『鉄棒』『夏休み』『変態』
暑い…いや、もはや灼熱いとでも言うべきか。燦々と照りつける太陽にコンクリートからのぶり返し、これは人を殺しにきてるに違いない。なぜ俺はこんな中歩いているのだろうか。まぁ、母親におつかいを頼まれたわけだが。
「おつかいとか小学生かよ…」
独り言をつぶやきながら歩いていると大きな公園が見えてきた。最寄りのスーパーに行くにはこの公園を抜けるのが一番早い。公園に入ってみるとセミの鳴き声だけ聞こえ、夏休みというのに子供の姿一つなかった。恐らくは冷房が効いた部屋でゲームでもしているのだろう。なぜなら自分がつい先ほどまでそうだったからだ。そのせいで母親に外に放り出されたのは言うまでも無い。
「子供一人いないのは時代のせいか、暑さのせいか…地球温暖化も考慮すると時代のせいか」
そう思案に耽ながら歩いていると一人黙々と鉄棒と格闘している少女がいた。小学生くらいだろうか…。普段なら気にも留めないありふれた光景だろうがこの時はとても不思議に思えた。
「一人で何してるの?」
思わず声のかけてしまった。傍から見ればただのロリコンの変質者だなこれは…。
「何お兄さん?変態?」
うっ…言われてしまった…。
「てか何してるのって…見ればわかるでしょ?鉄棒以外にないじゃない」
「いや、なんで一人で鉄棒してるのかなって疑問に思って…」
「あぁ、心配してくれたの?大丈夫、こう見えても私しっかり者だから」
そう言うと少女はまた鉄棒をし始めた。恐らく逆上がりの練習なのだろう。逆上がりは小学生にとって難関だったなと思い出した。
「逆上がりの練習かな?何か手伝おうか?」
「何?本当にお兄さん変態なの?それ以上近づくなら叫ぶよ」
「いやだから変態じゃないって!この暑さのなか一人で頑張っているからなにかできないかなって思って…」
「じゃあ逆上がり板になってくれる?」
「…それってただ俺が蹴られるだけだよね?」
「そうよ?変態さんはそれで喜ぶんでしょ?」
「いやだから変態ではなく」
「だったら私に構わないで」
もう少女には取り付く島もなかった。
「熱中症で倒れられても困るし何か買ってきてあげるよ。」
「…ありがと」
会話が終わると少女はまた黙々と鉄棒をし始めたので俺は公園内にある自動販売機に向かった。歩く道中、昆虫にも変態があったなぁと思い出す。昆虫の変態は幼虫から成虫、つまり子供から大人へと姿を変えることをいうが人間はいつから大人になるのだろう。自堕落な生活を送り母親におつかいを頼まれる自分と、苦手なことをこの暑さのなか一人で取り組む少女とはどちらが大人なのだろうか。そう考えながら自動販売機に千円札を押し込む。
横にあるベンチの足にはセミの抜け殻があった。