011.全員で不良に立ち向かいます!
私は除菌スプレーで手を消毒し、ビニール手袋を両手にはめて工具を持ち、早速作業に取り掛かった。
問題の一足目。箱を開けると、やや雑に包まれたブーツが真ん中で無造作に折りたたまれていた。折り目が付かない柔らかな素材のものを利用しているけれど、六千円、七千円という値段を取っているというのに、この箱詰めクオリティーの低さったら無い。製品はいいのだから、ここをきちんとしなきゃ。その上アンクレット不良とか、最悪だ。
先ずは箱の中に、シリカゲルが入っているかどうかをチェックした。この箱にはシリカゲルが入っているから、カビは発生していない。製品に問題が無かったので綺麗に靴を不織布(製品などが傷つかないように包む薄い布)で包み直し、不具合を起こしているというアンクレットを確認した。専用の袋から出し、チェックしたがこれは問題の無い商品だった。今回、たまたま不良が無い商品だったのだろう。
検品済の箱に入れ、次のブーツを見た。シリカゲルチェックは〇、製品問題〇、製品を包み直してアンクレットのチェック。早速パーツが取れているのが解った。ジルコニアの輪が外れているので工具で直した。綺麗にチェーンを直して完了。丁寧に作業をしたら、やはり五分はかかる。工具で直すのに、簡易的なもので一分、面倒なもので三分ほど掛かる。綺麗なアンクレットだから、傷はつけたくない。雑な作業をしてしまうと、多分柔らかい金属部分がへしゃげてしまって、余計に壊れてしまう。――平均二分というところか。
父がひと箱にかかる時間が五分と言った理由が解った。
五分でも短いくらいかもしれないが、精いっぱいやるしかない。
せめてフクシから社長が回してくれた社員に検品して貰って、アンクレット修理だけに特化できれば時短ができる。
対面に父、そして私が黙々と作業した。細かい作業は神経を使う。これが二千足――まあ、良品も中にはあるだろうけど、それでも気の遠くなるような数――のアンクレット修理はキツい。
これ無事に終わらせたら、週末、駅前のマッサージ店に全身フルコースで二時間は予約しよう。
それから一時間位フルスピードで作業を行った。フクシから人が来るまで、とにかく父と二人で作業に没頭した。
黙々と作業をしている所へ社長が回してくれたフクシの社員が二人、スギウラに尋ねて来てくれた。
一人は商品担当の、笹野 雫。もう一人は新入社員の 大滝 楓馬。笹野さんは仕事出来る女子。年齢は私と同じ、二十八歳。色白おかっぱで黒ぶち眼鏡女子。結構背が低く、可愛らしい系で大人しい女性だ。
大滝君は今年の八月から中途採用した新人で、二十三歳。中々就職活動が上手く行かずに、一年以上苦労したらしい。IT系の企業に就職したかったようだが、人気の為選考落ちが続いたので、就職活動に職種を選ばなくなったら何社か合格通知が入るようになり、最終的にフクシに決めたと聞いている。中途半端な時期の入社になってしまったのは、今年の四月まで諦めずに就職活動を頑張った結果だとか。
先ずは商品を覚えてもらう為にも、大滝君には手っ取り早くフクシの自社ビル一階実店舗の商品販売担当になってもらい、そこに腰を据えている。ゆくゆくは営業になって貰おうという目論みがあるらしい。的確に物事を捕らえ、仕事も早く、接客も抜群だ。
彼の装備品である流行りのしょうゆ顔は、女性受けがすごぶる良い。お陰で実店舗の売り上げが伸びた。そして顧客分析データを見ると、二十代以上六十歳未満の女性客が右肩上がりで増えているのだ。今日は一階から彼を引っこ抜いてきたのだろう。社長が回してくれた人員に、納得した。
「笹野さん、大滝君、お忙しい所ありがとうございます。一緒に乗り切りましょう。早速ですが――」概要と検品内容を詳しく説明した。「――という訳で、よろしくお願いします」
除菌スプレーで手を消毒して貰い、髪の毛が落ちないようにビニールキャップ、ビニール手袋をはめて早速作業に取り掛かって貰った。
私とお父さんがパーツ修理を行わないといけないので、検品作業に徹してくれた二人には、ある程度数が出来ればもともと十足一箱入りの段ボールへ、詰めなおし作業を行って貰った。彼らが来るまでの一時間近くの間で、父と私で五十足くらいの検品済良品が完成したから、そちらも一緒に詰めて貰った。
四人でやれば、作業も早い。一人が検品、一人が詰めなおし作業で分担したから、二人の作業はどちらも約三十秒ほどで済む。
私の計算によれば、八時間ほどで検品が終わる。休憩を一時間挟んでも九時間ほど。今、十時過ぎだから、午後七時くらいには検品は完了するだろう。作業効率が落ちる事も考えたとしても、最悪この二人の仕事は午後九時には終わる。私と父でパーツ補修を二分で頑張れば、休憩なしで三十二時間ほど。でもここに良品も混ざっているから、もう少し短い時間でなんとかなるかな。作業効率が落ちる事も考慮しなきゃいけないけれど、ベテラン職人のやっさんも途中で入ってくれるから、甘い計算だけれど、徹夜で何とか作業は終わるだろう。
全員でひたすら同じ作業を行った。誰もが真剣に、取引先に良品を送る為に必死になっていた。お昼になり私の母が昼食を作ってくれたので、一旦休憩に入った。
できれば私はそのまま作業したいのだが、そうもいかない。和気あいあいとお喋りしている時間は無いので出来るだけ手短に昼食を済ませ、再び作業に没頭した。
連続作業をしているので、目も肩も辛くなってきた。パーツ補修は神経を使う。良品を探す方が困難という位、不良の方が多かった。だからこそ不備に気が付いたのだろう。
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