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第06話 追放した編集者、追放される ~その2~


「岡崎大悟が……スーパー下読み……だとっ!?」


 その凄まじいパワーワードぶりに、思わず敬語が崩れた追田に対し、副編が続けた。


「岡崎先生は、まずその圧倒的な速読によって、編集部から感謝された。わずか数日のうちに百本もの応募作に丹念に目を通し、その一つ一つに丁寧な選評までつけてくれる……まさに、鬼神のごとき下読みぶりだった」


「それだけではない」


 と編集長。


「岡崎先生が高い評価をつけた応募作の多くが、最終選考まで進んで賞を受賞し、出版されてヒットした。それも、一度だけではない。二度、三度と繰り返し、だ……それを見て、我々は確信したのだ。岡崎先生には、未来のヒット作を見抜くという、素晴らしい才能があると……!」


「なんと……!?」


 まさかの事実に、目をひんむく追田。

 だが、新情報の公開は、まだまだ止まらない。


「そしてついに……先代の編集長が、決断したのだ」


「決断したとは……何を?」


「一年の応募作、千本……その全ての下読みを、岡崎先生に任せることをッ!」


「なっ!? ちょ、ええええええええええええっ!?」


 さすがにこれには、追田も文句を言う。


「それは、いくらなんでもヤバくないですか!? だって岡崎先生がいなくなったり、急に病気になったりしたら、大変なことになりますよね!? っていうか今まさにそうなってるじゃないですか! あ、それで俺はいま呼び出されてるんですね! なるほど理解しました!」


「……確かに『岡崎先生に任せ過ぎだ』という指摘は、一理ある……だが……結果が……ついて来ていたからな……」


「結果……ハッ!?」


 ブラック文庫新人賞。

 それは、現代のラベノ界に燦然さんぜんと輝く、最後の砦となっていた。


 大賞受賞作が、五年連続で十万部超えのヒット。


 Webからの拾い上げが増えている昨今のラノベ界において、そのような圧倒的な結果を叩き出す新人賞は、他に存在しない。


「その、ブラック文庫新人賞の快進撃を、裏で支えていたのが……!?」


「その通り! 岡崎大悟先生だったのだ!」


「な、なんだってええええええええええええええっ!?」


 驚天動地の新事実であった。


「フフフ……ここ数年、編集部は選考らしい選考などしていない。全ては、岡崎先生が推した作品を受賞させるだけの、簡単なお仕事……外部から選考委員を招く他社と違って、うちは最終選考まで編集部で行うからな……お前も去年は中間選考に参加したから、疑問を持っただろう? あの、会議が始まる前から結果が出ているような、出来レースぶりに」


「は、はい……」


 本当は追田は疑問を持ってなどいなかった。選考会議では、目を開けたまま寝ていたからだ。


「し、しかし、まだ疑問があります……」


「なんだ?」


「どうしてこのことが、俺に知らされなかったんですか?」


「この事実は、編集部でも限られた人員にしか知らされていない……」


「なぜですか?」


「情報が漏洩したら、他の出版社に取られるからだよ!!!! あのものすごい才能を!!!!!」


「ひいっ!」


 編集長の叫びに、縮み上がる追田。


「さあ追田。これでわかっただろう? お前が何をやらかしたのか」


 と副編が言い、さらに編集長が続ける。



「岡崎先生はな……メチャクチャ良い人だったんだぞ……自分が選んだ新人が自分を超えてスターになっても、嫌な顔一つせずに、自分のことのように喜んでくれたり……高額な報酬を支払うという編集部からの申し出を『自分はあくまで作家として稼ぎたい』なんてカッコイイことを言って固辞したり……」


「ブラック文庫編集部は、いや、ブラック出版はな……この大恩に報いるべく、たとえこの先ずっと岡崎先生がヒットに恵まれなくても、社を挙げて先生の作家人生を支えるつもりだったんだぞ!」


「……まあ、岡崎先生が売れっ子になって、下読みの仕事ができなくなると困るから、先生の著作の宣伝を全くやらなかったり、初版の部数を抑えたりして、足を引っ張っていたというか、飼い殺しにしていたのは事実だが……とにかく、岡崎先生とは今後とも末永くお付き合いするつもりだったんだ! それを……それを貴様というやつは!!!!」



「そ、そんなこと、担当編集の俺には知らせといてくださいよ!」


「このたわけが! お前が勝手に作家を切るような不良編集だって知ってたら、絶対に岡崎先生の担当なんかさせなかったわ! つーか普通そんな編集がいるとは夢にも思わないんだよ、このクソが!」


「ひいいいいいっ!?」


 そのタイミングで、編集長よりはいくらか落ち着いている副編が言う。


「追田。そんなことを言っている暇があったら、早く岡崎先生に頭を下げて、戻ってきてもらった方がいいぞ」


「へ? あ、頭を下げる? この俺が? あの底辺作家に?」


「お前、まだ状況が理解できていないらしいな……」


 編集長はドスの利いた低い声で、情けないことを言い始めた。


「岡崎先生がいなければ、選考のクオリティは確実に下がる……このままでは、今年のブラック文庫新人賞の受賞作は、クソみたいな作品ばかりになってしまうんだぞ……」


「……○○文庫の新人賞と同じように、ですか?」


「追田。その発言は危険すぎる。二度とするな」


「あっ、はい」


「……万が一、社運を賭けた新人賞の受賞作が、クソみたいな作品ばかりになったりしたら……追田……その時は、わかっているんだろうな?」


「……え? それって俺が悪いんですか? ちゃんとした選考ができない、編集部全体の責任じゃ……」


「うるさい黙れ! 編集ってのはな、売れる作品を出すためなら、犯罪だって何だってやるんだよ! 『妹さえい○ばいい。』にだって、そう書いてあるだろ!」


「え? 違いますよ? そのセリフの頭につくのは『本を出すためなら~』です」


「ほおおおおおおおおおおお!?」


 もうこの際だから言ってしまうが、追田はバカだった。


「追田くんは編集長よりもラノベに詳しいみたいだなあああああああああ!? じゃあ、今年の選考は君が一人でやるか!? んん!?」


「……編集長、それはよくありません。俺ではなく、応募者が可哀想です」


「最後の最後になって突然まともなことを言うんじゃない!」


「いや、俺は少し前から、結構まともなことを言ってる気がするんですが……むしろ編集長の言ってることの方が、常軌を逸しているような……」


「黙れ小僧! お前にブラック文庫が救えるか!? 救えるのは岡崎先生だけだ! こんなコントをやってる暇があったら、とっとと先生に詫びを入れてこい!」


「は、はい~~~~~~~!」


 と、そういうことになったが……

 言うまでもなく……もう、遅かった。

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