第03話 絶望から希望への相転移
今回の話には「なろう」ファンの皆さんが、ちょっと「カチン」と来るような発言があります。
しかし、直後に「反撃」が始まるので、安心してお読みください。
いやいや、大丈夫だ、キュ○べえは劇場版で滅びたからな……マ○アレコードは未見なので、若干不安ではあるが……
なんてアホなことを考えるのはほどほどにして、俺は会話を進めた。
「漫画家……つまりあれか。バ○マンみたいな感じで、俺に漫画原作者になれと?」
「うん! ダイちゃんにはラノベの仕事があるからって、これまで遠慮してたんだけど……こう言ったら悪いけど、いまフリーなんだったら、ぜひお願いしたいな、って!」
「よせよ、売れなかった俺なんか……」
俺は頭をかきながら言った。
「お前、今回はなんか突っ返されたみたいだけど、他のところにも持ち込みしてみろよ。作画だけなら、って条件でやってくれる編集部もあるはずだ、お前なら」
「あー……」
「あ?」
「実を言うと、これまでにも何度か持ち込みをしたことはあって……一回だけ、その流れになったこともあるの。ダメになっちゃったけど……」
「……何があったんだ?」
姫乃が深刻そうな暗い顔をしているので、俺は聞いた。
ところが、姫乃はかぶりを振る。
「い、言えないっ! ……言えないけど……それがちょっと、トラウマになっちゃって……原作者とコンビを組んで、っていう話は、それ以来お断わりしてるの……」
「……」
この様子から察するに……男女関係のトラブルだろうか。
原作者の男が、姫乃に熱を上げて盛り上がっちゃって……みたいな……
だとしたらとんでもない野郎だ、と俺は怒りに震えた。
漫画家デビューの話をポシャらせたばかりでなく、今日ここに至るまで、姫乃の心に傷を負わせて、彼女の将来を蝕んでいるなんて……!
……ん? 待てよ?
「……だったらなんで、俺ならいいんだ?」
「え?」
一転してキョトンとした表情になって、姫乃は言った。
「だってそれは、ダイちゃんなら大丈夫っていうか……」
「……だから、なんで?」
「そ、それは……ダイちゃんとそういうことになれば、願ったり叶ったりっていうか……」
「? なんでさっきからモジモジしてるんだ?」
「と、とにかくダイちゃんなら大丈夫なの!」
うーん、よくわからないんだけど、大学時代からの知り合いだから信用できる、ってことかなあ?
「で? 返事はどうなの? 早くイエスって言ってよ!」
「なんか急に怒りだしたなお前……うーん」
俺はコーヒーを飲みつつ、ひとしきり悩んでから、こう言った。
「少し考えさせてくれ……ついさっき、戦力外を言い渡されたばかりなんだ。ずっとラノベ作家としてやってきたのに、そんな簡単に切り替えられねーよ」
「えー……ダイちゃんもしかして、ラノベ作家に未練があるの?」
「そりゃあ、あって当然だろ?」
「ええ? どうして?」
「は?」
「だって……」
そして姫乃は、聞き捨てならない一言を……いや、言ってはならない一言を、俺に言ってきた。
「だってラノベなんて、もうオワコンじゃん」
……。
…………。
………………。
はあああああああああああああああああああああああああ????????
ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお????????
あーーーーーーーそう来ますかああああああああああ!?!?!?!?
そう来るんですかあああああ、へええええええええええええ???????????
「……」
俺はゆっくりとした動きで、コーヒーではなく水を飲んでから、口火を切った。
「なんだお前? 喧嘩売ってるのか?」
「や、やめてよダイちゃん。なんか怖いよ……」
「む……」
いけない。いかに正義の聖戦とはいえ、威圧感を振りまいて婦女子の発言を抑圧するなど、人として恥ずべき行いであった。改めよう。
「すまん、ちょっと落ち着こう……大丈夫か? 俺の頭、もう金色に輝いてないか?」
「それは大丈夫だよ、さっきから輝いてないから……でも、ダイちゃんもいい加減認めなよ。ラノベはオワコンだって」
「ぐっ!?」
俺は胸を押さえてテーブルに突っ伏した。
「だ、ダイちゃん!?」
「そ……その『オワコン』という強い言葉を使うのはやめてくれ……胸が……胸が痛い!」
「ご、ごめん! 私が悪かったよ! ……私が言いたかったのはね、」
俺が(ちょっと行儀が悪いが)おしぼりで顔を拭いて頭を冷やしている前で、姫乃は言った。
「ダイちゃんみたいな作家を捨てたような、ラノベ業界が許せない、ってことなんだよ」
「……」
俺がおしぼりから顔を上げると……姫乃は、膝の上で両手を握りしめながら、言っていた。
「私たちが十代だった頃のラノベには、なんていうか、夢があったよ……次から次へと、これまで見たことないような、全く新しい作品が生まれてきて、その多くに深いテーマ性があって……私たちもラノベの主人公みたいに、強く正しく生きようって思わせてくれるような、そんな何かが確かにあったよ! っていうか、ダイちゃんの作品には、いまでもそれがあるよ!」
「なのに……いま売れてるラノベって、なんなの?」
「文章は薄っぺらくて……ほんと、印刷してある紙よりも薄っぺらいぐらいで、何の面白さもない。昔のラノベは、文章だけでクスッと笑わせてくれるような作品がたくさんあって、それだけでも面白かったのに」
「最近は、話の展開だって、主人公がトントン拍子に成功して幸せになるみたいな、下らないご都合主義ばっかり。あんなんじゃ、登場人物を尊敬できるようにならないよ」
「……私は許せない」
「ダイちゃんみたいに、本当に優れた作品を作り続けた作家さんを、みんな捨ててしまった……この業界が! 出版社が! 何よりも、読者が!」
「私には……許せないの……」
「姫乃……」
声を震わせて、そう言ってくれた姫乃に対して、俺は……
……決然と、NOを突きつけてやることにした。
「てめえ……まだデビューもしてねえアマチュア漫画家の分際で、何様のつもりだ!?」
「……え?」
……反撃開始、だ!