016.愛する紗那をバカにする会社とは、絶対に取引しない!
「お言葉ですが鈴木野様、私と福士は――」
「カッチカチの真面目が服を着て歩いているような面白みのない女を選ぶような男に、興味はないの。もう下がって頂戴。サンプル代は振込みしておきますので、請求書を回して下さいな」
恋人じゃない、と言おうとした私の台詞をぶった斬り、鈴木野さんが好き放題言い放った。
どうせカッチカチの真面目が服を着て歩いているような女ですよ!
おっしゃる通り、何の面白みもありませんよ!
ついでに恋愛経験もゼロですよ!
トキメキメーターもゼロですよ!
悪かったわね! それでアンタに迷惑かけたか!
あまりの酷い言われように腹が立ったが、冷徹笑顔を貼り付けているので顔面は崩壊しなかった。偉いぞ、私!
しかしどうしよう。一万足の受注キャンセルなんて、大打撃だ。売り上げ見込みがゼロどころか、手配材料のキャンセルが出来なかったら、仕入れの材料費だけでマイナスだぁあ――っ!!
「鈴木野さん」さっきまで険しい顔をしていた社長が、不気味な笑顔を湛えていた。「私の紗那を馬鹿にするのは止めて頂きたい。男漁りが趣味で下品な貴女と違って、とても初々しく可愛い彼女に、私は心底惚れているのです。こちらこそ、貴女みたいな女性はお断りですね。どうこうなるなんて、絶対あり得ませんから。受注キャンセル、結構ですよ。神原さんの所で格安スニーカーを作られたらいかがですか。どうぞどうぞ、ご自由に。私の愛する紗那を馬鹿にするような会社とは、今後二度と取引はしません。サンプルも後日回収に伺いますので、お返し下さい。振込みも結構です。それでは」
社に戻るぞ、と優しく微笑まれ、私は頷いてその場を後にした。
覚えてらっしゃい、と低く唸るような鈴木野さんの声を聞いて思わず振り向くと、蛇のような恐ろしく執拗な目をした女がそこに立っていた。
「社長っ! どうするのですかっ。一万足の受注キャンセルで大損害ですよ! 腹は立ちますけれど、あの場では私と恋人関係はニセだと、お伝えするべきだったのです!」
車に戻った途端、私は社長に喰ってかかった。
「いやー。そりゃ受注一万足のキャンセルは大打撃で最悪極まりないが、俺の紗那が侮辱されたのだ。ここは男として黙っている訳にはいかないだろう」
「それで会社が潰れたらどーするんですかぁっ!!」
「だ・い・じょ・う・ぶ」(社長は笑顔)
「こ・ん・きょ・は?」(私は怒笑顔)
「そ・ん・な・も・の・は・な・い!」(またも笑顔)
ずっこけそうになった。
「無いって・・・・どうするんですかあああああ――っ! 今からでも謝りに行って、誤解を解いて、一万足の受注を考え直してもらいましょうっ!」
「嫌だ」プイ、と横を向かれた。
「会社が大損出を抱えるんですよっ!」
「いやーだもーん」
何この男! いやーだもーん、って子供かあああ!!
やっぱネジ取れてる! 頭のネジ!! 早急に修理が必要だ。
「まあまあ。大丈夫。ピンチはチャンスだ。材料も取りあえずストップ掛けてみよう。ダメだったらダメだったで、また別の手を考えよう」
何て呑気な!
そんな簡単に一万足分の材料がハケさせられる(使い切る)と思っているのか、この社長はあああっ!!
「何とかなるなる。さ、それより紗那。この前から言っているだろう。ステーキでも食べに行こうか。腹が減っては何とやら。ランチ行こう、ランチ!」
「い・き・ま・せ・ん」(氷笑顔)
私はブリザードの笑顔で社長を見つめ、社用車のアクセルを踏み込んだ。
当然ランチになんか行くわけがなく、社に戻ってもまだ社長のランチ行こう攻撃がしつこかったので、スーパーブリザード笑顔で一蹴した。
製作部に社長を放り込み、今回の製作リーダーやらその他主要なメンバーを集めて緊急会議を開き、その場にいる全員に先程の経緯を説明した。
一応私と社長が恋人である事が浅岡専務のせいで社に広まってしまった為、鈴木野取締役が、福士社長の恋人いない説が消滅してしまったが故に、一方的な契約破棄をされた事を伝えた。
当然、全員が到底納得できる内容では無かった。それで終わればよかったのに、社長は『紗那を侮辱するから、こちらから取引の願い下げをした』と、言い放ったのだ!
何でそういう事、私に断りもなく言っちゃうかな!?
そういう事を平気で伝えるのは止めて欲しい。
そうなると何だかこれって、私が悪いみたいじゃない?
ただの偽装で、本当じゃないのに。それなのに・・・・それなのに!!
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