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コンビニからの帰り道。
憂鬱な俺。
夏子は、既にゴクゴクと一人喉を鳴らしてやがる。
呑気なやつめ……。
「ん? 雄介、飲まないの?」
「ああ、今日はそんな感じでもねえ……」
「なんか、今日の雄介ちょっと変だよ?」
(誰のせいだと思ってんだよっ!)
「雄介、もしかして本当に疲れてる?」
「ああ、疲れんのかもな」
「かわいそー。よしよし」
呑気に頭を撫でてくる夏子。
「雄介さー」
「今度はなんだよ」
「悩み事あるなら、言っていいんだよ」
「なんだよ急に」
「いやさ、私ほら、雄介の家でお世話になってるでしょ?」
「なってるな、だいぶな」
「だからね、私にできることって、雄介の話し相手になることくらいだって、そう思うんだよね」
「? 話し、相手?」
「そうそう」
夏子はビールを呷った。
一呼吸置いて、俺の顔を見ながらにっこり笑う。
「ほら、雄介って1人で抱え込みそうなタイプじゃない? で、勝手に苦しんでる」
「…………」
「ね、図星でしょ?」
俺は言葉失っていた。
図星だったからだ。
「だからね、私にはなんでも相談しなよ! ほら、人に話すと楽になるとさ言うし?」
「えーと、なんか俺、慰められる感じ?」
「そんな感じー」
「幽霊に慰められる日が来るとは思わなんだ」
「でも、嫌いじゃないでしょ?」
「……」
「ぷ。素直になれよ~」
肘で俺の脇をグリグリ突いてくる夏子。
今日は、この調子でずっとやられっぱなしだ。
でも、少しだけ心が軽くなった自分ってのも確かにいた。
でも、そうだよな。
ちゃんと、説明すれば良かったのだ。
それをなんだってこんな周りくどいことを……やれやれ、俺もどうかしてたぜ……
「あのさぁ、夏子。折りいって、頼みたいことがあるんだが」
「ふふん、やっと話す気になったのね~。で、なにー」
「ビールをこれから1日2本にして、節約しようと~」
「無理」
「……」
「えっとー」
「却下。拒否」
「……ふんっ!」
「あー! 私のビールぅ! 返してぇ!」
夏子を信じた俺がバカだったよ!
○
「というわけで、ビールは明日から1日2本までだ」
「……ケチ」
「嫌なら働け」
「嫌味か!」
「嫌味ですがなにか?」
自宅に帰っても夏子は相変わらずだった。
相変わらず、不貞腐れている。
ただ俺の預金通帳を見せてやると、「う、うわ……」と純粋に驚いていたから理解はしてくれたみたいだ。
府に落ちてはないみたいだがな?
ソファに座りビールをちびちび伸びながらジト目である。
そのとき、ちょうどビールのCMが流れた。
女優さんが「ぷはぁーっ!」とか旨そうにビールを飲んでやがる。
やめてくれ。今はやめてくれ。
「雄介」
「ダメ」
「まだなにも言ってない!?」
「これから言うんだろ?」
「ひどい……聞いてくれてもいいじゃない」
「じゃあ、聞くだけ聞いてやる。なんだ」
「雄介のビール。ちょっとだけ頂戴──」
「いや自分の飲めよ」
「もうなくなった……」
「ご愁傷様」
「雄介ぇー!」
「うわっ、なんだお前! 無理やり奪おうとすんな!」
「違う! シェアだよ! シェア!」
「物は言いようだなぁ!?」
はぁ、やれやれ。
困ったやつだ。
「わぁーたよ。ほら、飲め」
「いいの!?」
「俺の気が変わらない内にさっさと飲め」
「ありがと! 祐介好き! 今晩はいっぱいサービスするからね!」
「そんなサービスいらねーよ!?」
「いっただきー」
と、夏子は俺の手からビールを強引にもぎ取ると、ぐびぐびと喉へ流し込んでいく。
なんだか、本当に幸せそうだった。
その姿を見ているこっちまで幸せな~って、げふんげふん。
「ぷはっー、美味い!」
「さいですか」
「はい。返す」
「いい。全部やるよ」
「え? いいよ」
「なんでそこで遠慮するんだよ」
「いやだって、雄介のだし。私、さすがにそこまでがめつくはないよ?」
「う、ウソくせ~」
「なによ! そんなこと言うなら、全部飲んじゃうをだからね!」
と、夏子はマジで全部飲み始めた。
だから、初めからそうしとけって言っただけなのにさ──
って、あ。
「なるほど、その手があったか!」
「え、なに?」
「いやな、だからシェアだよ。1人何本とかじゃなくて、小グラスに注ぎながら飲むってのはどうだ?」
「び、貧乏くさ……」
「実際貧乏なんだから仕方ないだろうが」
次の日。
昨晩の考え通り、2人分の小グラスを用意。
コップに注ぎ足しながら飲んでいく。
するとどうだろうか、俺はすぐにも満足になった。
計算上は、1本ちょっと。
夏子は俺の余った分と2本で、実質3本分という計算だ。
「ほらな、俺の思った通りだ。グラスに注ぎながら飲むことによって、なる早で満足感を得られる。それでいて夏子、お前の飲み本数も以前と変わらなくなった。経済的にも優しくなったぞ」
「いやでも、雄介はそれでいいの? 私ばっかり」
「いいんだよ俺は。お前と飲めたら、それだけで充分だから」
「……えっと、どういう意味?」
「いやだから……え? なんか変なこと言ったか?」
「私には『お前と一緒に飲めたらそれだけで幸せだ』的な感じに聞こえましたケド?」
「あー、そうだったか。先に謝っておく、すまん」
「なにがよ?」
「盛大に勘違いさせてすまんってことだ」
「私のきゅんきゅん返せー!」
「はははは、ざまぁ」
「こんの、くそ! 死ね!」
なんて、またバカみたいな騒ぎが始まった。
そのときだった。
ピンポーンッ! ガンガンガンガンッ! ──
「「あっ」」
また下の階のギャルに怒られた。




