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休日


 日曜日。休日。昼前。


 特にやることもなく、夏子と二人、ぼんやりとテレビを眺めているときだった。


「あのさぁー、夏子」


「んー」


「暇だなぁ」


「んー」


 そう、くそ暇だった。


 あまりに暇過ぎて、昼からキンキンに冷えたビールを飲むのも悪くないかもなぁと、悪魔が囁いたのだが……


 それはそれで、なんか嫌だった。


 たまにはいい。


 だが、明らかにこれは悪い流れだ。


 暇つぶしに酒盛りってのは、いよいよアル中に片足突っ込んだ気がするからな。


 そうじゃない。


 なにか、もっと有意義な時間の過ごし方があるはずだ。


「そうは思わないか、夏子?」


「は? いきなりなんの話?」


「なんだよ、俺の心の声聞いてなかったのか?」


「聞こえるかばかっ!」


「ご主人さまに向かってばかとはなんだ。少し教育が必要なようだな?」


「あっ、ちょっ、あははははっ! やめてっ! 脇はやめっ、ひひひひひっ!」


「こちょこちょこちょこちょ~」


 と、戯れることしばらく。


「飽きたな」


「勝手に始めて勝手に飽きるなっての…」


 こうじゃない。


 俺が求めている有意義な時間潰しとは、こんなことではないのだ。


 今日は良い天気だし、ふらっと散歩でもするのもいいかもな。


 よし、決めた。


 散歩だ。


「すまん夏子、俺、ちょっくら出てくるわ」


 と、そのまま自宅を出ようとして。


「は? ちょっと待って」


 夏子に腕を掴まれた。


 なんだ、一体?


「なんだよ」


「『なんだよ』ってそれこっちの台詞! どこ行くの?」


「別に」


「答えなさいよ」


「報告義務はないし」


「そ、それはそうだけど……」


「まあ、隠す必要ないけどな。散歩だよ」


「散歩!」


「おう」


「日光浴!」


「お、おう…」


「私も行く!」


「は?」


「え?」


「……」


「……」


「……いやいや、ダメだろ?」


「ダメなの!?」


 夏子は驚いていた。


 いや、それこっちの反応な?


「あのさぁ夏子、もう一度確認しておくぞ」


「なに」


「お前は幽霊だ」


「だからなに?」


「いや、忘れてるかと思って一応確認とばかりに」


「さっきからなに! はっきり言って!」


「いやだから、幽霊は日光に弱いんじゃないのか?」


「えっ、そうなの!?」


「いや、知らんけどさ」


「はぁ、なんだ。驚かせないでよ」


 ほっと胸を撫で下ろす夏子。


「日を浴びた瞬間に消滅しちゃうのかと思って少し心配したじゃない」


「俺はそう思ってたんだけどな……あーでも、もしもそれで成仏するのならいいことだったり? 試す価値はあるかもしれない」


「それどう考えたってそれ成仏じゃないんですケド? 成仏ってのはあれ、坊さんに『何妙法蓮華~』って唱えてもらう的なやつでしょ」


「じゃあ唱えてもらえよ」


「唱えてもらっての今ですがなにか?」


「お、おう……」


 幽霊の概念がよく分からねぇ……。


「いやでもさぁ、よくあるだろ? 闇属性は光属性に弱いみたいな。ゾンビは日が沈んだ後にしか活動できないし」


「失礼な。私は闇属性でもないし、ゾンビじゃないよっ!」


「でも、幽霊だろ? 幽霊って普通あれ、夜とか暗い場所でしか活動できないものなんじゃないの?」


「じゃあ今こうして元気よく活動してる私はなんなのよ?」


「ここは家の中だからオッケーみたいな。ほら、リングとか呪怨でもさ、家の中とか暗い場所なら日中でもアリみたいなとこあっただろ?」


「ホラー映画と一緒にすんなこらー!」


「あーはいはい。じゃあ、どうする?」


「一緒に行く!」


「陽を浴びた瞬間に『うぎゃあああ』とか言って消滅しても俺責任とらないからな」


「消滅したら毎晩枕元に立つからね」


「おい」


「うそよ。でもそうね、一応日焼け止めとか塗っといた方がいいかもね!」


「そういう問題か……」


「あと帽子と長袖! 下は……まあ、いいか!」


「適当だなぁおいっ!?」

 

 と、結局一緒に散歩へ行くことに。


「よし、じゃあ雄介! 行くよ!」


 やれやれ。


 勝手に消えても俺は知らねぇからな?



 そのまま俺たちは、マンションのエントランスを出た。


 そして、いざ、燦燦と輝く太陽の下に足を踏み出して──

 

「きゃぁあああああっ!」


「夏子っ!?」


 夏子は日光浴びた瞬間にも、へなへなと地面へとうずくまった。


 言わんこっちゃない。


 やはり、日光は幽霊にとっての毒だったのだ!


 なんてことだ……だから、あれ程忠告したのに……でも、いい生き様だったぜ?


「夏子、お前のことは忘れない。ほいじゃーな~」


「って、ちょ待って待って! 冗談! 冗談だからっ!」


「うわっ、死体が喋った!? いや、幽霊か!」


「白々しいのよっ!」


「おー、なんだ夏子、消えてなかったのか」


「……ふん、分かってたくせに」


「あれ、バレてた?」


「くっそ、死ね!」


 と、肩パンしてくる夏子。


「幽霊パンチ、ざっこ」


「こ、こいつー!」


「あはははは! 捕まえてみろ~」


「ま、待てー!」


 そうしてなぜか始まる鬼ごっこ。


 いや、この場合は幽霊ごっことでも言うのか?


 いずれにせよ、めっちゃ走った。


 が──


「おーい。大丈夫か夏子?」


「み、水~」


「幽霊でも脱水症状になんのな」


「雄介。だっこー」


「へいへい」


 幽霊ってなんなんだろうな、全く。


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