鋼鉄の木
この国はとても大きな木を中心に広がっていました。
なんの変哲も無い国。
平穏な何処にでもありそうなほのぼのとした国。
ただ一つ変わったところと言えば、中心に生えた大木が、並木の木が鋼鉄で出来ている事。
面白い事に全ての木が根で繋がり、根は地を張り巡らせて海まで繋がっていました。
木には葛が巻き付いていて、あたかもちゃんと大木に葉が茂っているかの様でした。
この国の王は、この大樹の根元に代々住み続け、この国のシンボルとも言える木を守り続けてきました。
歴代の王様達と同じく、一つの魔法を使う国の守り神として崇められながら…
「王様、気候の変化により今年は余りにも暑過ぎます!
このままでは熱中症で国中の者達が倒れてしまいます。」
国民の代表が国王に言いました。
「そうか、」
国王は王座から見下ろしながら言いました。
「どうか、国民は皆苦しんでいます。
このまま気温が上がり続けてしまうと作物すら…」
「わかっておる。大切な国民の願いだ。しかし少し待て、大臣。」
国王はそう言って大臣からある一枚の紙に目を通してしばらく沈黙した。
「聞き届けよう。」
国王はそう言うと、杖を手に取り大声で言いました。
「民の願いを聞き届けよ!
鋼鉄の木よ!そなたの力で熱を取り払え!」
そう言って地面をカツン!と打ち付けると、ゴゴゴ…と地面が震え始めました。
「国民の願いは聞き届けられた。」
そう言うと国王はまたどっかりと王座に座り、目を閉じました。
すると今まで暑かったはずの気温が下がり始めたのです。
「ありがとうございます!
これで国中の民が救われます!」
その魔法は国中の温度を変えるものでした。
暑ければ涼しさを、また凍り付くほどの雪に見舞われた時は暖かさを。
国民の危機に応じて皆の願いを叶えました。
国民は皆国王を誇りに思い敬いました。
しかし中にはその王様を疎ましく思う者もいました。
その近隣に住む国王達です。
自分達はそんな魔法を使う事が出来ず、住みよい鋼鉄の国に国民が離れて行ってしまうからです。
「元々住みにくい不毛な大地にポツリと出来た国のくせに生意気な。」
「しかし、貿易において彼の国は税をかける事なく、こちらの利益になっているのも確かですぞ。」
「ならば奪ってしまえば…」
「しかし…」
周りの国は疎ましく思いながらも、なかなか答えを出せずにいました。
しかしある年、ついに事は起こりました。
周辺の国が戦争を起こしたのです。
きっかけは気温を変えることのできない周辺の国の食料飢饉でした。
大地はひび割れ作物が取れなくなったのです。
鋼鉄の国は援助する為に食料を提供してくれるが、各国の飢饉に対応できるほどの備蓄はありませんでした。
「これ以上は限界だ!
あの国には悪いが豊穣の地を奪わせてもらう!」
周辺の国は結託して鋼鉄の国に戦争を宣言しました。
鋼鉄の国の国王は怒りと悲しみを抱えながら大きな声で言いました。
「我ら無くしてこの国は栄える事は無い!
一時国を明け渡す!その事を思い知るがよい!」
そう言って鋼鉄の王は国民と共に大きな船に乗り、海へとその姿を消してしまいました。
近隣の国の王達は手を叩いて喜び空っぽになった鋼鉄の国に各々の国民を連れて住み始めました。
「なんと涼しい!
我が国では暑過ぎて飢饉になったと言うのに、この国は一体どうなっているのだ?」
「そんな事はどうでもよいでは無いか。
住みよい国を手に入れたのだ。
我々はこれで安心して暮らせる。」
そう言って各々の国王たちは笑い合いました。
しかしそんな日々も長くは続かなかったのです。
初めの異変は冬に差し掛かった時でした。
「国王方!国民は皆寒さに震えています!
いくら火を焚いても暖かくなら無いのです。」
「わかっておる!とにかくなんでもいいから燃やせ!皆凍りついてしまうぞ!」
そう言うと国にあるありとあらゆる物を燃やし始めました。
鋼鉄の木に巻き付いた葛の葉っぱも根っこまで引き抜かれ全て焼き払い、枯れ木の様になってしまいました。
冬を越えればまた住み良くなる。
そう王達は考えてなんとか耐え忍びました。
長い冬が終わり、春がやってきました。
枯れ木の様になった鋼鉄の木は新しい葉をつける事もなく、そのままの姿で立っていました。
「やっと冬を越すことができたか…」
王達はホッと胸を撫で下ろしましたが、夏に近づくにつれてまた頭を抱えることになりました。
「王様!大木が暑過ぎて木に触れた子供達が火傷をしました!」
「海の水温が上がり魚達が寄り付きません!」
「畑が枯れ果てました!」
連日国民から悲鳴の様な苦情が寄せられて、国王達は困り果てました。
「どうなっているのだ!
鋼鉄の国の民がいる時は住みよかった気候がなぜこんなにも変わってしまうのだ!
こんな国住んでいられるか!」
そう言うと、各々の国王たちは国民を連れて、元の国へと帰ってしまいました。
からっぽになってしまった鋼鉄の国。
昔誰も住むことができないと言われた姿に戻ってしまい、動物すら寄り付かない空っぽの国。
鋼鉄の大木は悲しそうに立ちすくんでいました。
時はたち秋になり冬になると、海から沢山の船がやってきました。
「案の定だな。」
国王は沢山の資材を積み、海の向こうの国から国民をつれて帰ってきたのです。
鋼鉄の王はいつかこうなることを恐れ、海の向こうの国と仲良くしていたのです。
「我ら以外にこの国を統治出来るものはおらんと言うのに…」
すっかり冷え込み、誰も住むことの出来ないほど、国は凍りついてしまっていました。
「王様!また魔法を見せてください!」
「我らの国に祝福を!」
広間に集められた国民たちが寒さに震えながらも、王様に期待と信頼を込めて口々にいいました。
「静まれ!我が国民達よ!
この凍りついた国に我が再び命を吹き込んでみせよう!」
王様はからっぽになった王座の前に立ち、大声で国民に答えた。
「さて、壊れていなければいいが…」
杖で足元のスイッチをカツン!と杖で押した。
すると、ゴゴゴゴゴ…
大きな地響きが国中に響き渡りました。
国民たちはワクワクしながら壁や床に付いた霜を見ました。
すると、ピシピシと凍りついた壁が、床が氷を溶かし始め、広間が暖かい空気に包まれていきました。
国民はわっと喜びの声を上げ、王様をたたえました。
町の木々もチリでも払いおとすかの様に雪を溶かして下ろし、道路に小さな川が出来ました。
「王様!王様!」
国民はわっと両手を広げ、手を合わせ称えました。
王様もそれに答えるように両腕を広げて大声で言った。
「この国は、この鋼鉄の木の祝福により何者にも奪われぬ!
ここに宣言しよう!この国の永遠の繁栄を!」
「おおぉぉ!」
こうして鋼鉄の木の国は誰一人失う事なく元の平穏を取り戻した。
その夜、王の部屋に大臣は訪れて内密な話をしていました。
「王の魔法は健在ですな。」
「それは言うな、だいたい私は魔法などといって国民を騙している事に深く悩んでいる事を知っているだろう?」
「仕方ないことでしょう。
この国は国民を騙す事により情報を他へ漏れないよう代々他国から守っているのですから。」
「しかしな…」
国王は手を額に当てて天井を見上げました。
「いや、確かにその通りなのだ。
他国の者がここを奪う事が出来ない理由がそれなのだから。
人が戦争などとくだらぬ事を考える以上、私は生涯道化でいなければならないのか…」
王様は。はははと力なく笑った。
大臣は悲しみをかみ殺すように奥歯を噛み締め、王様の前に跪いた。
「国王、誰も住むことの出来ない不毛な地に追いやられ、それでも我らを導き富を与えてくださったのは国王、貴方様一族に他ならない。
地に熱伝導率の高い金属を張り巡らせ、地表の熱を冷えた地下や海に逃し、また冬の寒さには歯車一つで火山から地熱を引いてくる。
気温を変化させるのではなく輻射熱を利用して国を変えるなど、王!御身にしか考え付かない。
我らには貴方様が与えてくださる富が必要なのです。」
「他の国の者はどうなのだ?」
国王は吐き捨てる様に言った。
「我が国を襲った国の中に友好国もあった!
彼らを悪としていいのか!
いや、私はそうは思わない。
彼らは自分の国の民を思い、苦しみ、悩み、悪の振る舞いをしたのだ。どう考えても聖戦にならないこと、汚名を被ることを理解した上で国民を引き連れ、身を裂きながらやって来たのだ。
それがわからないのか?」
「分かりません!奪いにくる以上奴らは悪です!
我らが選択を間違えれば我が国の民が、女子供が殺されていたのかもしれないのです!」
「民が、女子供が我らの国にしか居ないと思っているのか!」
「それは…」
大臣は、言葉を失ってしまいました。
国王は自分の考えているより遥かに遠くを、細部まで見通していたからです。
「今はまだこの国の秘密を言う訳にはいかん。
しれたら最後、この国の鋼鉄の木は根こそぎ奪われ、元の不毛な地へと成り果てるだろう…
そして使い方を間違えた国々が海を沸騰させ、地熱で草木を枯らすだろう。」
国王は膨大な資料に手を置き長いため息をつきました。
国民が気温を変化させてくれと言われたからといって全てに応じていたわけではなかったのです。
熱を海に逃がそうとしても流れが悪い時にしてしまうと魚を殺してしまいます。
地熱を使いすぎるとマグマが固まって、流れを変えてしまう恐れもありました。
出来る限り自然に負担をかけず、少し恩恵を得るのは非常に難しいことなのです。
「では、王はどうするおつもりですか?」
「さあな、しかしこのままではいずれまた戦争が起こりかねん。」
机の上に置かれた膨大な資料の束に手を置き深くため息をつきました。
「儂が死ぬまでにこの資料を見なくても良くなれば良いのだが…
息子にこの負担を残しては死んでも死にきれん。
こんな最悪なプレゼントは無いからな。」
「馬鹿なことを仰らないで下さい。
王がその調子であれば私の心も氷室の様に凍りついてしまいます」
大臣も深くため息をつきました。
「氷室…」
王は急に顎に手を当て考え始めました。
「王?」
大臣が王の顔を伺うと、何かを閃いたのか、口元を大きく開き笑顔になった。
「貯水用地下神殿に水を張れ!凍りつく今の季節にしか出来ん!急げ!」
「王、いったい何を!」
「熱を得るより遥かに冷やす方が難しくエネルギーが要る。
夏に冷却するからいかんかったのだ。
地下神殿を巨大な氷室として利用し、熱伝導で夏に利用する。
熱は流石に冬まで持ち越せんが、自然への負担は格段に減らすことができるやもしれん!」
王は目を少年の様に輝かせて言いました。
息子に、民に、皆に素晴らしい未来を渡すことが出来るかもしれない。
王は次の日、科学者を集めて会議を始めました。
神にプレゼントしてもらった考える力で、みんなに幸せがプレゼント出来るように。
また一つ時代が動き始めました。
熱伝導率が良い金属は熱を伝えやすい。
電車の線路の様に連結先を変え、冷たい海や地熱のある場所に繋げば熱かもってこれないかなって思って童話っぽく書きました。
オリンピックのマラソンが暑くて東京で出来ないなら涼しくすればやっても良いんですよね?
気温をどうにも出来ないなら輻射を利用して体感温度を下げてもダメかなぁ。
頑張って日本!東京でマラソン出来たら良いですね。
もしこれで東京でオリンピックできたらそれが僕からのプレゼントってことで!