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ウォーキングデッド


 そうして始まりました早朝ランニング。


 ランニングコースとしては、街をぐるりと回ることとなった。


 そのうち、少しずつ距離を伸ばしていずれは隣町へ行こう! だなんて目標を高く設定してきた夏子。


 では気合いを込めて、いざ出陣~と、走り出したのはいいのだが……。


「ぜぇぜぇぜぇ……夏子」


「ぜぇぜぇぜぇ……なに、今めちゃ吐きそうだから、話しかけないでよ」


「ぜぇぜぇぜぇ……いやさ、少し、休まねぇか?」


「ぜぇぜぇぜぇ……まだ数分しか走ってないけど、そうした方がいいかもね」


 俺たちは走り出して数分で体力尽きた。


 で、やる気を失っていた。


 そう、俺たちは浅はかだったのだ。


 公園のベンチに座り体を休ませながら、考えが甘かったことを悟っている……。


「大前提としてだ夏子、俺はここ数年、満足に運動なんかしてなかった」


「私もそうだけどさ……でも高校生の時はバスケ部で走り込んでたし、なんかイける気がしたんだけどね……」


「俺もサッカー部だったし、同じことを思っていた。だがそれこそが落とし穴だったかもしれない」


 と、俺は夏子のお腹を摘んだ。贅肉。ビール腹。


「これまで運動をサボっていたくせに、気持ちだけ若者感覚でいたのが間違いだったんだよ」


「離せー!」


「このビール腹で、なにが隣町まで走ろうだ。寝言も大概だよなぁっ!?」


 はい、殴られました。


 ご立腹の夏子さんは言った。


「我が身を振り返れってのデブぅ!」


 夏子に頬肉をぐにぃ~と摘まれた。


 なるほど、確かに人のことは言えないかもしれない。


「雄介のデブ」


 いや、でもな?


「お前に言われたくはねーよ、デブ」


「うっさいデブっ!」


「デブデブデブデブ」


「デブデブデブデブ」


 と、不毛な争いをしている時だった。


 おん歳軽く70歳は超えているだろうお爺さまが、颯爽と俺たちの前を走り去っていった。


 虚しかった。


 ひっじょーに、虚しい感覚だった。


「あのさぁ、夏子」


「うん」


「努力だな」


「うん、そうね」


「コツコツだな」


「一歩一歩ね」


 俺たちは謎の敗北感を味わいながら、その日は撤退を余儀なくされた。


 その晩、ビールは飲まなかった。



 そしてやってきた翌朝。


 俺たちは再度、早朝から街へ繰り出していた。


 だが待てよしかし、俺たちも同じ失敗を犯すほどバカではない。


 まず大前提として、俺たちは運動不足だ。


 そんな俺たちが、調子に乗ってランニングなんて始めたこと自体が間違いだったのだ。


 そうじゃなかったのだ。


「とりあえず、適当に歩くか」


「適当にって、どこまで?」


「夏子よ、どこまでなんて目標を決められるほど、俺たちはタフじゃない……そうだろ?」


「そうかもしれないけど、そうかもしれないわね」


「とりあえず、1時間くらい歩くか」


「てかさ、雄介さん雄介さん」


「なんだよ」


「これ、ふつーの散歩じゃない?」


「……」


「……」


「散歩だけど、やらないよりはマシだから。やることに意義があるんだよ。デブ」


「デブって言うなデブぅ!」


 とかなんだかんだ言い合いながら、適当に歩いた。


 そうして気づいたのだが、話しながら歩いていると意外に進むっていう大発見だ。


 黙々と歩いているより、気が紛れていいのかもしれない。


 が、しかし。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……雄介、まってよ~」


 夏子が先にバテた。


 自動販売機の脇でうずくまっている。


 物乞いしそうな瞳を、自動販売機へ向けている。


「ちょっと、休憩しない? ポカリ、飲まない?」


「知ってるか夏子。ポカリって水で薄めないと、単なる砂糖水なもんらしいぞ」


「じゃあ、アクエリアス!」


「同じだろうが」


「だってー、つかれたぁ!」


「おいおい、お前はそれでも幽霊かよ」


「幽霊は関係ないでしょ!」


「ウォーキングデッドかよ」


「うっせー!」


「お、なんだその反抗的な態度は。もう怒った。俺、先に行くからな~」


「ちょ、ごめんごめん! 待ってよ雄介さん! 置いてかないでよぉー!」


 と、めそめそ嘆く夏子がうっさいのなんのその。


 仕方なく、夏子の歩調に合わせてやることにしたのだが。


「もう逃げさないからね」


 手を繋がれた。


 指まで絡ませてくるあたり、その必死さが垣間見える。


 でも幽霊である夏子の手は、冷たくて火照った体にはちょうど良かった。


 ちょうど良かったのだ。


「ちょっと雄介。あんまりひっつかないでよ」


「え? そんなつもりはないぞ」


「いやいや、歩きにくいから! あっちいけっ!」


「そんなこと言って、じゃあ、手、離せよ」


「それとこれとは話が別って、抱きついてくんなぁ!」


「しょうがないだろ。だって幽霊ボディ、冷たくて気持ちいんだもん」


「うっざ! 死ね!」


「俺が死んだらビール飲めなくなるのだが?」


「ウザウザウザ」


 と、そんな感じで。


 結局、俺たちのダイエットは三日坊主で終了した。


 ただウォーキングデッドならぬ散歩は、たまに行っている。


 結果オーライってことで、いいよな?


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