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童話国物語  作者: 馬論
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童話国の虫たち

僕が転送されてやって来たのは、小さな子供が描いた、どこかの絵本世界だった。


 地平線まで真直ぐに伸びる茶色い歩道の両側は、緑色の草原の絨毯じゅうたんが敷かれ、その上には枝別れの少ない樹木に緑色の綿飴わたあめを乗せたような森林が、僕の目の前から地平線まで延々と続いている。

 

地平線の中央には、薄紺色の空を背景に灰色のおにぎり山が鎮座ちんざしており、山の中央辺りには真黒なお城が建っている。


空に浮かぶ雲は薄灰色で、空に貼り付けられた太陽は、血が固まった後のドス黒い赤色をしていた。

あまり健康的な色合いとは云えないようだ。


この世界は小さな子供が描いた絵のように、遠近感がまるでなく、遠くにある物も全部同じ様な大きさをしている。

どうやら絵の上方に行くほど、距離が離れているようだ。

見える世界は一応3次元ではあるが、どこの景色を写真に撮って見ても、きっと子供の2次元的な絵に映ってしまう。


神様は僕に『女の子が隠れている場所の謎を解き明かして』と言っていたが、解くまでもなく既に見えている。

明らかに丸見えである。

この景色はどう見ても、女の子はあのお城に居ると言っているし、道も一直線でむしろ誘われているようだ。




僕がお城に向かって茶色い歩道を歩きだすと、自分のカラダの異変に気がついた。

手足の形がおかしく、しかも緑色をしている。さらに頭には触手のような2本のツノが生えており、なんと短くて太いシッポまでついていた。


まるで何かの着ぐるみを着ているようだ。

『この世界の神様は小さな女の子だ』と言っていたから、僕は人間ではなく、たぶん疑似的な虫に変身させられたのだ。


〈子供の神様は容赦ようしゃがないな。人間扱いされてないよ〉


しばらく道を歩いていると草地が現れ、低い木もまばらに生えていた。

その長い草を割るように顔を出して、1匹の虫が僕を呼んでいた。

「おーい、イモムシ。こっちこっち」


手招きするバッタの方へ歩いて行くと長い草地の中へと連れ込まれ、小さな空き地の中央には大きな葉を幾つか広げた1本の木が生えていた。


下の葉にはデフォルメされたテントウ虫、カマキリが乗っていて、その上の葉の右側にクモが、そして空いてる左側の葉にバッタが飛び乗った。

「お前が童話国の新しい勇者か?」

成程なるほど、確かに女の子は神様と云うよりも、城に住む容赦のない魔王の方がイメージはピッタリだな〉


「すると皆さんも、この童話国に送られた勇者様なんですか?」

バッタが『説明するから』僕に、一番上にある葉に登れと言う。

どうやらこのバッタがボスらしい。


こんなイモムシ着ぐるみで『木なんか登れる訳がない』と思うのは間違いだった。

まるでカラダが木に吸いつくように、スルスルと一番上の右の葉に簡単に登れた。

ナゼか左側には葉がついていない。

確かにこの童話国には、独自のルールが存在しているようだ。


「俺が勇者2号で、カマキリ3で、テントウ虫は4で、クモが5号だ」

僕は神様が送り込んだ、6番目の勇者になるようだ。


「勇者1号さんはいないのですか?」

「ああ、別の場所にいる。

ところでお前はなんて言われて、ここへやって来たんだ?」

 「『この世界に閉じ籠もる女の子を、解放すれば生き返らせてやる』ですね」

「やはりか、お前も神に騙されたんだよ」

「そうなんですか?」

〈僕の場合は騙されたと云うより、脅されたの方が近いと思うけど〉


「『時間は止める』って言いながら次々と、この世界に新しい奴が送られて来るだろ。

これはどう考えてもおかしい。

 もうとっくに俺たちのカラダは処分されていて、生き返るなんて不可能に違いないんだよ。

だから例えお前が頑張っても、全て無駄に終わるぞ。

無限地獄に落ちるよりも、ここで俺たちと一緒に暮らした方が絶対に良いぞ。

ここなら腹も減らないし、苦しむ事もないからな」


「皆さんも何か、童話に関係しておられるのですか?」

「俺は編集長だった」

バッタはそう云い、カマキリが漫画家で、テントウ虫は素人作家で、クモが学校の図書委員だったと、バカにしたように見ている。

 〈どうやら人材不足は、どこにでもあって深刻らしい。

だから僕みたいな、平凡中学生にも声がかかるのだ〉

 

「皆さんはどこまで攻略しているのですか?」

「はははっ、俺たちは地獄に落ちなければ、それで良いんだよ。

小学生の女の子では、助け出すお姫様役にも成らないだろ」

皆が笑っている。

 〈こんなやる気が全くない者を送り込んで、 神様が上司なら僕は無能の烙印らくいんを押すだろう〉




「来たぞ!」

クモが叫ぶと、テントウ虫とカマキリは低空飛行で飛び立ち、バッタは草むらへとね、クモは糸を飛ばしターザンの如く移動して行く。


空からは1匹のスズメが、一番上にいた僕を目指して急降下して来る。

この世界の勇者の敵はスズメだった。

僕も逃げようとしたが、カラダと葉の間をクモの糸がつないでいた。


「う、動かない」

力いっぱい引っ張っても、カラダにくクモの糸は切れなかった。

〈もう間に合わない〉

僕は自分自身のカラダを急回転させながら、葉から飛び降りた。


くちばしを突き出し、両翼を折りたたみながら、弾丸に成ったスズメが空中の僕を捕えようとした瞬間、クモの糸がピーンと張り、スズメは目標の僕を見失って、そのまま通り過ぎてしまった。


僕はミノムシ状態でクルクルと空中を回り続けていたが、ようやく糸がネジ切れて、下の草むらへと落下する事ができた。


スズメがピョンピョンと跳び跳ねて、草むらに隠れた僕を探しに来る。

今動けばおそらく音で位置がバレる。


スズメは時々嘴で草むらを突きながら、確かめるように近づいて来る。

草むらにひそむ僕を見つけたスズメは、羽をはばたかせて嘴で襲いかかって来た。


「ヂューン」

僕が突き出したれ枝の先が、スズメの目をとらえた。

激痛に襲われ逃げ回るスズメの目には、涸れ枝が刺さったままだ。

僕はさらに涸れ枝を探し出し、止めを刺そうと駆け寄るが、恐れに捉われたスズメが大きく飛び立ち、そのまま空を飛んで逃げて行った。




童話国の最初の敵はスズメではなく、前の勇者たちだった。

おそらく僕は6号ではなく、間に何人かいたのに違いない。

自分がボスになる為に邪魔じゃまな1号も、きっとあのバッタのわなにやられたと思う。


あんな奴こそ無限地獄行きでしょうが、神様は全く人を見る目がない。

おそらく人間なんか『よくしゃべる猿』ぐらいにしか思っていない。


自分勝手な人間は、自分の事しか考えない。

他人の事を考える時は、どうやって自分の思い通りに動かして利用しようとか、どう騙せばとくとしか考えないから、他人を思いやる心がない。


だから相手が理解できないし、傷つけた事さえ気づかない。

相手を正しく理解するには、他人を思いやるやさしさがなくては出来ない。

その優しさがないから、間違った自分勝手な解釈をするのだ。


要するに、自分勝手な人間を相手にしても意味がない、無駄な時間を過ごすと云う事だ。

僕はまた1本道を歩き出した。




しばらく歩いていると、入口が突然道の上に現れた。とは云っても見えるのは大きな門だけだ。

門には『童話国入口』と書いてある。

ここを通って行くと、童話国の中へと入って行けるのだろう。


でも僕は門を無視してその横を通り過ぎてゆく。

どうせなら楽をしてお城まで行きたい。

ここで無理をする必要は全然ないと思う。


しばらく歩き続けて見たが、僕は門から全然離れていなかった。

さすがに魔王は甘くないようだ。

『不正は絶対に私が許しません』とか云ってそうだ。


僕は仕方なく童話国入口の門がある場所まで戻って来た。

この中に入るには、さすがに勇気がいる。

既に死んでいるので、これ以上死ぬ事はないだろう。

後は無限地獄よりも、苦しまない事だけを祈るだけだ。




僕のカラダが童話国入口の門を通過すると、イモムシのカラダがまるで溶けて行くように消えていった。



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