012.何故上から目線?
必死に頑張った甲斐もあり、休憩を挟んだにも関わらず検品作業は目標時間の七時過ぎに完了した。最後の方、大滝君が担当してくれたものが良品ばかりで、作業をしなくて済む商品が七ケース(七十足分)も出たのが大きい。仕分けなしでそのまま箱詰め直して、段ボールに良品のチェックを書き込んだ。
「ご苦労様でした。お二人はここで帰って頂いて結構です。後は補修だけなので、私達が仕上げ、取引先には明日、スギウラから出荷致します」
笹野さんと大滝君に手厚く礼を伝えた。
「あの、紗那さん。俺、パーツ補修手伝います」
大滝君が申し出てくれた。「こう見えても、ラジコン作るのが得意なんですよ。細かい作業が大好きで」
爽やかに笑ってくれた。
おおー。イケメンで優しいなんて、これは売り上げ右肩上がりの成績を叩き出した結果が解る。
やっさんは既に帰ってしまったし、父と私も疲労困憊なので、大滝君の有難い申し出に乗る事にした。
「でしたら、笹野さんは直帰で結構です。社長に報告しておきますので、お疲れ様でした。本当に助かりました。ありがとうございます。また明日、社で宜しくお願い致します」
深々と頭を下げ、笹野さんにもう一度礼を伝えた。笹野さんは申し訳なさそうにしながらも帰って行った。女性をあまり遅くまで残業させるのは、良くないから。私はいいのよ。実家だし。
大滝君にパーツ補修のやり方を説明し、私は一旦その場を離れた。社長に電話を掛ける為だ。
キャップやゴム手袋などを取り、手を洗って工場の外へ出た。久々の外の空気に、思わず深呼吸した。
肩がバキバキに固まっている。こんなに連続で工場の作業をしたのは久々だ。秘書になってからは、こういう作業とは無縁だから楽しい。でも肩が凝る。
社長は今日、一人でスケジュール管理をして間違えずに乗り切ったのだろうか。まあ、変態だけれど仕事に関してはきちんとしているから、問題無いか。
スケジュールは表にして渡してあるのだから大丈夫よね。子供じゃないんだし。
一息ついて、社長に電話を掛けた。機械音が鳴り出すと同時くらいに、社長が電話を取った『紗那かっ。ご苦労!』
「・・・・どうしてそんなに電話に出るのが早いのですか?」
『そろそろお前からのラブコールがかかってくるかと思ってな。ずっと待っていた』
キモ。
「そんなに暇なのですか?」
『お前の為なら、どれだけでも時間を空けるぞ。どうだ? 明日にでも食事――』
「私は忙しいです」
まだ彼が喋っているのに、被せて言った。社長の台詞を取り上げて、ブった斬ったのだ。
『お前のドSな態度にその辛辣な言葉、俺のハートにグサグサ刺さるんだ。紗那、好きだ! 愛している!』
「キ・モ・い・で・す。やめて下さい」(笑顔)
見えないとは思うが、思わず冷徹な笑みが浮かんだ。
『仕事の調整が付いたから、お前に会いに行ってやる。有難く思え』
「ドMの癖に上から目線ってどういう事でしょうか?」
『それが俺だ。こんな男、他にはいないぞ』
そりゃあそうだろう。そんな変態、ゴロゴロ転がっていたら困る。
「それより社長。報告です。現在笹野さんと大滝君の協力により、検品作業が無事完了しました。後はアンクレットのパーツ補修のみです。業務が終了したので、笹野さんには直帰頂きました。時間は先程、七時半です。大滝君は補修の手伝いを申し出てくれた為、残って貰う事になりました。従って社長のスギウラへの来場は不要です。では」
有無を言わさず電話を切ってやった。
変態社長と電話している時間が勿体ない。報告は済んだからいいだろう。
それに、私の塩対応でアイツは喜んでいる筈だ。あー、キモ。考えるだけで身震いしちゃう。
戻ろうと思ったら、工場の裏門がガチャン、と開く音がした。表はもう閉まっているから、業者とか残業した従業員が出入りする裏門が開いているのだけれど、こんな時間に誰だろう。
見に行ってみると、社長が立っていた。
「紗那」
私を見つけた社長の顔が、ぱあっと明るいものになる。そしてそれを見た私は、心底嫌そうな顔になる。
「くうー、何でそんなにツレないんだっ。でも、それがまたイイっ」
「何の御用でしょうか。来なくていいとつい今しがたお伝えした筈では?」
「いやあ、さっき、丁度スギウラに到着した所だったんだ。早くお前に会いたくて、急いで来てやったんだ。有難く思え」
だから何故上から目線?
「後はパーツ補修だけですから、社長はどうぞお帰り下さい。役に立つとは思えませんが」
「そのパーツ修理を手伝いに来たのだ。第一、紗那と大滝を同じ空間で二人きりにさせる訳にはいかないだろう? 俺は仮にもお前の恋人なのだから」
「ご心配には及びません。父もおりますので」
「良蔵さんが休憩中、二人に何かの間違いが起こっては困る」
「・・・・心配する事は何もありませんが?」
「色々あるんだよ。さあ、案内してくれ。俺も手伝ってやろう。貸しにしておいてやる」
「ご冗談を」
「はあぁー。もう、お前のその態度、たまらんっ」
「こちらからも言わせていただきます。社長の態度が、もう気持ち悪くて堪りません」
「くうぅーっっ」
何かを噛み締めるように社長が呻いた。「はっ。こんな事をしている場合では無いのだ。早く行って、パーツ修理をやろう」
「はあ」
「今日は疲れただろう。少し休憩したらどうだ。俺が紗那の分までやっておくから」
「大丈夫です。まだ頑張れます」
「まあ、そう言うな」
ぽん、と優しく頭を撫でられた。
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