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ビール代


 夏子がウチにやってきてから、俺の日常が激変した。


 まず、ビール代。


 月に使っていたアルコール代が、1人分増えた!


 と思ったが、1人分どころの話ではなかった。


 夏子は、1日にビールを3本は飲む。


 俺もその晩酌に合わせて、同じ量を呷る。


 計6本だ。


 夏子うちにやってくるまでは、1日1本だった。


 しかも、毎日ではない。


 つまり、以前と比較するととんでもない出費なのだ。


 今現在、五代雄介の経済事情は非常に危うい!


「さて、どうしたもんか……」


「どうした五代、またおっぱい幽霊の悩み事か?」


「夏子だ」


「へいへい。で、なに。夏子ちゃんとなんかあったのか?」


「ああ、大アリだよ。聞いてくれるのか佐藤」


「話す気まんまんな雰囲気出しといて今更だな」


「あいつ、もう遠慮ないんだよ」


「ほうほう」


「がっついてくるんだよ」


「!?」


「もうな、バキュームかってくらいにな」


「……そんなに、すごいのか?」


「ああ、そりゃあもう。毎晩毎晩な。あいつは多分、全部を搾り取るタイプなんだよ……」


 このままでは俺の預金が先に尽きちまうよ。


「はぁ、毎日あくせく働いてるこっちの身にもなってほしいぜ」


「毎晩……休みなく……」


「ああ。休みなくガッツリな」


「……」


「なんで黙るんだよ」


「く、クソ……なんて、羨ましいやつなんだ」


「? あのさぁ佐藤、お前なんか勘違いしてね?」


「勘違いしてんのはお前だろうが!? 毎晩毎晩お楽しみってか!? 少しは俺の身にもなれよ!?」


「だから、それが勘違いなんだろうが」


「エッチの話だろ!」


「ビールの話だよ!」


 昼休み──


 俺たちは、社内食堂にやっできていた。


 佐藤はカツ定食。


 カツ定食は、一食700円だ。


 一方の俺は……


(あ、味気ねぇ……)


 素うどん。


 一杯300円だ。


 以前までは同じランクの昼飯だったのに、既にこの格差。


 そろそろ本気で考えないと、まずい気がしてきた。


 薄月給サラリーマンはつらいのだ。


「佐藤。カツ一枚くれ」


「100円」


「いやたけーよ。10円」


「じゃあ、夏子ちゃんと週何回してるか教えてくれたらタダでくれてやるよ」


「やってない」


「……ほんとか?」


「いや、うそ」


「正直に白状しろ」


「誰にも言うなよ?」


「おう」


「三回だ」


「……」


「おい、正直に言ったぞ。くれよ」


「やだ」


「は? 話ちげーだろ」


「俺、お前キライ」


「おい!」



 会社帰り、俺はスーパーに立ち寄った。


 そして、飲料水コーナーで足を止めた。


 キンキンに冷えたビールが、ずらりと陳列してある。


 今朝方、自宅の冷蔵庫を確認した限りでは、ビールはあと1本しかなかった筈だ。


 で多分その1本も、今頃は夏子の胃の中へと流れていることだろう。


(ん~)


 俺は迷った。


 迷って、迷って迷って迷って……


 迷い抜いて。


「ただいまー」


「おかえりー雄介! ビール! ビール!」


 ニッコニコで玄関へ駆け寄ってくる夏子。


「雄介! 本日もおつかれさまでしたね~」


「おう」


「で、ビールちょーだい!」


「さっそくかよ」


「私もお掃除とか洗濯とか頑張ったし?」


「それは感謝する」


「だからはい、雄介くん?」


「あーはいはい、ほらよ」


 と、俺はスーパーの買い物袋を夏子へ渡した。


 そそくさとリビングへ。


 すると、案の定だった。


 背後から、「はぁあっ!?」と叫びが聞こえてきた。


 猛スピードで近づいてきて、肩を掴まれる。


「ゆ、雄介!」


「なんだよ」


「ビール! 2本しか入ってませんケド?」


「2本しか買ってきてないからな」


「なんでよ!」


「悪いかよ」


「悪いに決まってるじゃん! 死刑よ、死刑!」


「ビール如きで大罪人かよ!?」


「あっ、分かった! 雄介、あなた働き過ぎよ。多分あれよ、鬱病! 疲れてるのね」


「仮にも俺が鬱病なら原因はお前なんだが?」


 と、言ったあたりで。


 夏子は、「あっ、そうか!」と独りでに納得した。


 いやなにを?


「なるほどね。雄介は休肝日ってことで、これは2本とも私のってわけね!」


「んなわけあるかバカちんが」


 俺は夏子に脳天チョップ。


 「あいてっ!」と悲鳴をあげた夏子の手から.ビールを奪い返した。


 抜け目ないやつめ。


 夏子は涙目を浮かべながら、


「な、なにすんのよ!」


「1本は俺のだ」


「え! じゃあ私、1本しか飲めない!」


「冷蔵庫にもう一本あったはずだ」


「もうない」


「やれやれ、予想通り過ぎる展開で頭が痛いぜ」


「雄介、もういっぺん買ってきて」


「だが断る」


「断るのを断る!」


「そんなに飲みたいなら自分で行ってこい」


「無理だし、だって私JUだし」


「どういう理屈だよ!?」


「まあでも、持ってこれるはこれるけどね」


「いや持ってこれるの!?」


「当然でしょ? だってほら、私幽霊だし」


「だから理屈っ!」


「まーでも、ポルターガイスト的なことが起きちゃうと思うし、万引きになるからやらないけどね?」


「俺の家で散々してたやつがよく言うぜ…」


「てな感じだから、行ってきて。あ、1人で行くのが億劫だったらママも一緒について行くから」


「誰がママだこら!」


「ねぇ~ねぇ~、お~ね~が~い~っ!」


 結局、ビールを買いに行くハメになりました。


 もうやだほんと。


 ほんとやだ幽霊!



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