隔が開きます。
アルフレッド達が処刑されてから数日後、アーサーはエリックに尋ねた。
「エリックに質問がある」
「何だ?」
「イシュタルはどの位強いんだい?」
「少なくともアーサーやツバキよりは強いな」
「エリック様。過大評価です」
そう言いつつもまんざらでもないイシュタル。
「ほう? それは是非とも一手指南願いたいな」
ツバキがイシュタルを見て言う。
「ならば放課後にやろう。イシュタル構わないな?」
「エリック様のご命令でしたら」
エリックの命にイシュタルは応じる。
かくしてイシュタルによる指南が決まった。
放課後に体育館にエリック達は集まった。
最初にアーサーとの試合が行われた。
「せいっ!」
アーサーが気合い一閃打ち込むと、イシュタルは流れる水のように避けた。
アーサーは連続攻撃を仕掛けるも、イシュタルは流れる水の如く避けて当たらない。
(エリックは素早く避けるのに対して、イシュタルは流れる水のようで当たらない!)
「くっ!」
アーサーは剣速を上げるも、水を掴むかのようでイシュタルには当たらない。
「今度はこちらから行かせていただきます。アーサーさん」
イシュタルはそう言うと二振りの小太刀の木刀を振るい始める。
(エリックは速くて重いのに対して、イシュタルは軌道が変化する!?
不味い。防御が凄く難しい!)
小太刀という攻撃面で劣る武器をイシュタルは流麗に使いこなす。
その様子をエリックは満足気に眺め、ツバキは驚いていた。
「柔らかなのにそれでいて鋭い……エリックとはまた違った意味で強いな」
「あー、すまないがあの動きを教えたのは私だ」
「なっ!? それではエリックも……」
「一応できる。まあ、イシュタル程ではないがな……っとそろそろか」
バシッ!
「痛ッ!?」
アーサーの手から木剣が落ちる。
「私の勝ちです」
「……参りました」
アーサーは降参した。
「よし。次は私だな」
そう言うとツバキは構える。
イシュタルも小太刀を構える。
数秒の対峙の後、ツバキは仕掛ける。
(さっきの動き普通に攻撃しては当たらない。ならば!)
ツバキは奥義の使用を決断した。
初手に全てを賭けたのである。
「『餓狼』!」
ツバキ全力の突きであった。
それに対しイシュタルは左の小太刀で受け流し、右の小太刀を振り下ろした。
ガッ!
「痛ッ!?」
ツバキは肩を押さえて座り込む。
完璧なまでのイシュタルのカウンターだった。
「……参りました」
ツバキは悔しそうに呟いた。
「よし。今日の授業は終了だ。イシュタル相手だとまた違った剣筋だろ?」
「うん。物凄くやりづらかった」
「攻撃面で劣る小太刀であそこまでやれるとは……最強への道は遠いな」
「まあ、私もイシュタルも力を押さえて稽古してるからな。もっと鍛錬は必要だな」
エリックの言葉にアーサーとツバキは顔を見合わせる。
「ちょっと待ってくれエリック! これで手加減してるのか!?」
「それはそうだ。私やイシュタルなら木刀でもアーサーとツバキを殺せる」
「……最強への道が遠いことだけはわかった」
エリックの言葉にアーサーとツバキは遠い目をした。
「おーい。どうした? 遠い目をして?」
「何でもないよ……。エリック達が規格外なのがわかっただけだよ……」
「……そうだな。うん」
「ちょっとお二人共! 失礼ですよ!」
「そうだぞイシュタル。二人に言ってやれ!」
「エリック様は規格外ですが、私は常人の範疇です!」
「イシュタル。待て。私も常人の範疇で……」
「この前のヒュノス王国との戦いで、エリック様は何人敵の首を飛ばしましたか?」
「イシュタルは今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「待て。何故皆黙る?」
「エリック様。飛ばした首の数は少なくとも千以上です。充分規格外です」
「え? 普通ではないか。何で皆黙る?」
「エリック……普通という言葉を学ぼう」
「エリック。倭国でもそれほどの首を挙げた武将は歴史上いないぞ」
「エリック様。一度お医者様に見てもらいましょう?」
「え? 何この可哀想な者を見る視線は? 私は正常だからな」
「解散。お疲れ様でした」
アーサーが声を上げ、家路に着こうとする三人。
「解せぬ」
一人納得がいかないエリックだった。