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散歩


 その後、バテた夏子が回復するまでおんぶすることしばらく。


「雄介。コーラ飲みたし」


「知らん!」


「疲れたのー」


「あのさぁ夏子、どう考えたってお前をおぶってる俺のが疲労困憊なんですが?」


「じゃあ、雄介にもちょっと分けてあげるから!」


「俺が買うから当然の権利だろうが」


「んもぅー! 御託はいいから、コーラ買ってー!」


「お、おい暴れんな!」


「おーねーがーいー!」


(うっざぁああああっっ!)


 仕方なくコーラをくれてやった。


 すると、これまた美味そうに飲みやがる。


 ポカリスエットの女優ばりの飲みっぷりだ。


 あれだよあれ、透明感のある女優みたいなやつだ。


(こうして眺めているぶんには可愛いんだけどな…)


 と、夏子と目があった。


 ちゅぽんっ──半分くらい減ったペットボトルを渡してくる。


「なに、欲しいの?」


「いいよ俺は」


「とか言って~、ね? 飲みたいんでしょ? ほんとは飲みたくて堪らないんでしょ?」


「う、うぜぇ……」


「しょーがないなー。じゃあ、はい。あと全部くれてやってもいいよ」


「俺が買ってやったのに散々な言い草だなっ!?」


「細かいことはいいから。飲むの、飲まないの?」


「くっ、飲む!」

 

 俺はペットボトルを受け取り、そのまま勢いよく喉へと流し込んだ。


 喉で弾ける炭酸。


 しゅわしゅわぁぁぁああああ……,


 久しぶりのコーラだが、乾いた喉によく滲みるぜ。


 ビールと同じくらい滲みる。


 と、また夏子と目があった。


 まじまじと眺めてくる。


 の、飲みづれえ……。


「な、なんだよ」


「いやさー」


「うん」


「間接キスですねって」


「……」


「……」


「今更そんなことする歳かよ」


「でもちょっとドキドキした?」


「してない」


「でも顔が赤い!」


「はぁ!? 暑いからだよ!」


「焦ってる焦ってるぅ~ぷぷぷ」


「ふん。ほら、くだらないことはいいから行くぞ」


「おんぶー」


「ブン殴られたいのか?」


 呆れて、一人で歩き出す。


 すると、「待ってー!」追いかけてきた夏子が手を握ってきた。


 ひんやりとして気持ちいい。


 幽霊心地だ。


 それから、夏子と手を繋いであてもなく街を歩いた。


 そして、いろんな発見。


 こんな場所にこんな飲み屋があったのか。


 あそこ潰れちゃってるよ。


 あ、ここマンションになってる。


 あれ? こんなとこに公園が?


 などなどの、いろんな発見に満ちていた。


 日が暮れて、そろそろ帰ろうかと話になった。


 こうして歩いてみると、時間はあっという間だった。


 ただ、あのまま家でごろごろしているよりは、有意義な時間を過ごしたような気分である。


 自宅マンションが見えてきた。


「夏子」


「んー」


「そう言えばさ、お前ってどこに住んでたの?」


「それ聞いちゃう感じ?」


「えっと、なんかまずかった?」


「まずくはないけど、プライバシー的な」


「幽霊にプライバシーとかあんのかよ……」


「幽霊にも人権はあります!」


「俺のプライバシーとか人権を侵害してる奴に言われたくねーな……」


「それを言っちゃあおしめーよ」


「でも事実だろ?」


「事実ですなぁ」


 夏子は「はっはっは~」と高笑いして。


「でもさ、私ってほら、もう死んでるじゃない? だからさ、これまでなにをしていたとか、どこの誰だとか、もう言っても仕方ないと思うんだよね」


 次に見せたその横顔は、えらく達観した見えた。


 夕陽に染まっていたから、余計にそう見えただけなのかもしれないが。


「死んだら、全てがおしまいなんだよ」


「…………」


「え? なんか言ってよ。真剣に話した私はずい」


「いや、なんか、バカはバカなりに考えてるんだなって」


「ねぇ、殴っていい? 顔面パンチしていい?」


 バカみたいなやり取り。


 高校生の頃は、当時の彼女とこういった何気ないバカ話を気軽なくしていた気がする。


 それだけで、毎日が楽しかった。


 将来も夢に満ち溢れていた。


 なぜ? 


 うん、知らなかったからだろう。


 あの頃の俺たちは、なにも知らなかったのだ。


 今すべきことも、将来どんなことが待ち受けているのかも、それら現実をなんも分かっちゃいなかった。考えてもいなかった。


 考えたくなかったのだ。


 だが、そんなわけにはもういかない。


 でも、考えれば考えるほどに、不安だ。


 俺は、今では25歳だ。


 社会が、仕事が、将来が、結婚がーなど、見えない不安にずっと追われている。


 めんどくせぇ……。


「雄介?」


「……」


「雄介!」


「おわっ、なんだようっせーな」


「どうしたのボーっとして?」


「俺もいろいろと考えることがあるの」


「どうせエッチなことでしょ?」


「おい」


「そんなことより、ビール!」


 夏子は、俺の腕をグイッと引っ張りながら、ニコニコと笑いながら言った。


「ビール、多分もうないよ。コンビニで買ってこ」


 はぁ、またビールか。


 口を開けば、ビールビールって~。


 本当、能天気なやつ。


 でも、なぜだろうな。


 ちょっとだけ、こいつに救われている俺ってのもいる気がして。


「はいはい、コンビニな」


 なにに救われているかは、分からないが。


「雄介」


 ──コンビニの帰り道。


 帰宅を待ちきれず、歩きビールをする夏子が言った。


「死んでみて分かったけど、普通に生きてるってことが、一番幸せなんだと思うよ」


 なんだそれ。


「俺には関係ない話だ、死んでないしな?」


「けっ、生者風情が粋がりおる……」


「まあ、でもよ」


「?」


「その通りだとは、思うぜ」


 俺はビールを飲みながら、思う。


 言った。


「俺、今さ、少しだけ楽しいかもしれない」


「……」


「……え、そこで黙っちゃう?」


「いや、なんか雄介、カッコつけてるなって」


「!?」


「『俺、今さ、少しだけ楽しいかもしれない』」


「復唱すんな!」


「ぷぷ、ぷぷぷ、あはははははっ!」


 この野郎。人をおちょくりやがって~。


 そうしてまた始まる幽霊鬼ごっこ。


 目的地は自宅マンションまで。


 JU(女子幽霊)との共同生活は、毎日が騒々しい。


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