駆け抜けろ!甘党!
朝。
宿屋。
窓から差し込む太陽で陽色は目を覚ました。
辺りを見回すと先にカイルが起きているようだった。
窓を開ける。
小鳥のさえずりが聞こえる。
空は雲ひとつない青空。快晴だ。
「はぁ、雲ひとつねぇ青空!冒険日和ってね!」
そう言って腕を伸ばし伸びをすると後ろで扉を開く音が聞こえる。
「あ、ヒイロさん起きていたんですね」
風呂上がりだろうか。
タオルで頭をくしゃくしゃしながら上裸のカイルが出てくる。
「お前、ユキちゃん起きたらどうすんだ」
「すぐきがえるからだいじょ.....」
「キャャー!かいるさん!服を着て!」
雪の寝起きの一撃。
かなりの重たさなのかカイルが壁へ吹き飛んだ。
数時間後。
王城門の前。
ホルナの村の研究所へ向かうための仲間がやってくるということで4人は待っていた。
「確かに言ってたんだよな?」
「えぇ、ここに残りのメンバーがやってくると言ってましたが......あ、あれではないですか?」
カイルの指差した方を見るとこちらに走ってくる2人の人影が。
「遅れてすまない、こいつが手こずっていてな」
「ちょっ、ルミエラ!?私のせいにするの!?」
「カイルに会うからとか言って髪の毛を.....」
「や、やめてよっ!」
やってきたのはショートカットの青髪で褐色肌の10代後半ぐらいの子と紫とかピンクっぽい色をしたツインテールの10代前半ぐらいの女の子だ。
ツインテールの子の顔は真っ赤だ。
「カイル、久しぶりだな」
「おぉ!ルミエラか!そっちはヘレナ!本当に久しぶりだな!」
「おい、だれなんでぇ、そのべっぴんさんはよぉ」
鼻の下を伸ばした永助は雪ちゃんに殴られる。
それに驚いた様子だったが、雪ちゃんの気にしないでくださいの一言で察したようだった。
「私はルミエラ、騎士団のものだ」
「あたしはヘレナよ!よろしく!」
「俺はえd」
「こいつは陽色、俺は永助、これは妹の雪」
「雪です!」
いつもの長い自己紹介を止め、簡単にする。
ルミエラは背中に弓と矢を背負っており、ヘレナは杖を背負っているようだった。
「なぁ2人とも、このエイスケのダンゴ屋というお店の場所を知らないか」
本当に甘党だな。
甘いものに目がなさすぎる。
カイルの口からはすでによだれが垂れていた。
「知ってる、勇者から聞いといたわよ」
ヘレナは腕を組み偉そうにふんぞり変えり、カイルはまるで神に会ったかのように地面に顔を擦り付ける。
年下の相手に街中で土下座して恥ずかしくないのか。
視線が痛い。
される方もされる方だぞ。
「あんたが聞き出したんじゃなくて教えてくれたんでしょ、カイルが甘いもの好きだって知ってたから」
「ちょっと、いい気分なんだからいいじゃない!」
目の前で繰り広げられるコントをどう見ていればいいのだろう。カイル、そろそろ面を上げろ。
というか、勇者とカイルは知り合いだったんだな。
「かいるよぉ、そろそろ行くぞ」
「ああだんご屋へ急ぐぞ!!!!」
「あれ、ホルムはどしたんでぇ!」
「通り道だから安心して、運が良かったわね」
先に走り出すカイル。
あとの5人は後ろをついて追いかける。
「うぉぉぉぉ!待ってろ!ダンゴぉぉぉ!」
「ちょっとカイル!」
「あいつめちゃくちゃ足が速えぇじゃねぇかよ」
「お雪!追いついてるか!?」
「ええまだ大丈夫」
カイルは相当足が速い。
ルミエラが並走している。
道を教えているようだ。
なぜ止めるのではなく走るのだろう。
追いついてるかと聞いた永助が一番遅い。
まず自分を心配しやがれ。
「おいあれはなんでぇ!」
「ゴブリンだ!」
走る先頭の前。
現れたのはゴブリン。
緑色の肌。木の棍棒。
服の代わりに巻いた布。
牙の首飾り。
まさにゴブリンといった見た目をしている。
いや知らないが。
おそらくそうなのだろう。
そう感じたということはだ。
「どけ!邪魔だ!」
カイルが剣を抜いた瞬間、ゴブリンは消えた。
いや、抜いたことすら見えなかった。
誰も気づかないままゴブリンが消えていたのだ。
走り、通り過ぎる瞬間、木に打ち付けられたゴブリンのうめき声が聞こえる。
ゴブリンとは弱いのか。
いや強いって聞いたぞ。
知らんけど。
「オークだ!」
カイルの声で気づく。
目の前に現れたのは太ったゴブリンみたいなやつ。
やはり同じように切り捨てられる。
ただゴブリンのように木に打ちつけられるわけではなく、その場に倒れ足場として利用されているようだ。
オークの上を登り、さらに先へ向かう。
「だ・ん・ごぉぉぉぉぉ!」
「あいつダンゴっての食べたことないんでしょ!?」
「ああ、俺は作ってねぇ、話ししただけだ!」
「甘いもののために必死すぎない!?」
全力疾走は止まらない。
雪や永助が休もうと止まろうとしたそのとき。
「なんか後ろから足音しねぇか?それもめちゃくちゃとびきり早い足音がよぉ!?」
後ろを振り返ると。
追いかけてきていたのは前足が短い、二本足で走る魔物だった。
顔で倒れていたオークをなぎ払いまだ走り続ける。
一瞬ドラゴンかと思ったがそうではないようだ。
「キョー・リューよ!森の主!」
「なんだと!てやんでぇ!べらぼうめぇ!」
「このまま突っ走ってけ!俺がやる!」
陽色は立ち止まり振り返る。
他の全員は食われるわけにいかないためそのまま走り続ける。
「あんた!死ぬわよ!森の主なのよ!?」
「俺に任せとけ!」
陽色は腰の刀を抜き構える。
「やいやい!俺は紅蓮のひi.....」
言いかけた瞬間、喰われそうになり跳躍。
そのまま森の主の背中に乗っかる。
「あら」
「おい!倒すんじゃねぇのかよお!」
主は止まらない。
未だに走り続けている。
森の主であるキョー・リューに乗っかる陽色は何やら楽しそうな様子だ。
「こいつはいい!このまま走り抜けるぞ!」
「やめろ!下にいる俺が死ぬ!」
「そうよ!あんたやめなさいよ!」
ヘレナと永助が止めようとするがお構いなし。
笑いながら楽しんでいるようだ。
「お雪ちゃん!こっちおいで!」
陽色は雪の名前を呼び手をさしのばす。
しかしどう飛び乗れというのか。
雪には陽色ほどの身体能力はない。
「どうやっていくの!?」
「じゃあ待ってろ!」
そういうと陽色は再び跳躍。
走る雪と永助とヘレナの元へ行き、雪だけを担ぎ、また跳躍する。
「いくぞぉぉぉぉ!!!!」
「「いや降りたんなら切れよ!!!!」」
永助とヘレナの声が森へ響く。
森の主に乗った雪は初めて恐怖の顔をしていたが、だんだん馴染んできたのか笑い始めた。
「どうだ!楽しいか!」
「うん!いせかいっていいね!」
「いいわけねぇだろ!殺す気なのかよ!」
「ほんとあんたらなんなのよ!?」
ヘレナと永助の叫びは虚しく響くだけ。
森の主の咆哮が響き陽色と雪の笑い声が響いた。
一方先頭の2人は。
「「甘いものぉぉぉぉぉ!」」
ルミエラも甘党だったらしい。
麻薬のように糖分中毒になってしまった人間ほど怖いものはないのだ。
なんせ、殺されそうな2人に気づくそぶりもないのだから。