白雪姫
僕の意識は、白雪姫の世界を漂っていた。
この童話は、白雪姫の美しさに嫉妬した王妃が、毒リンゴで殺す話だ。
(ブスをネタにしています)
昔ある王国に、大変美しいお城が有った。
城壁は雪のように純白で、尖塔の屋根はまるで赤い血のような色をしていた。
この美しいお城には、若い王妃様が住んでいらして、大広間に有る魔法の鏡に向かって、質問を投げかけた。
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しくないのは誰?」
「世界で一番ブスなのは王妃様です」
「キーッ、美しくないと言いなさい」
王妃様は側に有った花瓶を魔法の鏡向かって投げつけましたが、実体がない魔法で出来ているので花瓶は鏡を通り抜けて、壁に当たって砕けてしまいました。
王妃様はまだ三十前ですが、生まれた時から老け顔で、皮膚も弛み気味で、肌に若さの弾力が少しも有りません。
その為、幾ら化粧で誤魔化そうとしても、隠しきれないのでした。
そんな王妃様も、やがて身籠り、ひとりの女の子が生まれて来ます。
その子は美しい雪のようなお城から、白雪姫と名づけられましたが、王妃様と似た老け顔で、やはり肌に弾力が有りません。
白雪姫が大きく成長した時、僕は白雪姫へと変身していた。
〈早くも女主人公に変身か、でもこの展開は魔王様、チト酷くないか〉
王妃様は大広間に有る魔法の鏡に向かって、質問を投げかけました。
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しくないのは誰?」
「世界で一番ブスなのは白雪姫です」
この魔法の鏡の返事に、王妃様は狂気して喜びました。
早速、白雪姫を大広間に呼びつけて、魔法の鏡に質問しました。
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番ブスなのは誰?」
「世界で一番ブスなのは白雪姫です」
王妃様は白雪姫を指差して、大きな口を開けて笑っています。
よほど嬉しいのか、目には涙まで溜まっていました。
この魔法の鏡の行事が、三日程続いた後、僕はこのお城を出て行く事にした。
多分そうしないと話が進まず、きっと魔法の鏡の行事が続く事に成ると思う。
白雪姫が城を逃げ出した事を知った王妃様は、家来に捕まえて来るように命じます。
「私よりブスな女を、このまま逃がして堪るものですか」
家来は白雪姫を森の中で見つけましたが、あまりにもブスなので、お城に連れて帰るよりはこの森で暮らす方が良いだろうと、王妃様の心も知らず、逃がしてしまいます。
家来は白雪姫が森で死んでいたと、嘘の報告をしました。
それを聞いた王妃様の悲しみが、止まりません。
「なんで私を残して死んでしまったの、私の白雪姫。
あなたは私の希望だったのに、とても辛くて悲しいわ」
僕は森をうろつき周り、やっと小人が住む洞窟を見つけた。
中へと入って行くと、年老いた7人の小人がベッドに横たわっていた。
「こりゃ驚いた、えらいベッピンさんじゃ」 「そうバッテン、美しかオナゴじゃ」
「そうがすな、ワイも賛成するがす」
「ほんに、ほんに、よかよか」
「だべー、驚きだべー」
「ホンマかいな、そうかいな、ええオンナ」
「ずらー、ずらー」
白雪姫に変身した僕は、ナゼか美人として小人たちにモテていた。
話を聞いてみると、皆がまだ二十歳前だと云う。
どうやら小人たちの美人の基準が、僕たちとは全く違うようだった。
僕はこの洞窟で、7人の小人たちと一緒に暮らして行く事に成った。
小人たちが仕事に出かけた後に、掃除、洗濯、料理までする事になったのだが、中学生だった僕には、どれも大した経験がない。
その僅かな経験も、掃除機や洗濯機を使っての話だからあまり意味はない気がする。
洞窟部屋に有った箒を持って試しに掃き出して見たのだが、埃が部屋に充満して咳き込む結果と成っただけだった。
洗濯も試しに少しの洗い物を大きな桶に入れて、近くの井戸へ持って行ったのだが、水を汲み上げるだけで、重労働だった。
さらに手揉み洗いもしてみたが、これも凄く力がいる大変な仕事だった。
もしこれが冬の冷たい水ならと、考えただけでもゾッとする。
僕は料理をするまでもなく『昔の女の人は大変だったんだな』と実感していたが、その認識さえも甘かった事を、火起こしで経験する事と成る。
慣れないナイフで野菜の皮を剥き、適当な大きさに切って鍋に入れ、薪にイザ火を点けようとして僕は固まってしまった。
「マッチがない」
どこを探してもマッチは見つからなかった。
やはり火打石で火を点けるようだ。
僕は話では知っていたが、実際にはナゼこんな物で火が点くのか、と疑問に思っていた人間だ。
そんな人間に、本当に火が起こせるのだろうか?
小人たちが洞窟へと帰って来ると、井戸近くの木の枝に何かの布が引っ掛かっていて、その布から水が滲み出してポタリポタリと下に落ちていた。
「こりゃ、儂のパンツかいのう」
「だべー、パンツが泣いているべ」
小人たちが皆で笑う。
洞窟内へ入って行くと、疲れてベッドで寝てしまった白雪姫が居た。
「こりゃまた、なんじゃらホイ」
「なんか前より汚れておらんかいの」
「料理出来てねえずらー」
「ええオンナに無理ゆうたらアカン」
どうやら小人たちにとっての美人の白雪姫は、多少の事は許して貰えるようだ。
美人はやはり、それだけで得するようだ。
ある日、王妃様が大広間の魔法の鏡の前に立って居ました。
白雪姫が死んだと聞いてから、質問するのをずっと止めていたのです。
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しくないのは誰?」
「世界で一番ブスなのは白雪姫です」
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番ブスなのは誰?」
「世界で一番ブスなのは白雪姫です」
王妃様は白雪姫が死んでいないと知って、大喜びで大広間を走り回りました。
家来を3人呼んで、白雪姫がどこに居るか森の中を探させました。
「王妃様、白雪姫を見つけました」
「どこに居たの?」
「7人の小人が住む洞窟に、一緒に暮らしております」
王妃様は老婆に変装しましたが、見た目はあまり変わりませんでした。
黒いマントに包まれ、白雪姫の様子を探りに森の洞窟へと出かけて行きました。
老婆が洞窟の前に有る草むらの中に隠れて様子を伺うと、白雪姫が7人の小人と楽しそうに踊っています。
しかも驚いた事に小人たちが、白雪姫の事を世界一の『美人だ』『ベッピンだべ』『ええオンナや』と盛んに褒めまくっているのです。
「魔法の鏡に『世界一のブス』と云われ続け、白雪姫が生まれて初めて私は『世界一のブス』と云われなく成ったのに、なんでアナタは小人たちに『世界一の美人』と呼ばれているの?
それじゃ私があんまりじゃないの」
+ - × ÷ = ¥
しばらくして老婆に変装した王妃が、毒リンゴを持って僕の前に現れた。
〈王妃様、バレバレなんですが〉
老婆は何とか僕に毒リンゴを食べさそうと一生懸命に成っている。
「このリンゴはね、特別に取り寄せた物なんだよ。
美味しいよ、ひと口で良いんだよ食べてごらん」
「お婆さんが先に食べてみて」
「わ、わたしゃ歯が悪いんだよ。
リンゴを齧ると血が出てしまうんだよ」
僕が毒リンゴを持つお婆さんの手を顔の方へと近付けると、お婆さんはイヤイヤをして顔を背けている。
そこへ小人たちが帰って来た。
ナゼだか一人多く、8人も居る。
「白雪姫、ワイらの国の王子様を連れて来たで。
ワイらの話を聞いて、結婚したいそうや」
「今私は忙しいんです」
「誰か助けて、この娘が無理矢理ワタシにリンゴを食べさせようとするんです」
「それなら、ボクが食べるダス」
僕が止める間もなく、小人の王子が毒リンゴに齧りつき、口から泡を吹いてその場に倒れ込んでしまった。
7人の小人たちが慌て出してオタオタしているが、老婆に変装していた王妃様はスカートの裾を手でたくし上げ、全速力で森から逃げ出していた。
〈王妃様の逃げ足が異常に速いな〉
僕は変な所に感心していたが、でもこの話はこれで良いのだろうか?
まあ童話の中にはよく分からない話も多いし、別に構わないか。
不細工な小人の王子様が、毒リンゴを食べて死にました、ハイ終わり。
何かここで話は終わりそうもないな。
「キスじゃー、白雪姫のキスでワシらの王子様が生き返るんじゃ」
「そうでんな、ここはキスしかおまへん」
「だべー、だべー」
僕が想像したくなかった展開に、話が転がって進んで行く。
〈キス、それだけはないな〉
僕は不細工な王子の両足を持つと、そのまま持ち上げて上下に揺らした。
すると王子の口から、ポロリと毒リンゴの欠片が落ちて来た。
どうやら毒リンゴの欠片が喉に引っ掛かって、気を失っていたようだ。
「ワイも逆さまが、ええな」
「んだ、んだ」
変な声が聞こえて来るが無視する。
王子は何事もなかったように、改めて僕に求婚して来た。
「急にそんな話をされても困ります。
考えてみますので、また1ヶ月後に来てください」
「そうダスな、いきなりな話で、すまんダス。
そう云う事なら、また1ヶ月後に改めて求婚する事にするダス」
不細工な王子が白ロバに乗って、名残惜しそうに自分の国へと帰って行った。
〈1ヶ月もあれば、この話も終わっているだろう。
もし駄目でも、どこかに逃げる事が出来ると思う〉
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番美しくないのは誰?」
「世界で一番ブスなのは白雪姫です」
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番ブスなのは誰?」
「世界で一番ブスなのは白雪姫です」
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番の醜い女は誰?」
「世界で一番醜いのは王妃様です」
「なんでよ!」
また魔法の鏡に向って、花瓶が飛びました。