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001.「お前が好きだから、仕方なく付き合ってやる」

 



「お前が好きだから、仕方なく付き合ってやる」




 はいぃ?



 私、杉浦紗那すぎうらさな、二十八歳。職業・社長秘書。

 今しがた、自身の勤め先会社の社長である、福士成彰ふくしなりあきに呼び出されたので、社長室の扉をノックの後に失礼します、とキリっと背筋を伸ばし、シャキシャキと歩き、きっちり斜め四十五度の角度でお辞儀をして、お呼びで御座いますか、社長、と要件を聞いたところだ。



 そしたら、そしたら・・・・



「何度も言わせるな、紗那。お前が好きだから、俺が仕方なく付き合ってやると言っているのだ」



「い・み・が・わ・か・り・ま・せ・ん・が?」(笑顔)


 ブリザード笑顔を顔面に張り付け、社長の告白もどきを一蹴した。

 そんな告白の仕方、ある?

 初めて聞いたわ、そんなの!



「この俺が、直々にお前と付き合ってやると言っているのだ。解らんヤツだな」


「お・こ・と・わ・り」(笑顔)


「まずはデートだ。食事へ行こう! 紗那の好物は何だ? 俺はステーキが好きだ。やっぱ精がつくもを食べなきゃな! あ、でも、一番好きなのはそのドSなお前の瞳だ」



 人の話を聞け!

 それより、赤の他人に向かって頬を染めながら、(しかも部下で秘書の私に対して)ドSなお前の瞳が好きとか言っちゃう?

 頭がおかしいとしか思えない。



「キ・モ・い・で・す」(笑顔)


「そんな暴言吐くと、俺に嫌われちゃうぞ?」


「ご・じ・ゆ・う・に」(笑顔)



 嫌ってくれた方が助かるし。

 それより、これって何かの罰ゲームなのかしら。思わず冷ややかに社長を見つめた。


「紗那っ。あぁー、その冷たい眼差し、たまらんっ。好きだ! 仕方がないから俺がお前と付き合ってやる。有難く思え」


 私は目の前の社長に、必要以上に冷徹に接した。


「それより社長、書類に早く印鑑を押してください」(笑顔)


 溜まっているその社長の机の企画書諸々、書類に目を通してさっさと印鑑押してくれなきゃ私が困るのよ。月曜日で忙しいし。


「ハンコが欲しけりゃ、俺と付き合え」


「では、本日付で退社させていただきます」(笑顔)


「Oh,NO!」


 社長はその端正な顔を、顔面崩壊するほどに歪めた。

 彼――福士成彰は私の二つ上で、確か三十歳。目鼻立ちの整った顔をしていて、目元は涼しげでキリッとした眉毛で鼻は高く、身長も百八十センチはゆうに超えている。唇は厚く魅力的で、イケメン部類に入る。そういう顔立ちなのだから、馬鹿みたいな事をしないで欲しい。

 顔が崩れても、私の責任じゃないし。知らないからね?


「冗談は顔だけになさって、企画書に目を通して早急に印鑑をお願い致します。本日は九時より朝礼、九時半より軽く全体ミーティング、十時より新商品開発プロジェクトの試作チェック、十一時より試作を元にした新商品の会議、十二時からは取引先マルヤママーケット社長様とご会食、午後一時からは・・・・」


「少し詰め込み過ぎではないか? 紗那とデートする時間が取れないじゃないか!」


「そもそもそのような予定は現時点で組み込まれておりませんし、今後組む予定も一切ございません。新商品開発で予定は目いっぱい、これでも少ないくらいだと思いますが」


 淡々と告げた。


「時に紗那、彼氏はいるのか?」


 話題をすり替えられた。


「セクハラで訴えますよ」


「男がいるかどうかくらい、聞いてもいいだろう。社長命令だ。答えろ」


「職権乱用で訴えますよ」


「そこを何とかっ。いる? いない? いる? いない?」


「ウ・ザ・い・で・す」(笑顔)


「よーし、いないんだな。良かった! 心置きなく猛アタックができる」


「カ・レ・シ・い・ま・す」(真顔)


 本当はいないけれど、鬱陶しいから嘘を言った。



「あー、だめだめ。紗那は嘘をつけない性格だ。今、真顔で彼氏いるって言っただろう? それは真っ赤な嘘だ。俺の目は誤魔化せないぞ!」



 うわー。本気でウザイわぁー。社長ってもっと寡黙で仕事熱心で、商品開発に命掛けている人だとばかり思っていた。こんなアホキャラだったんだぁ・・・・。


「うん、その俺を蔑んだ瞳、最高だ。お前と付き合うにはどうすればいい? 教えてくれ」


「つ・き・あ・い・ま・せ・ん」(笑顔)


「キター、その瞳! ゾクゾクする。あぁー、もう辛抱できなくてさぁ。占いで今日は大吉で、牡羊座のあなた、意中の人に告白すればチャンスが到来に加え、ラッキーナンバーは八。今、八時台だろう? 思い切って、好きだと言って良かったあああー!」



 キモ。ただの変態じゃない。しかも占いって・・・・そんなの信じているの? 非科学的すぎる。

 冷徹に見据えるとますます喜び付け上がるから、用事が無いならこれで失礼いたします、と無になって淡々と告げ、キッチリ頭を下げて社長室を後にした。

 あんな変態の秘書を一年もやっていたなんて・・・・。本気で転職考えようかしら。インディードかビズリーチで秘書の仕事探してみようかな。



 でも、それは出来ない。

 何故なら私は、社長に恩があるからだ。

 実際に恩があるのは、私のお父さんだけれどね。でも、一家ひっくるめて救ってもらったから、私だって恩がある事には変わりない。

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


次の更新は、8/22 0時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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