勇者の休息
「ほんと助かりました!ありがとうございます!」
「いやいやとんでもねぇ、当たり前のことをしただけでさぁ」
ここは団子屋。
1時間ぐらい経っただろうか。
竜との決戦の後、5人の人間を連れて陽色は帰ってきた。
最初は状況を飲み込めず焦っていた永助と雪だが、5人が瀕死の状態にあるとわかると看護を手伝ってくれた。
今は3人は市の淵から生還しており、剣士と僧侶の2人と会話をしている最中だ。
陽色はカウンターでお茶をすすっており、その隣に剣士と僧侶のペアが並んでいる。
その正面に永助が立っている。
畳に座って飲む席の方で3人の人間が横になっており、雪が手当てをしている、と言った感じだ。
5人の容姿は明らかに日本人離れしていた。
西洋、南蛮の者というべきだろうか。
正確には紅毛人か。
「あんたら紅毛人かい?」
「こうも.....?いえ、エデルー出身ですけど」
「えでるう?聞いたことねぇとこだな」
江戸時代。
日本はキリスト教が国内で広まるのを阻止するために、鎖国を行なっていた。
それなのに聞いたことない国の名前が出てきた。
中国や韓国などのアジア圏やオランダとイギリス以外の国は基本的にありえない。
「キリスト教かい?」
「いえ、アラロア教です」
「はぁー、それなら良いのか」
永助は不思議そうに食器を洗っている。
アラロア教、現実に存在しない宗教。
だが永助は存在しないということすら知るよしもなく、そういうのもあるのか、といった感じだ。
「いやぁ、陽色さん本当に助かりました!あの状況ではもう助からないと思っていましたから......」
「気にすんな、命助けんのは侍として当たり前のことよ!」
「金払うのも当たり前だけどな」
永助は陽色の頭をお盆で小突いた。
お盆で殴られた陽色は痛そうに頭を掻く。
その隣で2人はくすくすと笑っていた。
「そういえばこんなとこにお店できてたんですね」
「え?ずっとあるじゃあねぇか、もうオヤジの代からやってラァ」
「そうなんですか!?全然知らなかった」
男は店内をぐるぐると見回す。
女も揃って見回す。
2人で見たことないものを見るように見回した後、会話をして気を落ち着かせているようだった。
「そうだ、お礼をしなくては!」
「いいよいいよ、お金なんてさぁ」
「何を渡すのか言う前に指定すんじゃないやい」
皿を洗いながら永助は小言を呟く。
陽色は聞こえないふりして2人との会話に戻る。
「今持ち金がなくって少ししかないんですけど」
「あ?これ金か?」
「えぇお金です」
陽色の前に出てきたのは金の硬貨だった。
穴の空いていない硬貨を見た陽色は一瞬たじろぐ。
「これがあんたのいう『えでるう』のお金かい?」
「えぇ、そうです」
金色に輝くお金。
一見小判に見えるが大きさが違う。
「銭貨でなけりゃ小判でもねぇ、一体なんだ?」
「金貨ですよゴルドです」
「ごるど.....?聞いたことねぇな」
「本当だ、おいらも聞いたことも見たこともねぇや」
女性の顔の描かれた金貨を不思議そうに眺める陽色。
それを不思議そうに眺める2人。
「不思議だねぇ」
「おいらいらねぇや、こんなもん」
「ああ、俺もねぇ」
「「えぇ!!!!!」」
2人はかなりの勢いで驚いた。
「どうした!?」
「いやこれ一枚で1000シルドですよ?それが5枚!計5000シルド!いったいどれだけの大金か!」
「ごるどじゃねぇのかい?」
「1000シルドで1ゴルドなんですよ!」
「いや言われても俺にはわかんねぇや」
「なんか数少ないし」
「「は、はぁ.....?」」
2人は江戸の人々に言われたことが理解できなかったのか、首をかしげる。
「逆にこれ知らないってどんなとこから来たんです?お金がないっていくらなんでも田舎すぎません?」
「金はあるさ、ほら、陽色見せてやんな」
「いや俺持ってねぇよ」
すまんすまん、と笑いながら永助は机から銭貨を取り出した。
それを見た2人はさっきと同じように驚く。
「「え、金じゃない......」」
「小判なんて大層なもんうちみたいなとこにはねぇやい!悪かったね!」
永助はそういうとお金を集め数え、陽色を睨む。
陽色は5枚の銭貨を出すと、永助はニコッと笑い、そのまましまった。
しばらく会話を楽しみながらお茶を飲みすごした。
時間が経てば3人は起き上がり、それぞれ名前を紹介してくれた。
『剣士』テオール。
この世界を守るため勇者の代わりに竜の討伐にうって出たは良いが瀕死になっていたところを助けられた。
『僧侶』アイラ。
剣士の幼馴染で一人で放っておけずついてきたらしい。
あとは『騎士』ノラリア。金髪の女騎士だ。
『魔法使い』ゼイヌ。男の老人。
『武闘家』アイゼ。男。
この五人で旅しているらしい。
老人は置いてけよ。
ある程度時間が経ったとき。
僧侶の女性は口を開いた。
「ねぇテミール!そろそろ城に戻る時間じゃない?」
「あぁそうだ!王様に報告しなくては!」
アイラという女性の声とともに皆が思い出したかのように動き出した。
「よかったら王城へ行きませんか?助けてもらった恩、王にお話ししたいんです!」
「王城か、徳川様でも座ってんのかい?」
「徳川様に会えるってなりゃあ大層なもんだ、一回合ってみねぇか?なぁ陽色よ?」
陽色はコクンと頷き2人に手を差し伸べる。
「改めて、陽色だ、よろしく頼む」
「えぇ!では参りましょう!」
「陽色さん!お兄ちゃん!私もいく!」
江戸出身賑やかな3人はわけもわからずついていく。
今までの人生とは比べ物にならないくらい、大きな冒険が待っているとも知らずに。
続きます(多分)