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第一関門


 清めの儀式のためにハルトムートと共にレティーツィアは湖に向かって歩いた。



(着いた…!)



 七色に光り続ける湖にレティーツィアとハルトムートは到着した。

 湖の前で足を止める2人。

 レティーツィアは何かあったのだろうかとハルトムートをチラリと見上げたが、予想外にすぐにバッチリとハルトムートと目があって驚いた。

 レティーツィアが見つめる前から、ハルトムートはレティーツィアの様子を見つめていたのだ。



「大丈夫か?」


「はい」


「……では、入るぞ。」




 ーーちゃぷん。



 レティーツィアとハルトムートは湖に足を踏み入れた。

 湖は思っていたより冷たくなかった。

 川の水のように冷たいかもしれないと思っていたレティーツィアは、人肌のように心地よい温度の湖に少し驚いた。



 そのままレティーツィアはハルトムートと手を繋いで湖の中を歩き続けた。



 どんどん湖の深さは深くなっていく。

 レティーツィアの腰の辺りまで湖の水がきてもハルトムートは歩き続けるのを止める様子はない。



 レティーツィアはハルトムートが歩き続けるのをやめないので、そのまま湖をどんどん歩き続けた。

 そのとき、湖の水はレティーツィアの首の辺りまできていた。



(…さすがにこれ以上進んだら、身体が全部湖の水に沈んでしまうんじゃないの?!! ねぇ、ハルトムート! まだ歩き続けるつもり?!)



 まだ歩き続ける様子のハルトムートにレティーツィアの混乱は高まるばかりだ。

 レティーツィアは本来なら湖の水に身体が沈んでしまう前に歩くのをやめたいのだ。

 だが、ハルトムートは歩くのをやめない。

 もしも今ハルトムートの手を離せば、レティーツィアはこれ以上歩かなくてすみ、湖の水にこれ以上沈むことはないだろう。



(…でも、手を離したら清めの儀式を途中でやめたと判断されて制裁を受けるかもしれないんでしょ…。)



 レティーツィアにはハルトムートの手を離すことはできなかった。

 レティーツィアはハルトムートと共に歩き続けた。




 それでもさすがにレティーツィアは湖の水が顎のあたりまで来た時にハルトムートに尋ねた。



「まだ歩くの?!

 これ以上進んだら、息ができなくなるわ!」


「これが、清めの儀式だ。

 大丈夫だ、私がついている。

 …私たちは全て受け入れるしかないのだ。」



(わけがわからないわ!! これ以上進んだら、息ができなくなって、私達死んじゃうんじゃないの?!!)



 レティーツィアは恐怖でパニックに陥りそうだった。

 でも、ハルトムートは話をした後も歩くスピードを緩めることはないし、レティーツィアだって清めの儀式の制裁を受けて消滅はしたくないからハルトムートの手を離すことはできない。



(……怖い! 怖いけど悪役令嬢ハイデマリーにまだ何も復讐できてないのに、ハルトムートの手を離して消滅するのなんて絶対に嫌! それに、ハルトムートは私に大丈夫だって言ったわ!! 清めの儀式は途中で中断できないし、……それなら、覚悟を決めて最後までハルトムートについていくしかないじゃない……!!)



 レティーツィアは歩き続けた。

 とうとう湖の水はレティーツィアの口の辺りまで来ていた。

 ハルトムートはまだ歩き続けている。



 レティーツィアは鼻が湖の水に沈む前に、スゥーーッ!っと思い切り空気を吸い込んだ。

 やっぱりハルトムートはまだ歩き続けてる。



ーーーそして、とうとうレティーツィアの全身は湖の水の中にハルトムートとともに沈んだ。




ーーー




 レティーツィアは湖の水に沈む前に吸い込んだ空気を溜めて、必死に息を止めていた。


 いつの間にかレティーツィアの手を握るハルトムートも全身が湖の水の中に沈んでいるようだ。



(……まだ上に出ないつもりなの? このままだと息が続かないわ!)



「む? 其方、なぜ息を止めているのだ?

 この湖の水を信じて、全てを受け入れるのだ!」




(…そんなこと言ったって、水の中で息を止めるのは常識じゃないか! …というか、もう苦しくなってきた……!! 早く湖から出ないと、私このまま死んじゃうの…?)



「其方、聞いているのか?!

 全て受け入れるのだ!」



(……く、くるしい。 もうだめだ、息がもたない……。 まだやりたいことはいっぱいあるのに、こんなところで私死ぬのかな…。 悪役令嬢ハイデマリーには、やっぱり復讐したかったな……。)



「おい! 聞いているのか!!

 そのままでは其方は死んでしまうぞ!

 大丈夫だから、全てを受け入れるのだ!!

 お願いだからレティーツィアっ、全てを受け入れてくれっ!!!」



(ハルトムートの必死の声が遠くで聞こえる。

……あれ? けど、なんでハルトムートは話せているの? 地上にいた時と同じように苦しそうじゃないみたい…。 そう、まるでここは湖の中だけど地上のように空気があって呼吸ができるみたい。 

……ん? 全てを受け入れろって、そうしたらまるでここの湖の中でも呼吸ができるってことなの…?)



 レティーツィアはハルトムートを信じて息を止めるのをやめて、湖の中で思いっきり湖の水を吸い込んでみた!



(…あれ? 苦しくない…!! 私、呼吸ができてる…!)



「レティーツィアっ!

 よかった!!

 呼吸ができているのだな?!

 レティーツィアが無事でよかったぞ!!」


 右手をハルトムートの左手と手を繋いだままのレティーツィアは、思いっきりハルトムートの右腕で急にぎゅうっと抱きしめられた。



「レティーツィア、大丈夫だ!

 これでひとまず安心できたのだ!

 これで私達は、清めの儀式の第一関門は乗り越えたぞ!!」



(……清めの儀式の第一関門ってなんのこと…?)



 嬉しそうにレティーツィアを抱きしめて、レティーツィアの無事と清めの儀式の第一関門の突破を喜ぶハルトムート。

 状況が掴めなくて、レティーツィアはぽかんとハルトムートを見つめた。


 

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