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第05話 追放した編集者、追放される ~その1~

「なろう」の全ての小説ページの下部には「特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません」という注意書きがあります。


……いいですか!? わかりましたね!?


 ここは、大手出版社「ブラック出版」の社内にある「ブラック文庫編集部」。


 その編集者の追田が、岡崎大悟を追放してから、一ヶ月が経とうとしていた。

 その間、特に何も起こらなかったので、追田は大悟のことなどすっかり忘れていた。


 だが……そんな安穏とした日々は、突如として終わりを告げることになる。


「あー、追田」


 昼下がりのブラック文庫編集部。

 副編集長(副編)が、追田に声をかけてきたのだ。


「はい、なんですか?」


「新人賞の下読みの仕事なんだけど。今年も岡崎先生にお願いするから、スケジュール調整してもらっといて」


「あー、わかりました。岡崎先生は出禁にしちゃったんで、誰か他の人を手配しますね」


「……追田?」


「はい?」


「お前……いまなんつった?」


 追田は説明した。岡崎大悟はもう使えないと思ったので、戦力外通告をし、出入り禁止にしたことを。


「だってほら~。俺が何人の作家を抱えてると思ってんすか。これは業務効率化なんですよ。使えない作家を切ることで、俺の負担が軽減され、定時に帰れるようになるんです。ほら、最近は人事の連中がうるさいじゃないですか。残業を減らせって」


 すると、追田は副編の手によって編集長デスクまで連行され、同じ説明を繰り返すよう言われた。


 説明が終わると、編集長はデスクに肘をついて手を組んだ姿勢 (碇ゲ○ドウみたいな感じ)で、こう言った。


「追田……お前には、勝手に作家を切る権限など、与えていないはずだが?」


 他の編集部ではどうだか知らないが、少なくともこのブラック文庫編集部では、そういうのは編集長の権限となっている。


「え~。でも、これまで問題になったことなんて、なかったじゃないですか~」


「……これまでにも、何度かやっているのか?」


「え? はい、やってますけど?」


「……」


 編集長は副編と目配せする。副編は肩をすくめていた。


 確かに、中堅の域にも達しない底辺作家の場合、平の編集が勝手に切り捨てていたとしても、上司が気づかないことはあるかもしれない。


 それはそれで問題だ……しかし、いまはもっと、遙かに大きな問題があった。




 気がつくと、追田は会議室に連行されていた……それも、ブラック文庫編集部から一番遠い、人気のない会議室に、である。


 廊下側のお誕生日席には、追田が座らされた。


 そして、反対側のお誕生日席には編集長が。さらに、副編が編集長の脇に(なぜか座らずに)立って控えている。


 なぜか電気が消灯された室内にあって、編集長の背後には、明るい昼の陽射しを取り入れる窓があって……なんかこう……追田の視点からは、逆光のせいで編集長と副編がすごいことになっていた。凄まじい迫力……!


「あの……すんません」

 そんな雰囲気を前にして、いても立ってもいられず、追田は言った。

「俺……なんかやらかしました?」


「……順番に、説明しよう」


 重々しくそう言った編集長は、副編に向かってあごをしゃくった。

 副編が説明し始める。


「下読み……は、当然知っているな?」

「ええ……」


 下読み。

 それは、新人賞の選考のために、出版社に臨時で雇われて働く人々のことである。


 ブラック文庫が主催するブラック文庫新人賞の場合、年に千作ほどの応募がある。


 ところが、漫画と違って、ラノベは読むのに時間がかかる。限られた編集部の人員で、応募作の全てに目を通すことはできない。


 そこで登場するのが、下読みだ。


 編集部に届いた応募原稿は、まずこの下読みによって読まれる。


 そこで「どう考えてもこの作品は賞を獲れないだろう」という、誰が見てもわかる駄作がふるい落とされ、それ以外の「まともな」応募作のみが次の選考に進み、編集者の目に触れる……ことになっている。建前の上では。


 ところが、である。


「この下読みの『質』が、以前から問題になっていたのだ」


「質……ですか?」



「ああ。下読みは、編集者によってある程度『目利きができる』と見込まれた人物がなる……ことになっている」


「だが正直なところ、千本の応募作を二十本ずつ振り分けるとすると、下読みの数は五十人になる……これだけの数の『目利き』を集めることは、簡単ではない」


「しかも、下読みという仕事は一種の季節性労働、つまり正社員どころか通年雇用のバイトですらなく、臨時雇いの業務委託であるという事実が、優秀な人材を集めることをより難しくしている」


「……それ故に、時として無能な下読みが紛れ込んだり……最悪の場合、『危険分子』が入り込むこともある」



「き、危険分子……?」


 不穏な言葉が出てきて追田が動揺する前で、編集長と副編は顔を見合わせた。


「あの事件はショックだったな……なあ、副編よ」


「おっしゃるとおりです、編集長……」


「な、何があったんですか……?」


 尋ねる追田に向かって、編集長は重々しく言った。


「数年前……『なろう系』の応募作を、面白いものも含めて全て落としている、とんでもない下読みがいたことが発覚したのだ」


「な……なんと!?」


 なんてことだ! いま売れ筋の「なろう系」を全て落とすなんて! とんでもないヤツだ! 出版社の敵じゃないか!


「そいつは取り調べに対して『日本の出版文化を守るためにやった。反省はしていない』などと、過激派のテロリストみたいな供述をしやがった……実に衝撃的な事件だった」


「なるほど……しかし……それはわかりましたが、それと岡崎大悟が、どうつながるんですか?」


「それはな……」


 編集長は、ついにその謎を明かす……っ!


「岡崎大悟先生はな……下読みを超えた下読み……『スーパー下読み』だったんだよ!」


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