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〇本編







私は、“普通"じゃない。


だから、いつも他の子達と距離を感じて生きて来た。


今も昔と変わらない。


私は、ずっと独りなんだよ……―――――――――――――――




●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


♪キーンコーン


4時限目の終わるチャイムと共に、教室の中がざわめき始める。


久遠(クオン)さん、一緒にお弁当食べない?」


一人の私に気遣ってか、隣の七瀬(ナナセ)さんが声をかけてくれた。


「あ、うん。ありが―――


(リン)、やめてよ。暗いのがうつる」


私の言葉は遮られた。


七瀬さんと一緒にいた女の子が嫌そうな顔をして笑う。


何よ…。


確かに私はメガネだし、黒くて長い髪は、下の方で一つに縛ってるだけだし、顔だって可愛くないけど……


でも…


「え…。あ、ごめんね久遠さん…」


申し訳なさそうに七瀬さんが誤った。


やめてよ。逆に傷付くでしょ……。


「…いいよ。慣れてるから……」


私は、自分にしか聞こえないくらい小さな声で返事を返した。


泣いてしまいそうで、震える自分の声。


お弁当は、誰もいない屋上で食べることにした。


泣き顔なんて誰にも見られたくない。


屋上には幽霊が出るらしく、誰も近づこうとしないのだ。


私は、屋上で泣いた。


お弁当を食べるのも忘れて。


いっぱい、いっぱい泣いた。


さっきの事を忘れるために。


その時、誰かの気配を感じた。


「ねぇ、どうして泣いてるの?」


男の声。


「…え…?」


顔を上げると、そこには見たことのない男の子が立っていた。


年は、私と同じくらい。


私は、屋上に出る幽霊の話を思い出した。


……これって……、もしかして……


「あなた……幽霊なの……?」


「……そうゆう訳じゃないけど……、まぁ…そんなもんかな…」


曖昧な返事。


「じゃあ、なんなのよ?」


「俺は、人間じゃない。でも幽霊でもない。………優人(ユウト)。あんたの名前は?」


「私…は、久遠初音(クオンハツネ)


なんか、微妙に納得いかない…。


「初音ね。俺の事も呼び捨てでいいから」


「あ、うん…。あ…あのさ、人間じゃないって言ってたけど…それって」


(アヤカシ)って、聞いたことあるだろ?」


質問を最後まで言う前に優人が答えた。


「え…、うん………?」


「俺は、それなんだ」


…妖………。


「じゃあ、何年もその姿のまま生きてるんだ」


「………まぁ…ね」


優人は、こんな世界で、何年も生きてるんだ。


「…私なら耐えられないな。こんな世界にずっといるなんて」


暗くて…冷たくて………


私には、闇しか見えない。


「…そんなことないよ」


優人が言った。


「この世界にもいいトコ、あると思うけど」


優人の顔は、真っ直ぐ私を見ていた。


何かを訴えかけるように。


「な…なんなのよ、もうっ!調子狂うでしょ!」


「え…、何がだよ?」


優人は何も気付いてない。


「無自覚なのが余計ムカつくのよ!」


「はぁ!?…よく、分からないけど、時間はいいの?」


時間…?


私は、腕時計を見た。


1時5分。もう授業は始まっている。


「サボる。ってか、最初からそのつもり」


そう言って、あらかじめ持って来たスクールバックを優人に見せた。


「そっか。じゃあ付き合う。これから家に帰るんだろ?」


「…え!?何でよ!?」


私は、びっくりして聞き返した。


「何でって、……女の子1人じゃ危ないと思うし……」


「何ソレ…。夜道じゃあるまいし…。ってか、あんた他の人には見えないでしょ…!?意味ないじゃん…」


「意味あるよ。妖力を使えば何だって出来る」


ハイハイ。妖力ね…。つまり、何でも有りなんだ…。


……でも、なんか利用出来そう…。


「じゃあ、お願いしようかな…」


「うん」


すると、優人は笑顔でそう答えた。


…結構可愛いトコもあるんだ……。


「顔赤いよ?もしかして俺に惚れた?」


…は!?


ヤらしい笑顔を浮かべて優人が言った。


「ンな訳ないでしょっ!!」


バチン


私は、思いっきりあいつの頭を殴ってやった。


「ってぇ!冗談に決まってるだろ!少しは手加減しろょ。ほら、行くぞ」


「あ。うん」


私達は、学校をこっそりと抜け出すことに成功。


ふと、私は校門の前で立ち止まった。


「あ…あのさ…」


「…なに?」


「あ…えっと、さっきのごめん…ね…?」


「さっきのって?」


優人が聞き返す。


「え!?ほ…ほら!頭、殴ったとき!もぅ!聞き返さないでよぉ…」


顔が熱い…。


きっと、赤くなってるよ…。


私は、素直じゃない自分を呪った。


「許す。俺、初音のそうゆうトコ、好きだよ」


優人は、愛しいものを見ているような、もの凄く優しい顔をして笑っていた。


――――――――ドキン


な…何…!?何なのよ!?


「は…早く行こ!」


私は下を向いて、先頭を早足で歩いた。


「初音早いな。もう少しスピード落としてくれよ。俺、妖力使って疲れてるんだ」


――――――――ドキン


無理だよ……。


赤くなった顔をまたあなたが見たら、気付いたばかりのこの想いに気付かれてしまいそうで…


――――――――――怖いの


「ちょっと君たち」


や…やばっ…!


警察の人に見つかってしまった…。


「こんな時間に何をしてるんだ?」


どぉしよ…。


「え…えっと…」


私は、何も言えずにうつむくばかり。


すると、優人が私を庇うように前に出た。


「この子具合が悪いんですよ。1人で帰るのは、無理そうだから俺が付き添ってるんです」


最もらしい嘘。


しかも、笑顔で。


いろんな意味で怖いょ………?


「そ…そっか。すまんな。もう、帰っていいぞ。お大事に」


警察の人はそう言って、あわてて戻って行った。


「優人すごいね。嘘付くの上手い」


「………………。そんなこと……」


え…?


優人は、なんだか寂しげに見えた。


なんで?


「…どうしたの…?」


「…何でもない…よ」


優人は笑ってたけど、見ただけで作り笑いだって分かる。


ホントに優人、どうしたの…?


「あらぁ!優人君じゃない!学校には慣れた?」


え…?


私には知らないおばさん。


でも、このおばさんは、優人のことを知ってるみたい。


「あ…、えっと…、初音…これは………」


優人は、しどろもどろして、とっさに言い訳を考えている。


なんだ。


そうゆうことか。


「騙してたんだね。私が変な力持ってるのをずっとバカにしてたんだ」


なんだ。


あんな奴にときめいた私ってバカみたいじゃん。


泣きたくもないのに涙が出てくる。


止まらない。


私は、その場から逃げ出した。


「っ!初音!」


「…おばちゃん、なんか悪い事言ったかしら?ごめんね…」


「大丈夫だよ。俺、ちょっと追いかけて来るから!」




○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○




涙が止まらない。


優人……


何であんな嘘付いたの……?


公園のブランコを揺らしながら、私はそんなことを考えていた。


「優人のバカァァァァァァァ!!」


思いっきり叫ぶ。


声と一緒に悲しい思いも出てけばいいのに……。


その時、誰かの手が私の手を掴んだ。


「バカで…ごめん……!」


え…?


私は後ろを振り向いた。


「優人………?」


「うん。嘘付いたのは悪かったけど、言い訳くらい言わせろよ……」


優人…、息が荒いよ?


走って、追いかけて来てくれたんだ。


「い…よ。何で嘘なんか付いたの?」



私は知らなかったんだ。


あなたの負っている傷の深さに。


悲しみの深さに気付かなかったの。



「俺、白血病なんだ…」


………。


は……?


「な…何…、言ってるの……?」


白血病なんて、冗談になってないよ…。


「本当なんだ!だから、死ぬ前に初音に会いたくて………」


真剣な顔で話してる優人を見ると、なんだか怖くなって来る。


本当の話なんだって思えば思うほど、悲しくなって来るの…。


「なんで?私のことを優人は前から知ってたの…?」


「うん。知ってたよ。4年前からずっとね」


「え…、そんなに前から……!?」


4年前っていうと、中2の頃だよ…。


「俺、初音と同じ中学だったんだ。知らなかっただろ?」


…そうだったんだ。


「…うん。知らなかった………」


なんか、意外な接点があって嬉しいかも……。


「病気で休んでたから…。知らなくて当然だよな」


優人はそう呟いてからまた続けた。


「初音って、中学の時もいつも1人だっただろ?」


…まぁ…、その通りだけど………。


…なんか、グサッとくるな……。


「うん。ってか、もうちょっと言い方選んでよね?私だって傷付くんだから!」


「ごめんごめん…!」


別に分かれば良いけど…。


優人は続けた。


「俺も休んでばっかだったから、学校で孤立してたんだ。だから、親近感がわいたっていうか…」


「優人って、スラッとヒドいこと言うよね………」


ちゃんと、可愛いって思ってて欲しかったのに……!


孤立してるって、優人の中の私のイメージって、どんだけ陰気なのよっ!


「悪い……!でも、最後まで聞いて?」


うっ…。


優人は上目使いで私を見て来る。


ま…負けた……。


私よりも可愛い……!


「分かったわよ…」


「ありがとう」


笑顔、可愛い…。


優人は、また話を続けた。


「俺さ、学校来てる時は、ほとんど初音を見てたんだ」


「へっ!?マジ…?」


「うん。最初は親近感からだったけど、段々と好きになってって…」


マジか……!


ヤバい…。


かなり嬉しい。


「その、すぐに赤くなるとことか、たまに素直になるとことか、全部可愛くて大好き!」




……―――――――――――――可愛い―――――――――――




「って、初音どうした…!?俺の告白イヤだったのか!?




え…?




あれ?


何でだろ…?


涙が止まらない。


「ううん、違うの」


そうじゃないの。


「う…嬉しくて……。か…可愛いって、優人に言ってもらえて。私も優人のこと大好きだから…」


「え…。初音も…俺のことを…?こ…これって夢じゃないよな…!?」


優人は、凄く嬉しそうな声でそう言った。


うん。


嘘じゃないよ。


心の中の言葉の代わりに私はコクンと笑顔で頷いた。


「マジかよ!?俺、頑張って治療受けるからっ!絶対、それまで待ってろょ!絶対に死なねぇから!」


ホントに?


「し…死んだら許さないからねっ!一生恨むよ!?」


イヤだ……。


行かないで。


優人が白血病だっていう現実を改めて思ったら、怖くて涙が出て来た。


――――ふわっ


「え…?」


優人の大きな手が、優しく私の頭を撫でる。


「大丈夫」


それだけ言って、優人は優しい顔をして笑った。


「本当に?」


「うん。絶対だ」


「私、会いに行くからっ!」


「うん。ありがとう」

そして私たちは、優しいキスをした。


もしかしたら、これが最初で最後になるかもしれない。


そんな思いをぶつけるかのように、そのキスは段々と深く激しくなって行く。


私たちは、何度も何度も繰り返した。






――――――――――――――――――――――あの日のことは、10年たった今でもはっきりと覚えてる。





「お〜ぃ!初音!優音(ユネ)が抱っこして欲しいってさぁ!」


少し離れた所から声が聞こえてきた。


「優人が抱っこしてあげれば…?」


「優音はママがいいんだってさぁ!パパ妬けちゃうっ!」


わざと大げさに優人が言った。


「よしよし。パパも大好きだよ!でも、抱っこはママがいい〜っ」


子供に慰められてるし……。


「…ぷっ…あはははは!いいよ!じゃあ、家まで抱っこしてってあげる!」


私は思わず吹いてしまった。


「やった〜ぁ!」


優音はジャンプして喜んでる。


やっぱ子供って可愛いなぁ。


「良かったな!」


と優人。


「うん!」


優音が元気良く返事をする。


「よぉし!じゃあ、帰ろうか!?」


「おぉ!」


優人と優音が元気よくそう答えた。



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