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異世界での目覚め

 上空から白亜の城が満点の星空を映し出す湖の中央に建っているのを眺める。荘厳に白く輝く城は、しかし至る所から燃え上がる炎で赤く照らされていた。

 悲鳴と怒号、剣戟の音に破壊音、あちらこちらで命が失われ純白の美しき城が血で辱められていく。


 場面が変わり巨大な鏡の前で涙を流すローレリアが何か必死に叫んでいる。

 ああ、これ夢だな。俺の深層心理が何をもってこのような夢を見せるのか、自分の心は分かりゃしないけど。出会ったばかりの女性が落城寸前で困っている場面を想像するとは、我ながら性格が悪い。


 彼女が誰に向かって声を荒げているのか、城を攻めているのは誰なのか、自分の脳ミソが作り出した設定が気になるけど、残念ながらそろそろ起床の時間が近づいているらしい。


 脳が覚醒するにしたがいぼやけていく視線の先で、ローレリアは最後まで叫び続けていた。




 夢から現実へ。

 目が覚めたはいいが、よっぽど疲れてたんだな。目が半分も開かないし、視界はぼやけ体も鉛のように重い。

 てか、いつの間に寝たんだっけ。寝る前の記憶があやふやだ。

 確か、コンペの会場でローレリアに出会って、それで……?


 ぼんやりする頭でぼーっと寝る前のことを考えていると、少しずつ感覚が覚醒しだしたのだろう。今日の枕はやけに柔らかくて温かいなと気づく。

 まるで人肌のように温かく柔らかで。経験は無いけど女の子に膝枕とかしてもらったらこんな感じなんだろうな。


 童貞らしい虚しい想像をしながら枕を撫でると。


「ぎニャーー!!! エロ人間死ぬデスよ!!!」

「ぶぅげぇ!」何者かに殴りつけられ吹き飛ぶ。


 壁に背中を叩きつけられ痛みと衝撃で強制的に意識が覚醒する。何が起きたのかと背中をさすりつつ見れば、正面で「しゃー!」と猫耳の黒髪ショートの少女が猫のようにソファの上で警戒態勢に入って……猫耳?


「お前、誰?」疑問が自然と口から漏れる。

「うっさいクソ人間風情が! キスカの名前を聞くニャ!」

「キスカって言うのか」

「うニャ! てめぇ騙しやがりマシタね! 尋問質問ってぇやつダ!」

「尋問質問? あぁ、誘導尋問か」

「ソレにゃね!」


 言いたい事は色々あるが1つ言えるのは『こいつ馬鹿だ』という目の前の少女への評価。

 キスカと名乗った? 少女はクリっとした目に小さな鼻と口が可愛らしく、細く起伏に乏しい体に褐色の肌は黒猫を彷彿とさせる。彼女が身に纏う白くてダボっとしたシャツと黒いショートパンツは、どちらもボロボロでダメージ加工と言い張るのも難しい。

 それにしても頭の上に付いている猫耳と、ピンっと立った尻尾が気になってしょうがない。作り物だよな?


「にゃに見てヤガリます!?」八重歯を剥き出しにして言い放つ。

「猫耳と尻尾、自前?」

「生まれにゃがらのあったりまえニャ!」

「ちょいちょい言葉に『にゃ』って入れるのはキャラ付けだろ?」

「オっまえぇ!! これだからクソ人間はっ! 獣人差別もほどほどにシテよ!!」


 キスカが警戒度をより増す、増すってか憎まれた気がする。

 今の俺の発言って差別……なのか?

 猫耳に尻尾に言葉に『にゃにゃにゃ』、どうみても聞かずにはいられない事柄ばかりだと思うのだが。


 何がなにやらな状況を破ったのは聞き覚えのある涼やかな声だった。


「う~ん、ふぁぁ、起きたようね」


 寝起きはそっちだろと言いたくなる声が発せられた方を見ると、ベッドの上で欠伸を噛み殺し上品に手で口元を隠す銀髪のロリ少女が行儀よく佇んでいた。


「あれ? お前、ローレrぎゃぁえ!!」キスカが投げた枕が顔に直撃する。

「口を慎メ人間!! 姫さま! こんにゃ奴にお名前を名乗ったンデす?」

「ええ、名乗ったわ」

 俺を無視して話を始めるクソ猫(キスカ)へ「こいつ!」枕を投げ返す。

「にゃんでデス!?」こちらも見ずに悠々と枕をキャッチしローレリアへ問う。

「彼がわたしの」こちらをチラリと見て目が合うとサッと背ける。「……コホン、わたしの婿だからよ」毅然とキスカへ目を向け言い放った。

「こんニャ奴が姫さまの」世界の終わりかと言わんばかり。


 呆然とこちらへ目線を移したキスカが目にも止まらぬ速さで枕を投げつけて来た。「ぐぇえ」2度目の枕が顔にクリーンヒットする。

 キスカの奴、運動神経どうなってんだ!!

 十分に警戒してたのに気が付いた時には枕が直撃してくるとか、凄いな!


「キスカ、彼はわたしの婿だと言ったはずよ?」目を細めキスカを睨みつける。

「で、でも姫さま、アイツ人間で」

「謝りなさい」凍えるような低い声で叱る。

「……はい」キスカが猫耳と尻尾をしゅんと垂らし、こちらを見ると頭を下げる。「ゴミ人間すまんデシタ」

「微妙に受け入れたくない謝罪だけど、まぁいいよ枕くらい」


 謝って来てるのに突っぱねるのも馬鹿らしい。それに今は聞きたい事がいっぱいあるからな。お馬鹿な猫娘の相手をするのは後でいいだろう。


 銀髪の少女へ向け疑問を口にする。


「ローレリアでいいんだよな?」

「ええ、リュウジ。貴方のローレリアよ」ほんのり赤らんだ頬で微笑む。

「俺のって所も疑問なんだが、さっき『婿』とか言ってたような」

「契約を結んだじゃない。境界の魔王との誓いは水鏡の契りの法だもの」


 相変わらずファンタジーな子だ。しかし、コンペ会場での中二病患者を相手にするのとは、現在の俺の立場では対応が違ってくる。

 現に、目の前には猫耳と尻尾の獣人を称する猫娘が項垂れてるし、20代前半くらいの美人が手品のように小学生くらいの少女に若返っている。

 頑なに相手を否定するより状況を受け入れるのが得策だろ?


「ざっくりだけどさ、俺って別の世界というか、お前の世界へ来たって事で良いのか?」

「理解が早くて助かるわ」

「別の世界へ行ってみたいって意外と流行ってる願いだしな」

「貴方のいた世界も錯綜しているのね」


 ふふふ、と上品に笑みを浮かべる姿は確かにコンペ会場で出会った美人なのだが。


「ローレリアさ、何でロリになってるの? 趣味なの?」

「ロリ?」ローレリアが自分の体を見る。「少女の姿がお嫌い?」


 お嫌い?と言いながら首を傾げる姿は大変可愛らしい。そちらの趣味がある諸兄からは拍手喝采が起きることだろう。

 しかし、残念ながらというか、良かったというか。少女趣味は無いので、出来れば元の美人な彼女に戻って欲しい。

 いや、正直に言おう。

 あの意識を失う前に触れたはずの豊かな感触が忘れられないから大人のがいい! 今の彼女はぺったんこだからな!!


 男として恥じる事の無い想いを胸に強く抱いていると。

 ローレリアが湿度の高いジトっとした視線を向けて来る。


「……追憶における慚愧を交えた色欲の色。わたしの婿は破廉恥なのかしら」

 想いの色が見える彼女の能力を忘れていた。「そんなのはいいとして、俺が聞きたいのはだな」慌てて話題を変えようとする。

「欺瞞、詐称の色」じ~~っとこちらを見つめながら毛布で体を覆ってしまう。

「あー嫌って言うか、違うから! それより最初の質問に答えてくれよ!」


 無理やりながら話題を変え当初の質問に戻る。


「姿が違うのはどうしたんだ?」

「貴方を迎えに境界の境を越えるため多くの魔力を消費し肉体年齢を維持出来なかったの」

「魔力ってやつでローレリアは年齢が変わるのか?」

「魔族だもの。当然だわ」


 さも当たり前のように言うのでそんなものかと納得するしかない。キスカの方を伺って見るも「にゃニャにゃにゃ!」とソファを一心不乱にパンチしている。獣人というかストレスを溜めた猫そのものだが面倒だから放っておこう。


「当たり前なら仕方ないな」現状をグイっと飲み込む。

「諦観の色ふぁぁう」やけに眠そうに欠伸を噛み殺す。「はしたなくてごめんなさい。魔力が足りなくて睡魔が」むにゃむにゃと本格的に眠そうに目を擦る。

「色々聞きたいことはあるけど、一旦休んでくれていいぞ」


 眠そうな彼女に無理をさせても可哀想だ。特に子供が眠そうに無理して話している姿は、どこか痛ましくさえ見えてしまう。

 ローレリアには聞きたい事は山ほどあるが、異世界へ来たことは分かった。この後はキスカの馬鹿にでも色々聞き込みをしてみよう。


 そんな風に甘く考えていたんだ。


「緊急! 緊急! おひいさま!! 侵入者です!!!」


 慌ただしい声が響き渡る。


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