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童話国物語  作者: 馬論
4/26

桃太郎

 また僕の意識が俯瞰するように宙に浮かぶ。

今度は桃太郎の世界に居るようだ。


あのカチカチ山の悪戯タヌキは、魔王の仮の姿なのだろうか?


この童話は、桃から生まれた桃太郎が、3匹の共と一緒に鬼ヶ島の鬼退治をする話だ。




昔、ある所にお爺さんとお婆さんが二人で住んでいました。


お爺さんはかまを持って山へと登って行き、薪にするための柴を刈って集めています。


お婆さんは大きなたらいよごれた洗濯物を入れて川へ洗いに出かけました。

お婆さんが川の水につけて着物を洗っていると、川上から大きな桃が流れて来ます。


「美味そうな桃だわ」

お婆さんはれるのもかまわず、川の中央へと立つと大きな桃に掴みかかりましたが、そのまま川を流されて行きます。

でも決して桃を離そうとはしません。


「お爺さーん、助けてー」

お婆さんの助けを求める声が、山のお爺さんの所まで聞こえて来ました。

 山から川の方を見ると、大きな桃に掴まったお婆さんが川下へと流されて行きます。


お爺さんは急いで山を下りますが、歳のせいで足がついて行かず、前へ倒れ込んでしまい、ドンドン転がって山を下りる事になり、そのまま気絶きぜつしてしまいました。


結局けっきょくお婆さんは、最後まで桃を離さず、随分ずいぶんと流された川下でへりへと乗り上げました。


盥に大きな桃を入れて家まで戻ったお婆さんは、お爺さんの事もすっかりと忘れて、包丁で桃に切れ目を入れます。


その時、大きな桃が二つに割れて、大きな赤ん坊が飛び出すように生まれて来ました。

お婆さんはガッカリします。

ナゼなら桃は内側から大分だいぶ食べられていたからです。




赤ん坊は桃太郎と名付けられ、二人に育てられながらドンドンと、大きく成長して行きました。


ある日、桃太郎が言いました。


「俺は噂に聞く、悪さをする鬼ヶ島の鬼を退治しに出かけます」

お婆さんは、そんな桃太郎のためにキビ団子だんごを作って持たせてやりました。


鬼ヶ島へ行く旅の途中で1匹の野良犬のらいぬと会いました。

「俺と一緒に鬼ヶ島へ悪い鬼退治に行かないかい?」

「お腹が減るから嫌です」

「じゃあキビ団子をひとつげるよ」

「団子ひとつじゃ駄目です。ボクを飼ってください」

「鬼の宝物が手にはいったら、君を飼うよ」


しばらく歩くと桃太郎と犬は、野猿と出会いました。

「君も鬼ヶ島へ悪い鬼退治に行かないかい?」

猿もキビ団子ひとつと飼う事で、一緒について行く事になりました。


またしばらく行くと、今度はきじがいました。

「雉君も鬼ヶ島へ鬼退治に行かないかい?」

雉もキビ団子ひとつと飼う事で、一緒に行く事になりました。


袋の中にはキビ団子が3つしか入っていなかったので、桃太郎は結局ひとつも食べる事が出来ませんでした。



桃太郎と犬、猿、雉の3匹は、とうとう鬼ヶ島が見える海岸までたどり着きましたが、海を渡るための舟がありません。

そこで近くの漁村で舟を借りる事にしました。


漁村のお婆さんを見つけて声をかけます。

「すみません、あれが悪い鬼が住む鬼ヶ島ですよね?」

「そうだよ、いつも舟でやって来ちゃ、この漁村の魚や野菜を盗っていく悪い鬼なんだよ」

「それでは、俺たちに舟を貸してください」

「舟なんか何に使うんだい?」

「今から鬼ヶ島に行って、悪い鬼を退治して来ます」

「よけいな事は、しなくていいよ!」

桃太郎は断られてしまいます。


どうして舟を貸さないんだ?

悪い鬼を退治して欲しくないのか?


雉が古い小さな舟を見つけて来ました。

見に行くと、桃太郎と犬、猿なら十分に乗れる大きさです。


桃太郎が舟を海へと押し出すと、犬、猿、雉が先に舟に飛び乗りました。

 そのせいで桃太郎は乗るタイミングが合わず、しばらく海の中を走るはめに成ります。


やっと舟に乗れた時には、下半身がビショビショになっていました。

さらにこの舟の底には、小さな穴が開いていて、そこから海水が入り込んで来ます。


足で穴をふさぎますが、それでは海水は止まりません。

仕方なく犬の尻尾を穴に入れようとして、腕を噛まれました。

猿の毛をむしろうとして、爪で引っかれ、雉の羽根を抜こうとして、嘴で頭をつつかれました。


結局最後は自分の草鞋わらじ稿わらを詰めましたが、苦労して海水が止まった時には、もう鬼ヶ島に舟が着いていたのです。


舟から飛び降りた桃太郎の片足は裸足はだしです。

腰につけた木刀を抜き、かまえるといつでも戦える準備がととのいましたが、肝心かんじんの鬼が見当みあたりません。

〈まさか島を間違えた?〉


そこへ雉が飛んで戻って来ました。

「鬼はあっちの方にいます」


案内されて桃太郎と3匹が向うと、そこには鬼たちが集まって、野菜が沢山詰め込まれた箱を運んでは、幾つも積み重ねて置いています。

そのそばには大きな溜池もあって、別の鬼たちが水槽の中の魚を溜池へと移しています。

「漁村のお婆さんが盗まれたと言っていた、魚や野菜があったぞ」


桃太郎は木刀を構えると言いました。

「この世の鬼を……、この島の悪い鬼を退治する桃太郎、ここに見参けんざん!」


鬼は桃太郎たちを見て『どこの田舎者だべ?』と思っていましたが、突然木刀でなぐりかかられ、雉に突かれ、猿に引っかれ、犬に噛まれて、鬼たちは鬼ヶ島の中を逃げまどう事に成りました。


「何するだ! めれ」

「うるさい、俺は悪い鬼どもをやっつけに来た桃太郎だ」

「オラたちは何も悪い事なんかしてねーだよ」

証拠しょうこはあそこにある、盗んだ野菜と溜池にある魚だ」

「ありはオラたちが畑で収穫した野菜と、海で漁をして獲って来た魚だで」

「嘘をつくな!」


桃太郎は聞く耳を持たず、木刀で鬼の頭を何度も殴って来ます。

鬼たちはなんの抵抗もせずに、ただ殴られて次々と失神して倒れて行きました。


しばらくすると、もう立っている鬼は居なく成りましたが、桃太郎はしつこく一番大きな鬼を殴っています。

「おい、財宝はどこに隠して有るんだ?」

「そんな物は、ここにはねえだ」

「隠すとためにならんぞ!」

また桃太郎が大きな鬼を殴りました。


そこへ雉が飛んで来て、小さな声で桃太郎に言いました。

「確かに向こうに野菜畑があって、ってる野菜と積んである野菜が同じ物です」

「えー、でも魚は盗った物だろう?」

「鬼ヶ島には漁舟も網も有りますが、あの漁村ではまともな舟も網も畑も有りませんでした」

「まさか、俺は騙されていたのか?」




「なんも悪い事なんかしてねーのに木刀で殴られ、無実を訴えても聴きもせずに殴られ、全く無抵抗なのにそれでも殴られる。

 宝物はねぇと言っても、信じず嘘だと決めつけてさらに殴って来る。


オラたちが一体何をしたと云うだ。

噂を鵜呑うのみにして暴力を振るうなんて、

これじゃー、あんまりだべ」



 +  -  ×  ÷  =  ¥



鬼たちの反撃が始まるその時、宙に浮かぶ僕はまた桃太郎に変身していた。

〈今回説得するのはとても無理な話だ。完全に桃太郎の方が一方的に悪い〉


倒れていた鬼たちも徐々に起き上がり始める。

〈全部で20人ほどか、20対4か?

あれっ、ナゼ3匹がこっちを睨んでる〉

「ボクたちもあの桃太郎に、上手く騙されたんです。

ボクたち3匹は、やられた鬼さんたちの味方ですよ」


同じ加害者なのに、犬、猿、雉の3匹は被害者面して完全に寝返っていた。


「あっ、泥棒が野菜を盗んでいる!」

僕は木刀で、鬼たちの後方を指し示す。


「どこだ? 泥棒はどこへ行った?」

鬼たちが泥棒を探して後方をうろつく間に、僕は乗って来た舟を海へと押し出して飛び乗り、必死でぎ続ける。


鬼たちはようやく逃げる僕に気づき、皆が漁舟に乗って追いかけ始めた。

 鬼たちは力持ちばかりで、櫓を漕ぐスピードが僕の倍程速く、直ぐに僕の乗る舟に追いついて来た。


後少しで海岸にたどり着くと云うその手前で、先頭に居る鬼が投げた網が大きく広がって、舟に乗る僕ごと捕えてしまった。




鬼が網のかかった舟の中を覗き込むと、底には大きな穴が開いていた。

 鬼たちが辺りを見回し探していると、海岸近くで桃太郎が海から浮かび上がり、海岸目指して泳いでいる。


鬼たちも海岸目指して舟を漕ぎ始めた。

桃太郎が海岸を走って逃げ出し、少し遅れて到着した鬼たちも、桃太郎を追って走り出してゆく。


桃太郎は近くの漁村に逃げ込んだ。

鬼たちも漁村の中まで追いかけて行くと、そこには貧相ひんそうなカラダで頭に角が生えたカツラを被り、細い金棒かなぼうを持つ年取った鬼が10人程居た。

そばには盗んで来た野菜が入ったかごが幾つか置いてある。


どこからか桃太郎の声が聞こえて来た。

「泥棒はそいつらだ!

鬼に化け、悪さをし、その罪を全部鬼ケ島の鬼になすりつけていたんだ」


 一番年上のニセ老人鬼が、その場に土下座どげざをして涙ながらに言う。

「鬼様、許してくだせい。

ワシらの漁村は、若者が老人を捨てて全て出て行ってしまい、漁をする舟もなく、こうするしか生きる道がなかったんだす」


鬼たちはしばらく黙ったままだったが、一番大きな鬼が漁村のニセ鬼たちに言った。

「いや、許せねえべ。

自分たちの罪を、オラたちのせいにしただ。

その責任をちゃんと鬼ヶ島で取ってもらうだよ」


鬼たちはニセ鬼老人たちを自分らの舟に乗せると、鬼ヶ島へと連れて返って行った。




僕はニセ鬼老人たちを乗せた舟を、海岸で見送っていた。

 その場にはナゼかあの3匹も一緒に居た。

「あれっ、君たちは鬼と一緒に行かないのかい?」

「行けないですよ、ボクたちも無実の鬼さんを傷付けたんだから。

それにしても、あのニセ鬼たちはどう成るんですかね?

鬼ヶ島で奴隷どれいのような暮らしをするんですかね?」

「それはないよ、君も鬼たちが舟を漕ぐ速さを見ただろう。

あの鬼たちは全員が力持ちなのに、いくら殴られても全然殴り返そうとはしなかった。

鬼たちは優しんだよ。それも特別に優しいんだ」

 〈きっとあれが本当の強さに違いない。

あの鬼たちなら、ニセ鬼とも上手く暮せていけるのに違いない〉


見送る舟が見えなくなっても、まだ物語は終わらない。

これから僕は、どうしたらいいのだ? 分からないので、取りえずお爺さんとお婆さんが住む家へと帰る事にした。


僕が帰り道を歩いていると、3匹も一緒について来る。

「あれっ、君たちはなんで僕について来るんだい?」

「だって飼うって約束したじゃないですか」

「それは鬼の宝物が手にはいったら、の約束話だろ。

僕は何も手に入れてないよ」


僕が手ぶらの両手を振ると、3匹は諦めて元いた場所へと帰って行った。

〈それに約束したのは、前の桃太郎だからね〉




僕が家へ帰るとお爺さんとお婆さんが喜んで出迎えて呉れた。

二人が辺りを見回している。

「鬼ヶ島に悪い鬼が居るって云う噂は、全くの嘘だったんだ。

だから宝物は何も手に入らなかったんだ」


二人は明らかにガッカリして、そのまま寝込んでしまった。

余程よほど良い物が手に入ると、期待していたんだろう。


僕もする事がないので、一緒に寝る事にした。




童話の鬼ヶ島の鬼たちが例え悪い奴らだとしても、その宝を盗んで幸せに成る話には、僕はとても納得出来ない。



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