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童話国物語  作者: 馬論
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花咲爺さん

 僕は花咲爺さんの世界の宙に浮んでいた。


この童話は、殺された愛犬を埋めた場所に生えた樹の灰で、涸れ木に桜を咲かせる話だ。




昔、ある家に善良ぜんりょうそうなお爺さんが、ひとりで住んでいました。


お爺さんの家では、愛犬で白犬のポチを飼っていました。

今日も日課の散歩へ、ポチと一緒に出掛けて行きます。

手にはナゼかくわも持っていました。


ポチと一緒に町の中を歩き続けていると、ポチが急に立ち止まり、しきりにある家の敷地の地面の臭いを嗅いでいます。

ポチがお爺さんに向かって吠えました。

 

「ここほれ、ワン、ワン」

 「ここほれ、ワン、ワン」

お爺さんが周りを見渡すと、側には誰の姿も見えません。


お爺さんは持っていた鍬で、ポチが教えてくれた所を早速掘って見ました。

すると土の中から小判入りの小さな壺が出て来たのです。


「こんな所に家の財産を隠しておったのか。

しめしめ、これは儂が頂きじゃな」

 お爺さんはポチと一緒に壺を隠し持って、自分の家へと帰って行きました。


翌日もお爺さんとポチは、昨日とは別の通りを歩いて散歩をしています。

するとまたポチが、地面の臭いを嗅いで吠えました。


「ここほれ、ワン、ワン」

 「ここほれ、ワン、ワン」

お爺さんが辺りをキョロキョロと見回しましたが、誰の姿も有りませんでした。


お爺さんが鍬で掘って見ると、土の中から小銭入りの財布が出て来ました。


「なんじゃ、誰かが落とした財布か。

しけておるのう。

どうせならポチ、千両箱でも見つけんかい」

文句を言いながらも、お爺さんは財布を自分のふところへ収めてポチの尻を蹴りました。

ポチは紐で繋がれていたので、逃げる事も出来ずに『キャン』と鳴きました。



お爺さんとポチがどこかへ行ってしまうと、倉の陰から隣に住んでいる意地悪いじわるそうな爺さんが姿を現しました。

ずっと倉の陰で、さっきの様子を盗み見ていたのです。


「道理であのじじいがお金を持っている訳だ。

ワシもあの犬を使って、大儲けしてやろう」


 お爺さんが寝ている間に、隣の爺さんは嫌がるポチを無理矢理連れ出しました。

 最初は嫌がっていたポチでしたが、散歩へ行ける事が分かると、自分から積極的に夜の町へと出掛けて行きました。


しばらく歩いていると、ポチが急に立ち止まり、ある屋敷の敷地で地面の臭いをしきりに嗅いでいます。

 隣の爺さんは『来た来た!』と、心の中で喝采かっさいをあげていました。


「ここほれ、ワン、ワン」

 「ここほれ、ワン、ワン」

隣の爺さんは辺りを気にする事もなく、鍬でその場所を無心で掘って見ました。


「なんだこれは?」

隣の爺さんはテッキリ小判が出て来る物と思っていましたが、良く見るとボロ切れのように見えます。


「うわー」

隣の爺さんは、腰を抜かしてしまいました。

ナゼなら一緒に、人の骨も見えたからです。


「やばい、やばい」

隣の爺さんは腰を抜かしながらも、四つんいで震えながら逃げ出して行きました。


トボトボと夜の町を歩きながら自分の家まで帰って来ると、突然ポチが吠えだしました。


「ここほれ、ワン、ワン」

 「ここほれ、ワン、ワン」


 「なにを吠えている。

ここはお前の飼い主の、爺さんの家じゃないか」

しかしポチはしつこく吠えて、隣の爺さんに庭の地面を掘るのを強く要求してきます。


「ん? もしかしてあの爺の隠し財産が埋めて有るのか?」

隣の爺さんはこの家の爺さんが目を覚まさないうちに、急いで鍬でその場所を掘りました。


「うわー、また人の骨じゃ。

まさかこれ、数年前に姿を消したあの婆さんの骨か?

あの爺、人が良いような顔をして、こんな非道な事をしておったのか。

もしワシが知っているとバレたら、あの爺が殺しに来るかも知れん、やばいやばい」

隣の爺さんはバレないように、また急いで埋め戻しました。


翌日お爺さんは、掘り返された庭の土を見て激怒しました。


「ポチ、庭を掘ったのはお前か!

飼って貰っておる恩も知らずに、なに人に迷惑を掛けておるんじゃ、この犬畜生いぬちくしょうめ」

ポチは紐で木につながれていましたが、お爺さんは勝手にポチの仕業しわざと決めつけて、棍棒でポチの頭を散々に殴って、ついには殺してしまいました。


その様子を、隣の家の障子の隙間から覗いて見ていた隣の爺さんは、ポチが自分の代わりに死んだような気がして、大変可哀想に成りました。


夜、野ざらしに成ったポチの死体を持って帰り、隣の爺さんは自分の小さな家の側に穴を掘って丁寧に埋葬してあげました。

そして死んだポチの代わりに、ひとつの苗木を植えたのです。


苗木はまるでポチの魂が宿ったかのように、すくすくと順調に葉を広げて育って行きます。

隣の爺さんがこの苗木に時々水をやっていると、死んだポチが喜んでいるような気がして来ました。

そのせいなのか、苗木は1ヵ月後には見上げる程の大樹に育ったのでした。


するとポチの元の飼い主のお爺さんが、隣の爺さんの家へやって来て言いました。


「この木は儂の物じゃ。

儂の死んだ犬の栄養を吸って育ったんじゃからの、儂が自由にする権利が有る」

どうやらお爺さんは、隣の爺さんがポチの死体を持って行くのを、どこかで見ていたようです。


隣の爺さんは、そう主張するお爺さんの目を見て怖く成りました。

一見は普通に笑っているように見えるのですが、その目の色がポチを殺した時のように冷たい色をしているのです。


隣の爺さんが何も言い返せずにいると、お爺さんはこの大樹を自分の家から持って来た斧を使って、イキナリ切り倒してしまったのです。

 そして自分がうすを作る為の木の太い部分を切り取ると、そのまま転がして自分の家の方へと帰って行きました。


後にはバラバラにされた木片や木クズが散らばっていましたが、隣の爺さんは何も言えませんでした。


「もし文句を言ったら、あの斧がワシの頭を絶対にかち割ってただろうて。

ああ恐ろしや、恐ろじいや」


しばらくの間、恐ろ爺さんの家から木槌でのみを叩く音が聞こえて来ましたが、その音が止むと、今度は餅を作る為のきねで臼の米をく音に変わりました。


「ペッタンコ ペッタンコ」

「ペッワンコ ペッワンコ 臼で餅を搗きます、ペッワンコ ペッワンコ」

 餅を搗く音が段々と変な音に変わって行きました。

恐ろ爺さんはそれに激怒して、斧を持って来ると臼を叩き割ってしまいました。


夜、隣の爺さんがまた庭に忍び込み、ポチの臼をとむらってやろうと自分の家に持って帰りました。


翌朝、隣の爺さんがポチの臼を弔おうと思っていると、あの恐ろ爺さんがまたどこかで見ていたのか、やって来て文句を言いました。


「それは儂のもんじゃ。

欲しけりゃお金を払うんじゃ」

隣の爺さんは、ただ恐ろしくて何も言い返せずにいると、恐ろ爺さんは持って来た斧でまた割れた臼を粉々に叩きつぶすと、隣の爺さんをあざけるような顔で見て、粉々に成った臼に火を点けました。




すると二人の前に突如とつじょ、ポチの亡霊が現れました。

「ボクが犬畜生なら、アンタはお婆さんを殺した、ただの外道げどうじゃないか。

 飼って貰ってる恩だって?

アンタはボクとの散歩のおかげで、どんだけお金を手に入れたと思っているんだい。

恩知らずにボクを殺したのも、そっちだろ!

 

さらにボクの霊が宿った大樹を切り倒して臼を作り、それが気に入らなければ叩き割る。

せっかく隣のお爺さんがボクを弔おうとして呉れてたのに邪魔をして、勝手に燃やす。


それじゃ、あんまりだワン」



 +  -  ×  ÷  =  ¥



ポチの霊が怒ぶる時、僕は隣の意地悪そうな爺さんに変身していた。


 粉々に成った臼の燃える火から、大きな火の粉がいくつか飛び出して来て、恐ろ爺さんの家の方へと飛んで行くと、そのまま家の屋根に燃え移り、その炎が急速に大きく燃え広がって行く。


「大変じゃ、儂の家が火事じゃ!

お前、儂の家の火を直ぐに消すんじゃ」

恐ろ爺さんは勝手に隣の爺さんに命令すると、そのまま自分の家の方へと全力で走って行った。


「儂の金が、小判が、早く運び出さないと」

恐ろ爺さんは泥棒に盗られないように、厳重げんじゅうに布で包んで屋根裏に隠していた。

ポチとの散歩で、土の中に隠したお金を簡単に見つけて手に入れていたので、自分は天井裏の方が安全だと考え、そこへ自分の全財産を隠していたのだ。


乾燥している木の家は燃えるのが速い。

あっと云う間に家全体が燃え上がり、黒い大きな煙を空へと吐き出しながら、恐ろ爺さんモロ共燃え尽きて行った。




数年後、恐ろ爺さんの家跡には、ナゼだか1本の大きな桜の大樹が育っていた。

おそらく、これは死んだポチの仕業しわざだろう。

その証拠に、僕は死んだポチの声を聞いた。


「満開に花を咲かせるワン、ワン」

「美しい桜の花を咲かせるワン、ワン」


翌日、季節はずれの満開の桜が、僕が住む家の隣で咲き誇っていた。


僕はその桜を見て、初めての小学校の入学式で見た、校庭に美しく咲く、満開の桜の木を思い出していた。

僕はその時、その光景に、その美しさに、思わず見とれて圧倒されていたのだ。




この話は、人の本質は見かけでは分からないと云う事なのかな。

 確かに完璧に演技されていたら分からないと思うけど、素の姿を見れば割とバレテいる人は多いと僕は思う。



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