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第07話 ラブコメ回


「あー、この段ボールは、ここに置いてください。それはえーっと、この段ボールの上で。あーこれはですねー、とりあえずそのへんでいいです」


「……なあ、姫乃?」


「ん? なあにダイちゃん? いま忙しいんだけど?」


 だが、俺は姫乃に対して、当然の疑問を口にした。


「どうしてお前……俺の部屋に引っ越してくるんだ?」


 場所は、俺が住んで七年目の、ワンルームのボロアパート。


 今日の朝、何を思ったのか、姫乃はそのアパートに引っ越し屋のトラックと共に乗りつけて来て……引っ越し屋さんにあれこれ指図をして、荷物を運び込み始めたのである。


「あー、いま忙しいから。そのことは後で説明するから。ちょっと大人しくしててね?」


「いや、説明を後にされたら、もう取り消せないよな? 引っ越し屋のトラックが帰っちゃったら、この荷物の山を運び出す手段がなくなって、なし崩し的にお前はここに住むことになるよな? 俺はまだ同意してないのに……『既成事実化』って言葉を知ってるか、お前?」


「知ってるよ。赤ちゃん作ることでしょ?」


「いやその意味じゃなくて……」


「はいはいとにかく後でねー。ワガママ言わないでねー」


「いや、ワガママはお前だろ」


「……あのね、ダイちゃん?」


「え?」


「こういう時……ダイちゃんが好きなタイプのラノベの主人公だったら、どうする?」


「……」


「マジギレして、私を追い返すの?」


「……」


 俺は荷物の運び込みが終わるまで、大人しくしていた。

 正直……ラノベよりも大事なものが、世の中にはあるのかもしれない、と思った……。


 ともあれ、引っ越し屋が帰った後、俺と姫乃は、狭い部屋の真ん中に置かれた段ボールの上に、お茶とお茶菓子を配置して、畳の上に座って向かい合った。


「……で? 説明っていうのは?」


 今さら聞くことに何の意味があるのか、という気はしたが、俺は一応聞いてみた。


「フフ……引っ越してきた理由、それはね……コンビを組む漫画家として、二人の結束を高め合うため、だよ!」


「……ええ~?」


 俺が不平の声を上げたことなどまるで気づかなかったかのように、姫乃は平然と続けた。


「一緒に住むことでコミュニケーションを密に出来て、仲が良くなるだけじゃなく、ちょっとした連絡や手直しも、すぐ出来るようになるでしょ? 打ち合わせだって、思い立った時にすぐ始められるし! 漫画のスピードもクオリティも、格段に向上するんだよ!」


「おいおい。いくらコンビを組む漫画家って言っても、普通そこまではしないだろ?」


「エ? ソンナコトナイヨ? ダイチャン知ラナイノ?」


「え?」


「最近ノ漫画家サンナラ、ミンナヤッテルコトダヨ? 有名ナ○○先生や××先生モ、一緒ニ住ンデルンダヨ?」


「ま、マジで!?」


 いやーそれは知らなかったなー……あ、姫乃は同人業界じゃ有名だから、その伝手で情報が入ってくるのかな?


「で、でもさ。俺たちの場合は、男と女だろ? その……まずいんじゃないのか……色々と」


「モウヤダナーダイチャンッタラ。イマドキソンナコト言ウノハ、オジサンダケダヨ? 若イ子ハ男女ノルームシェアナンテ、普通ニヤッテルヨ?」


「マジか!?」


 いやー、欧米ではそういうこともあるって聞いたことがあったけど、日本も既にそうなっていたとはなー。


 いかんなー。ラノベ作家として、若者文化の情報収集はしてるつもりだったけど、漏れがあったみたいだ。これからはもっと、アンテナ高くしないとなー。


 ……まあ実際のところ、五年前や十年前の俺ならともかく、今の俺なら、ワンルームの部屋で姫乃がすぐそばで寝起きしていても、なんとか大丈夫だろう……三十歳になるとさ……衰えるから……性欲も……。


「まあ……わかったよ。一緒に住もう、姫乃」


「キャーッ!」


「ひ、姫乃?」


「ううん、なんでもない! 改めて、これからよろしくね、ダイちゃん!」


「こちらこそ、よろしくな……じゃ、早速なんだが、この流れで打ち合わせに入ってもいいか?」


「おう! ドンと来いだよ!」


「なんか、妙に元気だなあ……プリントアウトは持ってるか?」


「うん。ちょっと待ってね……」


 そう言って、俺たちはそれぞれ原稿のプリントアウトを持って向かい合った。


 その原稿は、俺が書いた漫画の文章原作だ。


 文章ではなくネームで描くべきかと姫乃に聞いたら「うーん、コマ割りも構図の取り方も私の方が上手いと思うから、文章の方がいいよ」と言われた。


 うん。確かにエロマンガって、コマ割りや構図が大事だもんな。


 特に構図。同じ体位であっても、どの角度から見るかによって、興奮の度合いが全くちが……やめよう。


「しっかり読み込んできたよ」


 と、姫乃は言った。


「男女ペア主人公のバトルもの、っていうのは、私が描いた原稿と同じなんだね」


「ああ。いまの流行トレンドで、大ヒットが狙えるジャンルはそれかな、って思って」


「そう? バトルもので男女ペアの主人公なんて、珍しいと思うけど?」


「……姫乃」


「え?」


「お前、何も考えずに男女ペア主人公を描いてたのか……? 確かに、あまり表だっては語られないが……俺は『男女ペア主人公』は、いまの流行トレンドだと思うぞ?」


「……え……うそ……」


 愕然とした様子の姫乃に対して、俺は自分の考えを話すことにした。

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